ゴールデンウィークが始まった。連休で帰省する人も多いが、久しぶりに会った親族との交流の中で〝価値観や意識、生活習慣の違い〟が生じることもある。そんな時の適切かつ円満に事を収める対処法について、「大人研究」のパイオニアとして知られるコラムニストの石原壮一郎氏が〝焼き肉のケース〟を例に挙げて解説した。
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【今回のピンチ】
連休に訪れた妻の実家で、ホットプレートを囲みつつ焼肉。大はしゃぎの義父が「どんどん食べて」と肉を次々とお皿に載せてくれるが、まだ生焼けである。しかも直箸(じかばし)……。
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連休を利用して、久しぶりに妻の実家へ。義父母は「遠いところをよく来てくれたね」と大歓迎してくれました。夕食はホットプレートを囲んでの焼肉。「肉はいっぱいあるから。たくさん食べてね。今日はとことん飲もう!」と、義父は大はしゃぎです。
その気持ちは嬉(うれ)しいものの、焼肉が始まったら、思わぬピンチが待ち受けていました。酔っぱらった義父が「さあ、食べて、食べて」と、まだ生焼けの肉を自分の前の皿に次々と載せてきます。しかも直箸で……。
どうしたものかと箸を付けあぐねているあいだにも、皿の肉は増え続けるばかり。困っている気配を察した妻が、「ちょっとお父さん、直箸はやめてよ!」と言ってくれました。しかし義父は「細かいことを気にするな。ガハハハ」と笑っています。
逃げ出すわけにもいかない絶体絶命の大ピンチ。さて、どう切り抜ければいいのか。
食べる気にならないからと、「ちょっと今日はお腹の調子が……」と言って箸を付けなかったら、義父も義母もさぞしょんぼりするでしょう。今後の関係にも悪影響が及びかねません。しかも、お腹がすきます。
素直に「すみません、ぼく、よく焼いた肉が好きなんです」と言って、皿に山盛りになった生焼けの肉を網に戻すのは、さほど角が立たない妥当な対処法。あらためてじっくり焼くことで、義父の直箸に触れた残念な過去も燃やしてしまいましょう。
そんな対処すらできずに、義父への恨みや被害者意識を一方的に募らせるのは、あまりにもひ弱すぎる態度。たしかに義父の行為はホメられたものではありません。しかし、自分で自分を守る勇気のなさを棚に上げて、すべてを相手の「困った行為」のせいにするのは、大人として卑怯な態度です。
すでに皿に載せられた生焼けの肉を焼き直しているだけでは、根本的な解決にはなりません。しばらくしたら、義父はまた同じように生焼けの肉を勧めてきそうです。かくなる上は、先手を打つとしましょう。
攻撃は最大の防御なり。義父を圧倒する勢いで、生の肉をどんどん網に載せ、まだ焼けていないうちに「さあ、お義父さんもどんどん食べましょう」と、義父の皿に載せます。直箸でもいいんですけど、そこは取り箸を使ってあげるのが武士の情けですね。
やがて義父は「おいおい、まだ焼けてないよー」と言い出すでしょう。そしたら、最後の仕上げ。すかさず「ああ、焼くのがヘタですみません。じゃあ、自分の分は自分で焼くってことで」と提案します。そうこうしているうちに、義父のはしゃいだ気持ちも落ち着いて、それぞれがゆっくり焼肉を楽しもうというモードになるに違いありません。
わたわたしているうちに、距離が縮まったような気になればこれ幸い。ともあれ、たまにしか会わない相手なので、なるべく無難でなごやかな時間を過ごしたいものです。
(コラムニスト・石原 壮一郎)