骨董品のようなクラシックカーやヴィンテージカーより最近のものだが、製造から何十年も経っていたり、生産が終了している自動車やオートバイを「旧車」と呼ぶ。その旧車のオートバイを愛好すると称する一部の人たち、とくに「旧車會」を名乗るグループが起こす騒音や暴走行為などが社会問題となりつつある。「令和6年交通安全白書」(内閣府)によれば、暴走族の検挙人員は2019年が7053人、2023年が6512人と減少傾向にあるのに対し、旧車會の検挙人員は2019年の745人から2023年の870人と増加傾向だ。ライターの宮添優氏が、気温の上昇と共に増える「旧車會」問題についてレポートする。
【写真】勝手に集合場所にされた…そのイメージ写真
* * * 日中に夏日を記録することも珍しくなくなった。心踊るような陽気を浴びようと外に出たところ、どこからともなく、あの音が聞こえてくる。夏のヤブ蚊の羽音よりも耳障りな、甲高い騒音、それがいくつも連なって…。”旧車會”の集団走行である。この数年で何度「旧車會」関連の関係の記事を書いたかわからないと苦笑するのは、大手紙社会部記者だ。
「また”旧車會”関係者が逮捕されました。今度は無免許運転のようですが、暴走族は減少傾向にあるのに旧車會メンバーは増え続けており、警察側も積極的に、関係者の検挙を広報するようになっています。例えば近年、旧車會メンバーの違法な走行シーンを、警察自らがテレビ局に提供し、検挙と同時にニュースで流しているのはその代表例でしょう。暖かくなると出没が増える傾向にあるので、これからしばらくは、旧車會関連の報道が増えるかもしれません」(社会部記者)
そもそも”旧車會”と言われてもピンと来ない人のために説明すると、今や「暴走族」とほとんど変わりはない存在と考えてよいだろう。その始まりは約20年前、暴走族を卒業し、仕事でも頼りにされることが増える30代となったOB達が「旧車會」を名乗り、再び集まって走るようになったことに遡る。彼らの言い分によると、それなりの経済力をつけた年齢になったので、当時は高くて買えなかった「古いバイク=旧車」を改めて購入し、金をかけて綺麗にカスタムし周囲の迷惑にならないようみんなで楽しく走ろうと始めたということだった。しかし、近年の旧車會の行いは目に余る、と言う他ない。
「せっかくのお休みの日ですよ! なのにあの連中が駐車場でよかごて(いいように)のさばるもんだから、他のお客さんが入って来られん。警察に来てもらったけど、今度は両方でワーワー言って揉め出して、もう完全に駐車場の出入り口を塞がれてね。これがね、今回が初めてじゃないとですよ」
落胆と怒りが入り混じったような複雑な表情でこう訴えるのは、佐賀県内にある飲食店経営者の男性(60代)。男性の店は、ショッピングモールに併設された広い駐車場に接するよいポジションに立地している。利用客からは駐車場が近いと喜ばれ、モール帰りの買い物客が毎日寄ってくれるというわけだ。しかし、店の経営にも影響を及ぼしかねないような「旧車會」によるトラブルが頻発していると男性は頭を抱えて見せた。
「朝、出勤したら、あいつらがここ(駐車場)を待ち合わせ場所にしよったんです。だから最初は、夜間帯にチェーンを張るなどしとったんですが、それも簡単に外されて。何十台、いや、100台以上(旧車が)おったこともある。えすか(怖い)でしょう? 誰も何も言えん。警察を呼んでも揉めるだけでちっともどいてくれんのです。その間、お客さんは全く入ってきません」(飲食店経営者の男性)
さらに最近、男性を真っ青にさせることまで起きた。なんと、何十人もの「旧車會」の連中が、男性の経営する飲食店に「客」として入ってきてしまったのである。
「従業員の女性が可哀想に泣きながら電話してきてね、暴走族に占拠された、助けて下さいて。私もすぐ駆けつけたけども、一応お客さんでしょう。怖い衣装と見た目で、店内でも騒いでね。他の客はみんな出て行ったけど、注文はちゃんとしてくれて、お金も払ってくれて。いやそれでも、他の客の迷惑になるし、うちが連中の”溜まり場”みたいに噂されたら大変。最近は暴走族じゃなくて旧車會と呼ぶとよ、って客の兄さんが言ってましたけどね。最近は警察がすぐ駆けつけてくれるようになって、ずいぶんマシになりました」(飲食店経営者の男性)
件の旧車會は、春先ごろから毎週末のように近辺のどこかに集合しては、ブォンブォンと騒音を何十分間も轟かせ、近隣圏などに「ツーリング」してまた付近に帰ってくるのだという。当然、行く先々でこのような「被害」を生み出しているだろうことは、想像に難くない。時に100台を超えるほどの規模で移動するので、彼ら全員が入れる広さがある駐車場の広い大型店などが、格好の餌食になってしまっているのだ。
筆者はちょうど一年前にも旧車會に関する記事を書いているが、その際に被害を訴えた埼玉県在住の主婦にふたたび話を聞くと──。
「もう本当に”虫と一緒”でしょう! ちょうど先々週末くらいからですよ、ウォンウォン朝から晩までね。警察は取り締まってるんですよね? 昔より増えてませんか?こ の前、東北道でも何十台の集団をいくつも見ましたよ」(埼玉県在住の主婦)
このような状態だから、一般市民の旧車會に対する嫌悪感も、特にこの数年ですっかり強化されている。特に、SNS上では暴走族とは違う「旧車會」は渋くてかっこいい、という一部で語られていたイメージは、すでに「暴走族」とか、暴走族を揶揄する「珍走団」なる蔑称で語られるまで落ちた。SNS上には、旧車會に批判的な意見が多いが、中には車會のメンバー自らが、改造バイクやツーリングと称した危険走行シーンをSNSにアップする。当然、激烈に叩かれ、炎上する。しかし、旧車會はいなくならない。
「バチバチに叩かれても気にしない。最近の若いやつは。むしろもっと見てって感じ。俺のコール(筆者註・エンジンを吹かすリズム)やばくね?とか」
あっさりこう答えるのは、筆者が以前、雑誌の取材で訪ねた「旧車會イベント」で知り合った男性だ。当時はとある旧車會の一メンバーに過ぎなかったが、今は副業で、旧車の買い付けや販売、カスタムまで行っているという。
「正直、あんた(筆者)もめちゃくちゃに俺らのこと悪く書くでしょう(笑)。まあ、若い奴もたくさん増えて、旧車じゃないバイクでツーリングする奴もいて、確かに暴走族とあまり変わらなくなってきたところはある。ただ、俺は旧車が好きだからこの仕事してますよ。イベントも、昔みたいに、中学生に原チャリでコールさせたりとか、そういうのはもうしませんよ。ちょっとイメージが悪すぎるのでね、最近。暴力団、半グレみたいなのが普通にいる。これじゃ旧車好きが本当に潰されてしまいます」(旧車會イベントで知り合った男性)
中学生が原付バイクを運転する映像を撮影したり公開することは、たとえそれが私有地内での出来事であったとしても、イメージが悪いどころの話ではないと思うのだが、旧車會の世界にずっと身を置いていると、そのあたりの線引きがズレてくるのかもしれない。とはいえ、彼は旧車會に関わる人たちのなかでは、社会的に問題ある存在とされることの危険性に気づいているほうだろう。
それでも旧車會との接点を切ろうとしないのは、男性にとって「小遣い稼ぎになっているから」という側面もある。だが、あまりにも旧車會が嫌われていることを危惧もしている。SNSでも実生活上でも、旧車會に対する厳しい声は年々増大している。一方で、旧車會に所属し公道上で危険走行をしたとして検挙された俳優の男は、その後業界に復帰し、ファンらからは称賛されているとも聞く。
近年では、おしゃれなエリアとして有名な東京の表参道や銀座、渋谷でも、集団走行をする「旧車會」の姿が目撃されるようになった。ほとんどの通行人が「ダサい」「まだいたのか」と笑ったり、スマホを向けて写真や動画を撮影していたりする。ところが、旧車にまたがる人たちは自信満々といった様子。まさに、通行人に自慢の愛車を見せつけているかのようでもある。
社会と旧車會の間に横たわる溝は、どんどん広がるばかりのようだ。