8月8日から発売開始された、「ポケットモンスター(以下、ポケモン)」とコラボしたマクドナルドのハッピーセット。ポケモンの玩具がおまけでついてくる仕様だったが、翌9日からは3連休に合わせて、玩具のほかに人気の「ポケモンカード」が付属するようになったため、人気が爆発した。【取材・文=宮原多可志】
【写真】筆者がマクドナルドで70分待ちしてようやく入手できたハッピーセットのポケモンコラボ
一部の店舗では“転売ヤー”による買い占めが発生したようである。また、SNS上では、外国人の転売ヤーと思しきアカウントで、カードを大量に入手した様子を載せる例も多かった。近年、問題視されている外国人に対する風当たりの強さも影響し、入手できなかった人たちの怒りが爆発。争奪戦が過熱した結果、一部店舗では9日のうちにカードがなくなってしまう事態になった。
今回マクドナルドが強く批判されたのは、カードと玩具だけを手にし、食べ物を一口も食べずに廃棄する人が相次いだことであった。そうした画像がSNSに次々に投稿され、拡散された。マクドナルドはたびたびフードロス削減を謳っているが、今回は結果的にフードロスを加速させたとの指摘もあり、批判は過熱の一途をたどった。
これを受けて、マクドナルドは11日、謝罪文を公式ホームページに掲載した。しかし、SNS上の批判は収まらず、かえって火に油を注ぐ結果になってしまった。というのも、マクドナルドが限定商品の販売で大混乱を招き、謝罪するのは風物詩になっているからだ。今年の5月にも「ちいかわ」コラボで同様の騒動が起き、炎上したのは記憶に新しい。
しかし、再び混乱が起こったわけで、消費者の目には有効な対策がなされていないと映っても仕方がない状況。さすがにSNSでもあきれ顔の人が多かったようで、「謝罪何回目だよ」「いいかげんにしろ」といったコメントが後を絶たず、転売ヤー以上にマクドナルドの売り方に問題があると指摘する声も目立った。
一方で、店員を擁護する声は多数投稿されていた。実際、店員の苦労は相当なものだったと思われる。筆者が取材したマクドナルドも、厨房が大混乱に陥っていたのだろう。筆者が受け取ったハッピーセットはハッシュポテトがぐじゃぐじゃで、ドリンクの氷が溶けていたほどである。
マクドナルドにはマニュアルこそあるものの、ハンバーガーの製造工程でも焼いたり、挟んだり、包んだりと、人の手に頼る部分が多い。思ったほど機械化が進んでいないうえ、商品点数が多いため提供にも手間がかかる。これは通常であれば機能するのだが、土日でバイトが集まりにくいタイミングで、客が大量に殺到するコラボ商品が出てしまうと、途端に大混乱になってしまう。危機的状況下ではマニュアルが役に立たないのだ。
マクドナルドも、決して今回の騒動を予測していなかったわけではないようだ。注文は1人5個まで、と販売数を制限するルールも告知していた(15日から始まった第2弾では3個まで)。しかし、SNSを見ていると、明らかにそれ以上の個数を注文した人も目につくことから、いくらでもルール違反を犯せる状況にあったようである。
また、大手フリマサイトのメルカリなどと協力し、「両社で情報共有を行い、発売前後の注意喚起や権利侵害品対策などの取り組み」を実施すると発表していた。しかし、あくまでも、「日本マクドナルドからの情報提供に基づく特定の新商品に関する注意喚起」のほか、「悪質な詐欺行為等、利用規約等に抵触する可能性のある出品の削除」や「権利者の許諾なくWEBサイト等から商品画像を転載する出品(著作権侵害)の削除」を行ったに過ぎなかった。
それは、多くの人々が求める規制とは程遠いものであり、実際にメルカリには当日からカードや玩具が多数出品されていた。転売ヤー対策としては、不十分と言わざるを得ない。そのうえ、仮にメルカリが転売を規制したところで、他にもフリマサイトはあるのだ。転売ヤーが他に流れるだけであり、抜本的解決にならないのは明白であろう。
マクドナルドは謝罪文のなかで、「一部のお客様による転売を目的とした大量購入や、それに伴う店頭ならびに店舗周辺での混雑・混乱の発生、またご注文いただいた食品の放置・廃棄といった事象が発生したことを確認しております」と、転売ヤーが混雑や食品廃棄をもたらしたかのようにつづっている。
もちろん、そうした側面はあったと思うが、実際は転売ヤーが全体に与えた影響など微々たるもので、ほとんどの客は“普通の人”だったはずだ。筆者が近所の店で当日に並んでいる人や、店内にいる人を見てみると、転売ヤーはほとんどいない印象だった。5月のちいかわコラボの時も同様で、家族連れなどの普通のお客さんが多かった。
筆者は、転売や混乱を生み出した要因は、ランダムにカードが出るシステムだったと考える。カードはコレクターのみならず、子供でも全種類欲しいと思うのは当然であろう。そのうえ、今回のカードは1パックあたり2枚セットであり、ピカチュウ1枚と、5種のカードのなかから1枚がランダムで封入される仕様だった。
つまり、全種類そろえるには、ハッピーセットを最低でも5個購入する必要があるのだ。運が良ければ5個買っただけで全種類がそろうこともあるが、ランダムなので、そろわないこともあり得る。こういった射幸心を煽る仕様であることが、そもそも問題なのではないだろうか。
それに、純粋なファンであっても、「カードがダブって同じものは2枚もいらない」とか、「目当てのカードではないものは不要」などの理由でフリマサイトに出品した人もいるはずだ。そう考えると、ランダム封入というシステム自体が、転売行為を生みやすいことがわかるだろう。
マクドナルドは、「今後、特定のハッピーセットの販売にあたっては、特定の期間において、より厳格な販売個数制限を設けさせていただく場合がございます」と発表した。ハッピーセットの玩具やカードはおまけ扱いであるが、今回注文した人の大半が食品など二の次で、おまけがメインだったのは明白である。
それならば、いっそのこと、玩具だけ欲しい人にはあえて食品をつけないなど、大胆な対策を講じてはいかがだろうか。その場合でも、価格は食品がついているものと同じでいいだろう。食品を最初からつけなければ調理の手間は省けるうえ、廃棄も防げるし、短期間で人を捌くことも可能になるはずだ。
他にも、人気が出そうな玩具は予約販売にしたり、整理券を配布したりして後日受け取りに来てもらうのも手だろう。転売の原因になりやすい、ランダム封入をやめるという方法もある。これらの対策を取れば、少なくとも過度な買い占めや玩具のプレミア化を防ぐことはできると思うのだが、いかがだろうか。
一昔前のマクドナルドといえば、“ドナルド・マクドナルド”やハンバーグラー、バーディー、グリマスといった公式キャラクターが有名であった。なかでも、ドナルドはネット上ではカルト的な人気を誇っていた。「ランランルー」というポーズが何度も動画でネタとして使われるなど、かつてのニコニコ動画文化を牽引した存在でもある。
こうしたキャラクターたちは子供たちに爆発的な人気を誇り、マクドナルドの象徴的な存在だったが、いつの間にか彼らのグッズを店頭で見かけることはほぼなくなってしまった。SNSでは彼らのことを惜しむ声も多い。
マクドナルドは謝罪文で、「当社では『未来を担う子供たちの心と体の健全な成長や発達に貢献することで、家族が笑顔で過ごせるお手伝いをする』というハッピーセットの原点に立ち戻り、いまいちど各種施策を見直してまいります」と述べている。アニメキャラとのコラボも結構だが、今こそ、ドナルドたちを復活させるべきなのではないだろうか。それなら、少なくともちいかわやポケモンのような、玩具目当ての大混乱は防げるはずだ。
9日のマクドナルドの現場は大混乱に陥った。現場の士気は著しく低下したに違いない。さらに、これほど何度も謝罪を繰り返すとなれば、企業のイメージ悪化にも拍車がかかってしまう。顧客満足度を高めるためにも、販売方法をそろそろ見直す時期にきているのではないだろうか。
ライター・宮原多可志
デイリー新潮編集部