「家族もお金も全部失った」特殊詐欺で懲役5年→出所した男性(44)が“私人逮捕系YouTuber”になったワケ

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YouTuberの中でも、過激な動画で再生回数を稼ぐ人々は「炎上系」と呼ばれる。中でも痴漢や盗撮などをしたとみられる一般人を、問い詰めたり取り押さえたりする“私人逮捕系YouTuber”は特に賛否両論が激しいジャンルだ。
【変わりすぎ!!】特殊詐欺グループのリーダー→私人逮捕系YouTuberになったフナイム氏の変化を写真で見る
いったい彼らはなぜ、わざわざ物議をかもす動画を配信し続けるのか。特殊詐欺グループのリーダーとして逮捕・実刑判決を受け、出所した後にYouTuberになったフナイム氏のケースを、肥沼和之氏による新著『炎上系ユーチューバー 過激動画が生み出すカネと信者』から一部抜粋し、お届けする。(全3回の1回目/続きを読む)
私人逮捕系YouTuberたちの本音を聞いた 画像はイメージ HIDETOSHI_M/イメージマート
◆◆◆
まずはフナイム氏。元特殊詐欺グループの主犯として2015年に逮捕され、懲役5年4カ月の実刑判決を受け、2021年に出所。現在は「犯罪撲滅活動家」という肩書でYouTubeチャンネルを運営しているほか、自身の経験をもとにしてのメディア出演や講演、著書『闇バイトで人生詰んだ。』の出版など、活動は多岐にわたる。
ユーチューバーとしては痴漢取り締まりのほか、かつては転売ヤーや、売春スポットとして有名な新宿・大久保公園の付近で客待ちをしている女性に話しかけたり、一緒にホテルに入ろうとしている男性に突撃したりしていた。
ある地方の夜間中学校で、知的障がいがある20代の女性生徒が、60代の男性生徒からセクハラを受けていることを知ると、現地に赴いて教頭をこんこんと詰め、その様子を動画にしたこともあった。
セクハラ被害を学校に訴えても黙認されている、という女性生徒のSNSへの投稿を見つけ、たまたまその地方に行く用事もあったので、決行したのだという。困っている人がいれば助けるのが僕の信念です、とフナイム氏は言う。
「新宿駅の構内を歩いていたとき、ホスト風の男が女の子に馬乗りになって、ボコボコにしていたんです。周りには何十人もいるのに、見ているだけ、スマホで撮影しているだけなので、『止めろ』って間に入って。関わりたくないのか、飛び火するのが嫌なのかわからないけど、何もしない人の精神がわからない。助けるのが普通じゃないの、と僕は思っちゃうんです」
1988年に「地下鉄御堂筋事件」と呼ばれる事件が起きた。大阪市営地下鉄御堂筋線の電車内で、痴漢をしていた2人組の男性に、女性が注意をした。すると逆上した男たちに電車から下ろされ、脅されて連れ回された末に、マンションの建設現場で強姦されたのだ。女性が連れて行かれるとき、周囲の乗客たちは見ているだけだったという。
2022年には、JR宇都宮線の電車内で電子タバコを吸っていた男が、注意した男子高校生に暴行を加え、土下座させた事件があった。被害者の友人や女性客が止めに入ったが、大多数の乗客は傍観していたそうだ。
筆者もその場に居合わせていたら、何もできなかった可能性は十分すぎるほどある。助けたいけれど、怖いし、自分の身も守りたい。結局、見て見ぬふりをしていたかもしれない。
だが私人逮捕系ユーチューバーたちは、動機や目的はともかく、少なくとも自分たちが取り締まっている分野で迷惑・違法行為を見つけたら即行動している。トラブルに巻き込まれたくない「事なかれ主義」ではなく、自ら飛び込んでいく「事あり主義」なのだ。
「やらない善よりやる偽善」という言葉がある。売名やイメージアップを目的に寄付をしたとする。偽善かもしれないが、それによって助かる人は確実にいる。であれば、動機が売名であれ、再生回数のためであれ、承認欲求を満たすためであれ、しないよりしたほうがいいのでは、ということだ。
世直しも同様で、結果的に人助けになるのならば、動機や方法がどうであれすべき、という意見である。フナイム氏が主張しているのは、善か偽善かなどどうでもよく、「やる」ことの大切さだった。

人助けは文句なく素晴らしいことであると思う。駅で女の子が殴られていた場面に遭遇し、助けに入った例など、その勇気も素早い行動も立派だし、賞賛されるべきだろう。夜間中学の件も、困っている人を助けるという観点では、良いことのように思えるが、少しだけ引っかかる。
その地方に行く用事があったとはいえ、なぜ第三者で一般人のフナイム氏が学校を直撃したのか? 行政や警察、弁護士などしかるべき人たちに任せようとは思わないのだろうか? 聞くと、フナイム氏は即座に否定した。
「警察はひとりの件ではなかなか動かないし、弁護士に頼むとお金がかかります。僕が行ったほうが早いじゃないですか。警察に任せたほうがいい、という人には、『困っている人がいるのに、何であなたは行かないの?』と逆に思います」
時間を割いて、大なり小なり発生する金銭的コストもかけて、フナイム氏は自ら行動した。相手に反論されたり通報されたり、訴えられたりなど、揉め事になるリスクもあるのに、わざわざそこまでするのはなぜなのか。背景には、収入や再生回数や売名などの目的があるのでは。
その問いをフナイム氏は強く否定し、「動画にして公開することに社会的意義があるからです」と強調する。
「人って不安なことがあったら、同じ事例を調べますよね。詐欺に遭いそうになっている人が、ネットで検索して、手口を解説している動画にたどり着くと、『こういうことか』『じゃあこういう風にすればいいんだ』と対策できるんです。
動画にすれば、こういう現実があるんだ、と広めることもできます。夜間中学の件もそうですし、痴漢もそう。僕も捕まえたことがありますが、(被害者の)148センチくらいの子が、電車で7~8人の男に囲まれて、もみくちゃにされてるんです。
男たちは背が高いから、痴漢されていることは周りから見えない。女の子は泣いていましたからね。警察官だけが取り締まってもらちがあかないし、女性専用車両を作っても痴漢が減るわけない。動画で伝えていかなきゃいけないんです」
動画にすることに対しては、「必要があるのか」「動画にしている時点で正義に見えない」といった批判もあるが、フナイム氏は「隠れてやるのもいいと思うけれど、ただのきれいごとじゃないですか」と反論する。

人助けをした人が、名前を聞かれて「名乗るほどのものではありません」と立ち去ることに、多くの人は美徳や崇高さを感じるだろう。フナイム氏もそれを否定はしないが、世直し活動を動画コンテンツにしている理由は、正義うんぬんより、あくまで自身の目的のためだという。
「僕は詐欺をして35歳で逮捕されて、刑務所に約5年入っていたんです。妻も子どもも、お金も信用も全部失いました。そんな自分の経験を踏まえて、犯罪は加害者も被害者も破滅しかない、ということを伝えたいんです」
そもそも動画も、違法にアップしているわけではない。YouTube という正規のツールで、しかるべき手続きを踏んで審査も通っているため、動画を公開する権利がある。 何ひとつやましいことはない、と主張する。
〈「10万振り込みます、と言ってくれる人も多い」特殊詐欺リーダーで懲役5年→“私人逮捕系YouTuber”になった男性が明かす収入事情〉へ続く
(肥沼 和之/Webオリジナル(外部転載))

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