くたびれた中高年に「水代わり」に飲んでほしい飲み物とは(写真:life-shooting/PIXTA)
口を開けば「しんどい」「やる気が出ない」「頭が働かない」なんて、愚痴ばかり出る中高年の方はいませんか? そんなくたびれた中高年には「たんぱく質」が圧倒的に不足している可能性があります。
「たんぱく質が大切なのはどの世代も共通ですが、中高年には特に積極的に優先してとってほしい栄養素」と語る精神科医の和田秀樹氏が、”水代わり”飲んでほしいと推す飲み物とは。同氏の著書『医師が教える長生きする牛乳の飲み方 たんぱく質をおいしくとって健康寿命をのばす!』から、一部を抜粋・編集する形で解説します。
たんぱく質をとることが大切なのはどの世代も共通ですが、中高年には特に積極的に優先してとってほしい栄養素です。ところが年齢に反比例するように中高年のたんぱく質の摂取量は少なくなります。
欧米でさえ、80歳以上の高齢者の半数がたんぱく質不足という調査結果が出ています。
では、なぜ年を重ねるとたんぱく質の摂取量が不足するのか?
それは食事量が総体的に減るからです。なかでもたんぱく質が多く含まれる肉をあまり食べなくなる傾向があるようです。年齢とともに消化しづらく、もたれやすくなるのが理由でしょう。
では実際、たんぱく質はどれくらいとればよいのでしょうか?
1日のたんぱく質の摂取目標量の目安として、少なくとも体重1kgあたり1g以上が望ましいと私は考えています。例えば、体重60kgの人であれば60g。
これはあくまでも最低限の量になります。中高年以降はたんぱく質の吸収がうまくできなかったり、とれていても体内でうまく使えなかったりする人のなんと多いことか!
ですから、意識して多めにとることを私は強くおすすめします。高齢者なら、体重1kgあたり1.2gを目安に、60kg人ならできれば72gを目指してほしいところです。
たんぱく質の摂取量が少ないと、高齢者にはどんな健康面のリスクがあると思いますか?
みなさんがまずイメージするのは筋肉量が減ることですよね。筋肉量が減ると、歩く速度が遅くなって信号機が青から赤に変わる間に横断歩道を渡り切れない、握力が弱くなってペットボトルのふたが開けられない、階段の上り下りがしんどいなど、日常生活が不便になります。
また、筋肉量が減ることで、すでにある筋肉をエネルギーとして使おうとして、もともとある筋肉を分解してしまうため、さらなる筋肉量の減少を引き起こすのです。
たんぱく質不足は、中高年以降の人にとっては健康を脅かす大きなリスクがあります。
肉をたくさん食べるのはしんどいというときでも、牛乳はお手軽なお助け食品になります。胃腸が弱い人や食欲がなくても比較的飲みやすく、ラクにたんぱく質を補給できます。「毎日牛乳」を心がけ、水代わりに飲んでほしいくらいです。
電車待ちのときは迷わずホームのベンチに座り、電車に乗ったら一目散に空いている席を探して座ってしまう。家事をひとつ終えてはひと休みし、ちょっと外出するだけでもしんどい……。そんな毎日が当たり前になり、「年のせいかな」と少しさみしく思っている人も少なくないでしょう。
体力が落ちて疲れやすくなる原因はもちろん加齢もありますが、それ以上に低栄養ではないかと疑ってみてください。
疲労を感じやすいのは、活動の原動力となるエネルギーが足りていないからです。それは単純にエネルギーの材料が足りていない場合と、材料は足りているのに、材料を効率よくエネルギーに変換されていない2つの理由が考えられます。
1つめのエネルギーの材料不足は、偏食や、そもそも食べる量が少ないことが原因です。エネルギーの材料となるのは炭水化物(糖質)、たんぱく質、脂質です。
血糖値が気になる、体重が気になるといってご飯やパンなど炭水化物を減らしていませんか?
また、コレステロール値を気にするあまりに脂質の摂取量が少ないのでは? とも疑ってみましょう。肉、魚、卵、乳製品、豆腐などでたんぱく質はしっかりとれていますか?
ここで大切なのは、3大栄養素のどれかをとればいいのではなく、バランスよく、万遍なくとること。まさに、今はやりの言葉を使えば「食の多様性」です。
2つめは、エネルギーに効率よく変換されていない場合。炭水化物、たんぱく質、脂質だけをとっていても、すべてが体に吸収されてエネルギー変換されるわけではありません。摂取した栄養素をうまく代謝してエネルギーをつくるのには、ビタミンB群なしではあり得ません。
ですから3大栄養素とビタミンB群はセットでとること。それが1つの食品で叶うのが「牛乳」なのです。
疲れやすくなったな、最近しんどいなと思いはじめたら、低栄養でエネルギー不足だと自覚してください。まずは手軽に牛乳を飲むだけでも、エネルギー不足の解消に役立ちます。
最近なんだか集中力が落ちた、計画を立てるなどスケジュール管理をするのが億劫……なんてことは、中高年にはよくあることです。体力も衰えるし、思考力だって年々衰えますから。
こうした思考力の低下は、老化やストレスなどさまざまな原因が考えられますが、栄養不足もその1つです。
思考力が落ちるのも、実はたんぱく質が関係しています。思考を維持する神経伝達物質はたんぱく質が材料になっているので、不足することで思考力ややる気の低下につながるのです。
たんぱく質不足は、人の体のありとあらゆる部分に不具合をきたします。若い頃は栄養素が不足していてもなんとかなっていたのが、年を重ねるごとに如実に栄養不足の害が出てくるようになります。
だから高齢者の医療に携わる私にとって、「年をとればとるほど栄養をとってくださいね」というのは当たり前のこと。
とはいえ、たんぱく質が多く含まれる肉や魚を200g、300gも食べるのは、消化力の低下を感じている人にとっては難しいかもしれません。ここでも牛乳の出番です!
牛乳1lで約35gのたんぱく質が含まれていて1日の摂取目標量の半分近くをとることができます。朝昼晩に分けて1回約330ml、飲んだり料理に使ったりすれば比較的ラクに消費できる量でしょう。
食欲がなくても摂取しやすく、たんぱく質が不足しがちな中高年、特に高齢者にとって牛乳ほど便利な補助食品はありません。
牛乳を嫌う人の中には、コレステロール値が上がることを心配している人が結構多くいます。肉を多く食べるアメリカでは、コレステロール値が高いと急性心筋梗塞のリスクが高まるといわれているからです。
しかし、これは食生活の違う日本人にもあてはまるのでしょうか。答えは「あてはまりません」。
かつて日本応用老年学会理事長を務めた医学博士・柴田博教授の行った調査で、コレステロール値が低いと死亡率がグンと高くなることがわかっています(下図参照)。
(出所:『医師が教える長生きする牛乳の飲み方 たんぱく質をおいしくとって健康寿命をのばす!』より)
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対象となったのは、総コレステロール値が220mg以上でシンバスタチンという薬を投与された35~70歳の男性と、閉経した女性です。
注目すべきは、血中コレステロール値が180mg/dl未満のグループは死亡率が高いことです。200~279mg/dlの3つの群の死亡率においてはほぼ同じですが、199mg以下になると高まり、180mg以下では一気に高まるのです。
ちなみに現代の医療では総コレステロールの基準値は144~199mg/dl、要注意値は200~259mg/dl、異常値は260mg/dlとされています。例えばコレステロール値250mg/dlで「要注意」とされ、コレステロール降下剤を処方されます。
確かに、280mg/dlの群は心筋梗塞の死亡率が上がりますが、この群は先天性のリスクである「家族性高脂血症」を持つ人が多く含まれているため、この人たちを除くと「コレステロール値が高いのはダメ」という考え方は、とても危険なのです。
私は常々言っています。「コレステロール値を下げるな」と。
コレステロール値が高くなると思われて悪とされ嫌われている牛乳や肉は、むしろ飲んだり食べたりしたほうがいいのです。
(和田 秀樹 : 精神科医)