マダニに噛まれたら「付けたまま」皮膚科へ!致死率最大30%の感染症SFTSから身を守るために知っておきたい知識

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マダニが媒介するSFTS(重症熱性血小板減少症候群)と呼ばれる感染症の拡大が大きな社会問題となっている。ウイルスを持ったマダニに噛まれて感染すると、6日~2週間の潜伏期間を経た後、発熱や嘔吐、下痢、リンパ節の腫れなどの諸症状を発症し、致死率は10~30%にのぼる。SFTSウイルスから身を守るためにはどんなことに気をつければいいのだろう?害虫駆除の専門家で、マダニの生態や駆除方法に詳しい足立雅也さん(808シティ代表)に解説してもらった。

■詳しい対策は後編へ
マダニが媒介するSFTSの感染が拡大しています。感染エリアも拡大傾向にあり、昨年までは西日本エリアに感染者がほぼ集中していましたが、今年に入ってからは東日本エリアや北海道でも感染者が見つかっています。
じつはSFTSウイルスの存在が確認されたのはごく最近のことで、2011年に中国で発見されたのが最初です。ウイルス自体はそれ以前から存在していたと思われますが、それまではおそらく原因不明の風土病的な扱いだったのでしょう。近年、遺伝子解析の技術が進んだことでようやく謎の病の原因があきらかになったというわけです。
日本では2013年、山口県で国内初のSFTS感染例が報告されました。当初は致死率が30%以上にもなり世間を震撼させました。近年の致死率は10%前後を推移しているようですが、それでも年間100人以上が感染し、感染者の10人に1人程度は亡くなっているわけですから、命にかかわる怖い感染症であることに変わりはありません。
まずはSFTSウイルスを媒介するマダニの生態について説明しておきましょう。
部屋の布団やソファの中に潜んでいる一般のダニ(イエダニ、ツメダニなど)とマダニを混同している人も多いようですが、別物です。
普通のダニは小さくてほぼ肉眼では見えないのに対して、マダニの成虫は3~8ミリほどの大きさなので肉眼でも十分確認できます。またマダニは家の中ではなく、野山や草むら、田んぼのあぜ道など野外に生息していて、シカやイノシシなど野生動物の血液を吸って生きています。
都市部にはほとんど存在しないと考えられていたのですが、実際には住宅街や近所の公園にもマダニは生息しています。とくに近年はシカ、イノシシ、クマ、サルなどが山から住宅街に降りてくることも多くなり、子供たちの遊び場となっている自宅の庭や公園の草むらでマダニに噛まれるリスクも高まっています。
部屋のなかに潜むイエダニやツメダニに刺された場合は強い痒みをともなうため、すぐに刺されたことに気づきますが、マダニに噛まれても痒みや痛みといった自覚症状はほとんどありません。多くの場合は噛まれて数日経ってからマダニが皮膚にくっついているのを発見して、初めて「噛まれた!」と気づくことになります。
マダニの吸血方法はかなり独特です。まず動物や人間の皮膚の柔らかい部分(脇腹や太もも、背中など)を探して、噛む位置を決めます。で、いきなり血を吸うのではなく、皮膚の表面をかじっていき、頭を皮膚に深くめり込ませます。そして頭が完全に埋まったら、口からセメント状の物質を出して、頭を皮膚にがっしりと固定するのです。
そのあとは、皮膚にくっついたままで2~10日かけてじっくり血を吸っていきます。吸血前のマダニの大きさは3~8ミリ前後ですが、吸血後は小豆サイズ、大きい場合は100円玉やブドウ粒くらいのサイズにまで膨らみます。
そのため、噛まれた人の多くは、入浴や着替えの際などに自分の脇腹や太ももや背中を見て、「あれ?こんなところにホクロなんてあったっけ?」と異変に気づき、マダニに噛まれたことを初めて知ることになります。
マダニが皮膚にくっついて血を吸っているのを発見した場合、ほとんどの人は「気持ち悪い」と感じて、すぐにでもつまんで引きはがしたくなるはずです。でも、そこは我慢して、マダニを付けたまま皮膚科を受診してください。
なぜなら、無理に引きはがすとパンパンに血で膨らんだ胴体だけがとれて、皮膚のなかにマダニの頭の部分が残り、ばい菌やウイルスがそこから入り込んでしまうことがあるからです。
マダニは満腹になると頭を固定していたセメント状の物質を溶かす酵素を口から出して、皮膚からポロッと落ちていきます。それまで待てば頭が皮膚に残ることもないのですが、ずっとマダニを体に付けたまま生活するのは、さすがに抵抗感がありますよね。
寝ている間に潰して布団やマクラが血だらけになってしまうことだってありえるし、ましてやそのマダニがウイルスを保有していたとしたら、一刻も早く受診をしたほうがいいに決まっています。
ネットなどには医者にいかずに自分でマダニを取る方法などもアップされているようですが、マダニはSFTSだけでなく、日本紅斑熱やライム病など、さまざまな感染症の媒介となっています。万が一のことを考えて、自分でははがさずに皮膚科を受診することをおすすめします。
皮膚科では、メスで周辺の皮膚ごとマダニをえぐり取ることが多いようです。
病院によって処置の方法は異なるとは思いますが、一般的には切開して消毒というやり方がマダニ除去の定番となっているようです。マダニを完全に除去するためには切開が必要というのは理解できますが、施術風景を想像するとさすがに怖くて尻込みしてしまいますよね。でも、SFTSの致死率が10~30%であることを思い出してください。多少怖くても医者に診てもらったほうがいいですよね?
なにやら恐怖を煽るような話になってしまい、申し訳ありません。でも、マダニが媒介するSFTSという感染症をこれ以上拡大させないためにも、マダニの怖さ、感染症の怖さをきちんと知っておいてほしいのです。後編では、マダニに噛まれないための方法やペットの対策についてお伝えしますので、ぜひそちらも読んでみてください。
■詳しい対策は後編へ
足立雅也(あだち・まさや)害虫駆除や鳥獣対策を手掛ける「808シティ」代表取締役社長。
構成=中村宏覚

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