“ノーブラで外出できる服”の衝撃…「決してイヤらしいことではない」ユニクロが変えた女性下着は今、ここまで進化している

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「『ノーブラ=いやらしい、だらしない』と連想されるのではなく、『ノーブラで過ごす選択肢もある』という認識が広がればいいなと思います」
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「キツい」「ズレる」「蒸れる」–多くの女性が、ブラジャーに対してこのような不満を抱いている。ある調査によると、7割近い女性が「ブラジャーから解放されたい(できれば着けたくない)と思ったことがある」と回答している。
そこで各社は、こぞってストレスなく着用できるタイプのブラジャーなどを開発し始め、ヒットしている。さらには“ノーブラで外出できるウェア”まで登場した。冒頭の発言は、その「ブラレスウェア」を手掛けるキャンプ社の榊原美歩社長によるものだ。
ブラレスウェアブランド「no-bu」を立ち上げたキャンプの榊原美歩社長(左)と鈴木愛子COO 写真提供:キャンプ
榊原氏は「実は多くの女性が『ブラジャーから解放されたい』と思っている」とも話す。全国の30~50代の働く女性300人を対象に同社が実施した調査によれば、63%が日頃着用しているブラジャー(特にワイヤー入り)に対して、不快感や不満を感じていた。
不満の内訳を見ると「締め付けや圧迫感がつらい」(40%)、「肩ひもがずれ落ちやすい」「汗で蒸れて不快」(ともに35%)、「ワイヤーが当たって痛くなる」(32%)が上位にあがっている。

「ブラジャーから解放されたい(できれば着けたくない)と思ったことがあるか」という問いに対しては、29%が「よくある」、39%が「時々ある」と回答。7割近い女性がブラジャーの着用をわずらわしいと感じた経験があり「夏場にそうした傾向が高まる」という声が多かった。
調査では「時々外す」も含め、半数が自宅ではノーブラで過ごしている実態も浮き彫りに。特に在宅勤務時は、36%が一日中ノーブラで仕事をしているようだ。榊原氏やキャンプCOOの鈴木愛子氏も、入浴後やサウナに入った後など、リラックスしたいタイミングにノーブラで過ごす機会が多いという。

「頻繁にではありませんが、当社の調査によると35%がノーブラで外出したことがあるそうです。過半数の女性が『できればブラをしたくない』と思っているけれど『人の目が気になる』『バストが垂れてしまうのが心配』という理由から、やむを得ず着けているのが現状かなと思います」(榊原氏)
こうした女性たちの不満は、ブラジャー市場にも大きな変化をもたらした。
近年は、寄せて上げてバストラインを美しく見せる「ワイヤーブラ」が下火となり、代わりに、ワイヤー不使用で締め付け感を軽減した「ノンワイヤーブラ」や「ブラトップ」が躍進。ワコールの調査によれば、2023年度には「ノンワイヤーブラ」が「ワイヤーブラ」の市場規模を上回ったという。
このトレンドを主導したのが、2003年に「ワイヤレスブラ(ノンワイヤー)」、2008年に「ブラトップ」を発売したユニクロだ。当時は、ワイヤーブラが市場の約9割を占めていたが、多様化する女性の生き方を見据え、快適な下着が新たな選択肢になると予測した。

2011年には、従来型であるワイヤーブラの販売をやめ、ノンワイヤーブラへ一本化した。直近の製品では、体温によってじんわり伸びるパーツを使用した新構造「3Dホールド」を採用し、着心地に加えてフィット感も追求している。
当初はインナーとして登場したブラトップは、今では洋服のように着られるタンクトップやワンピースなどにラインアップが広がっている。「これ1枚で外出できる」として、2023年ごろからは海外でもトレンドになった。ユニクロによると、2024年の海外でのブラトップの売り上げは、2022年比で2倍以上になったという。
ユニクロを運営するファーストリテイリング(以下、ファストリ)は、ノンワイヤーブラに特化した戦略により、女性用下着の国内市場シェアで1位を獲得。英調査会社ユーロモニターによると、2020年には前年1位だったワコールを抜き、2022年時点でも21%で首位をキープしている。
着心地重視の傾向は、ワコールやトリンプも同様だ。ワコールでは、2020年に発売したブラトップ「くるしゅうない(現:シンクロブラトップ)」が、シリーズ累計販売数130万枚を突破(2025年2月時点)。2025年春夏には、2016年に誕生したブランド「GOCOCi(ゴコチ)」を「ノンワイヤーでおしゃれを思い通り楽しむ」というコンセプトにリニューアルした。
トリンプでも、2013年から展開する着心地重視の「sloggi ZERO Feel(スロギー ゼロフィール)」シリーズが累計販売枚数1200万枚と好調(2025年3月末時点)。同シリーズのブラジャーは全てノンワイヤーだ。
ブラジャー自体の着心地を追求するだけでなく、最近ではノーブラで着られる服という大胆なコンセプトの新ブランドも登場している。
2024年に誕生したブランド「no-bu(ノーブ)」は、ノーブラで着られる「ブラレスウェア」をコンセプトに掲げる。2024年、25年と2度にわたって応援購入サービス「Makuake(マクアケ)」で販売し、2025年は目標の30倍以上となる購入金額を達成。ブラジャーを着用しないという選択肢を求める女性が多いことが明らかになった。

「開発のきっかけは、フィンランド旅行です。現地では、ノーブラで街中を歩く女性が多く、販売している女性用水着にもパッドが入っていないんです。日本とは全然違うなと驚きました。大好きなマリメッコの水着を購入したくても『日本では(乳首の突起が目立つので)着られない』とあきらめました」(鈴木氏)

旅行後、榊原氏と鈴木氏は「ブラジャーの在り方」に着目。調査すると、約7割の女性が日頃着用しているブラジャーに不満を持っていた。そこで、女性が快適に過ごす新たな選択肢として、ノーブラで着られるTシャツを製作することにした。
開発では、バストトップの隆起を押さえつつ締め付け感をなくし、外出時にも着られるデザインにするよう留意。バストが当たる部分に、やわらかいウレタンパッドと凹凸感のある裏地を重ねて縫い付け、薄手ながら隆起をカバーする仕様としている。

「何度も改善を重ねて、現在の仕様に行き着きました。Makuake(マクアケ)で発売した第1弾では、『パッドの縫い目部分が隆起して、乳首のように見えてしまう』『パッドの長さが足りない』といった不満の声もいただきましたが、そうしたフィードバックを改善したのが最新製品です」(榊原氏)
バストを支えず、快適性に振り切ったno-buのコンセプトは「ありそうでなかった」と支持を得た。購入者は30代後半から50代の女性が中心で、自宅やジムの帰り道、温泉・サウナの後など、リラックスしたいタイミングで着用する人が多いという。
「自宅で着用する方が、これほど多いのは意外でした。夫や息子など家族の目が気になるけれど、締めつけ感からは解放されたい。そうしたニーズを持つ方にも刺さったようです」(鈴木氏)
家族の前でさえも、ノーブラでいるのは気が引ける–そう感じる女性が多い背景には、「ノーブラ=エロい、はしたない」といったイメージが一部で流通しているからかもしれない。
例えば、有名人がノーブラで公の場に登場すると、男性読者の関心を引くようなタイトルで、バストトップが目立つ写真をメディアが報じる。また、YouTubeでは「ノーブラ散歩」というハッシュタグが話題になっていて、ノーブラの女性が胸元をアップにして野外を歩く動画が多数投稿されている。視聴者の気を引き、再生数を稼ぐのを目的とする動画も多いと見られる。

こうした状況が「ノーブラ」という言葉に染み付く“エロ”のイメージを助長し、女性たちの行動に影響している可能性はありそうだ。no-buが商品を販売するに当たっても、障壁になっている側面があるという。
「no-buではブランドコンセプトとして『ブラレスウェア』という言葉を作ったのですが、それでは商品のイメージが伝わりにくく、公式サイトや広告で『ブラレスウェア』と『ノーブラ』の表現を使い分けています。ただ『ノーブラ』という言葉に対し、SNSではネガティブなコメントが寄せられたり、インターネット検索では製品と全く関連性のない『ノーブラ散歩』の動画が表示されたりすることもあります」(榊原氏)

「ノーブラは、単純にブラジャーを着けていないだけのこと。なぜエロいものと捉えるのか」と2人は疑問を口にする。
「no-buを通じて、『ノーブラ=いやらしい、だらしない』と連想されるのではなく、『ノーブラで過ごす選択肢もある』という認識が広がればいいなと思います。日々不満を感じながら窮屈なブラを着け続けるのではなく、シーンや気分によってブラを着ける・着けないを気軽に選べたら、女性たちの生活がもっと快適になるはずです」(榊原氏)
そう遠くない未来、日本でもノーブラが当たり前の時代がやってくるかもしれない。
(小林 香織)

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