謎多き犯罪グループ「トクリュウ」に“決定的な弱点”…元ヤクザが明かす「民家より詐欺グループを襲うほうが簡単だった」の意味

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

「ルフィ」などと名乗る指示役による広域強盗事件で、東京地裁は7月23日、闇バイトで実行役を集めたとして強盗傷害ほう助の罪などに問われたグループ幹部の小島智信被告(47)に対し、懲役20年を言い渡した(控訴中)。
【写真11枚】露出度の高い“挑発的なドレス”をまとうマニラの「美人ホステス」 ルフィが豪遊したパブでの実際の写真をみる
この裁判では量刑の重さもさることながら、小島被告が赤裸々に語った組織の実態も注目を集めた。
一連の事件では、渡邉優樹被告(41)と今村磨人被告(41)らが主犯格として逮捕されている。だが小島被告によると、この両者はもともと敵対関係にあったという。渡邉被告をトップとし、小島被告がナンバー2の地位にあった特殊詐欺グループは2021年4月までに、フィリピン当局の摘発を受け、入管施設に収容された。
そこに、別の特殊詐欺グループのトップだった今村被告も収容されていた。渡邉被告らは今村被告の「ビジネス」を乗っ取ろうと画策し、関係修復を装って接近した――というのが、小島被告が語ったところである。
こうした内幕が語られたことで浮き彫りになったのが、特殊詐欺や広域強盗を働く匿名・流動型犯罪グループ――いわゆる「トクリュウ」と、ヤクザ組織の違いだ。
組織犯罪で摘発されたヤクザ組織の構成員が、捜査当局の取り調べや裁判の中で、ここまで赤裸々に組織の内幕を語ることはほとんどない。特に組織上層部の関与については、自分の不利益を甘受してでも口を閉ざすのが普通だ。そうでなければ、あらゆるヤクザ組織はとっくの昔に一網打尽になり、壊滅していたことだろう。
新聞やテレビでしょっちゅう名前が取りざたされ、ネットを検索すれば本部事務所の場所が簡単にわかるヤクザは、半ば「公然組織」とも言える存在だ。いや、都道府県公安委員会が、暴力団対策法第3条にのっとって指定している大手の「指定暴力団」に至っては、“半ば”どころではなく、完全に公然組織と言える。
構成員数や過去に関わった事件の例など、指定暴力団の組織の「威容」を示す情報はあちこちで公開されている。ヤクザはその威容を示すことで、バブル期の地上げや、公共事業の利権介入などのビジネスを展開してきたのである。
ヤクザ組織の構成員たちは、強力な組織を背景にすることでシノギを有利に進められるという利点を共有している。だからそれを維持するためにも、捜査当局に秘密を明かしてはならないという掟を守るのである。
しかし時代は変わり、暴排機運の高まりの中で、ヤクザ組織の威容が活きるグレー領域のビジネスは大きく減った。そのうえ、ヤクザ組織は正体をさらしているだけに警察の監視下に置かれやすく、行動の自由度はどんどん狭まっている。
そこで台頭したのがトクリュウである。
その存在がある特定の範囲の人々の間でだけ認識され、グループの輪郭すらつかみにくいトクリュウは完全な「非公然組織」だ。誰がメンバーであるかはグループ内ですら秘密にされているケースもある。ネットの匿名空間に隠れ、捜査の端緒すら容易につかませない。
しかし実は、トクリュウはその最大の武器とも言える“匿名性”をはぎ取られると、非常に弱い面がある。
特殊詐欺がまだ「オレオレ詐欺」と呼ばれていた十数年前、詐欺グループを「狩る」ことを生業としていた元ヤクザから話を聞いた。その元ヤクザは、複数の窃盗事件や強盗事件に「情報屋」として関与した前科があった。金庫などに現金を貯えた民家や事業所の情報を入手して犯行グループに提供し、分け前を受け取っていたのだ。
彼に言わせれば、「むしろ詐欺グループを襲う方が簡単だった」という。
「羽振りよく飲んでいる悪い連中がいれば、そういう噂は自然と広まるものなんです。ヤツらは警察の手が伸びてこないからと、自分たちの秘匿性を過信していた。私はリーダーを尾行して身辺を徹底的に調べ、ターゲットが部屋でひとりでいるところを単独で襲いました。たとえばマンションの地下駐車場で、ターゲットの隣のスペースにとめられた車の下に潜り込み、帰宅を待つんです。相手が車を降りたら飛び出して、催涙スプレーを顔面に吹きかけてやった。それで腕をねじり上げてやれば、あとは従順ですよ。部屋に案内させ、積み上がった現ナマをいただきました」
襲われた詐欺犯は、悪事の発覚を恐れて通報することはできない。それよりは「また詐欺で稼げばいい」という損得勘定も働いたかもしれない。
トクリュウの組織は、ヤクザほどには強力ではない。だから「犯罪収益を貯め込んでいる」と周囲に知れれば、自らが獲物に転じてしまうリスクが高まるのである。
実際、この手の話は特殊詐欺や闇金融の経験者や周辺者から何度も聞かされた。少なくない特殊詐欺犯が海外に拠点を構えるようになったのは、警察の捜査が及びにくくするのと同時に、こうした襲撃リスクを警戒してのことではなかったかと、個人的には考えている。
もっとも、海外に移ったからといって安全とは限らない。
一時、ルフィグループの「黒幕」のように報じられていた在フィリピンの日本人犯罪グループ「JPドラゴン」。そのリーダーである吉岡竜司容疑者(55=特殊詐欺で窃盗容疑、フィリピンで現地当局が拘束中)は、「セットアップ」と呼ばれる犯罪手法で悪名をとどろかせていた。
現地事情通が話す。
「セットアップというのは、出張などで訪れた日本人男性が現地の女性と『遊ぶ』ように仕向けた後、その女性が被害届を出すなどし、警察官が登場。示談金と称して多額の金銭を脅し取るというものです。ポイントは、ここで登場する警察官が、ニセモノの場合もあればホンモノの場合もあるということです」
現にJPドラゴンは、同国の有力者が好む闘鶏ギャンブルを運営して人脈を築き、現職の警察官を護衛として雇っていたとされる。しかもルフィグループは、彼らに金銭をだまし取られたり詐欺のかけ子メンバーを奪われたりしていたという。
しかし、そうした「被害」に遭っても、助けを求める相手はどこにもいない。自らの正体を徹底的に秘匿しようにも、組織に忠誠心などないメンバーの口からいくらでも情報が洩れる。
こうした「組織力の脆さ」を逆手に取り、警察はすぐにトクリュウを逮捕することはできなくとも、すでに入手した容疑者の身辺情報をどんどん公開することで、組織を内部崩壊へと追いやることができるかもしれない。
あるいは、公共事業の談合に関する課徴金減免制度と似た仕組みを導入するのも有効かもしれない。この制度は、事業者が自ら関与したカルテル・入札談合について、その違反内容を公正取引委員会に自主的に報告した場合、課徴金が減免されるものだ。これを真似て、トクリュウのメンバーに情報提供を促し、そこで得られた情報をばら撒くのだ。特殊詐欺や広域強盗に対する厳罰化を伴うなら、有効性はさらに増すだろう。
トクリュウは、秘匿性を武器としている。摘発にあたっては、それをはぎ取ることが重要なのだ。
金賢(キム・ヒョン)1972年、東京生まれの在日韓国人3世。朝鮮半島情勢や経済事件、外国人犯罪などをフォロー。李策のペンネームで『板橋資産家殺人事件の真相「日中混成強盗グループ」の告白』(宝島社)など著書・共著書あり。
デイリー新潮編集部

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。