パパに関する“世界一簡単な問題”にボロ泣き!話題の動画で「使わなかった言葉」が深い

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「泣ける動画」として話題の『「パパ検定』~世界一簡単な問題です~』。2020年12月の初公開から10日で2万回再生、120件の高評価を獲得したというこの動画が2年を経た今、再び注目を集めています。
きっかけは10月14日放送の『ラヴィット!』(TBS系)での、「オススメの涙がこぼれそうなもの」をテーマにしたトーク。東京03の飯塚悟志さんが紹介すると、目に涙を浮かべる出演者が続出。田村真子アナや近藤千尋さんは“ボロ泣き”状態になってしまうほどでした。
◆タレントたちもボロ泣き「パパ検定」の内容は?
モニター前に集められた5人のパパたち。それぞれのパパは子どもが「検定」を受ける様をじっと見つめています。そう、検定を受けるのはパパではなく子どもたちで、パパの年齢は? 仕事内容は? 宝物は? といった問題に答えていきます。ですが、問題が進むにつれ、次第にパパについて「分からない」ことも増えていく子どもたち。
それを見るパパの姿には、自分が日頃いかに子どもと関わっていないかを思い知らされ、複雑な表情を浮かべる瞬間も。戸惑いながらパパが見守る中、出された最終問題は「パパに点数をつけてください」。この問題に子どもたちが書いた答えは――。
そして『「パパ検定」~世界一簡単な問題です~』のタイトルが『「パパ検定」~世界一簡単な問題にしよう~』に変化し、動画は締めくくられます。
2022年11月現在、YouTube上の動画は再生数163万回を超え2000件を超えるコメントが殺到している本動画。制作のきっかけはどのようなものだったのでしょうか。
企画した長崎県 男女参画・女性活躍推進室と、制作を担当した西日本新聞メディアラボにお話を聞きました。
◆長崎県「男性が子育てに縁遠い状況を変えたい」
――この動画はどのような経緯で作られたのでしょうか?
長崎県 山本翔さん(以下、山本):長崎県にはまだ根強く「夫は外で働き、妻は家庭を守るべきだ」という意識があります。また、社会全体で見ても女性に比べ、男性はまだまだ子育てに縁遠いのが実情です。そういった意識をどうにか少しずつでも変えていきたいと啓発的な動画を作るためのコンペを開催しました。そこに西日本新聞メディアラボの方々にご参加いただき、作ってもらうことになりました。
西日本新聞メディアラボ 白水佑樹さん(以下、白水):もともと長崎県の男女参画・女性活躍推進室から「イクメン・カジメン」というコンセプト提示があったのですが、動画を作るにあたり、このイクメンやカジメンという言葉そのものは強調しないでいいのではないかと思ったのです。
◆男性が家事や育児をするのが当たり前になってほしい
――イクメン・カジメンという言葉を使わないのはなぜでしょう?
白水:世間一般的に男性が家事や育児をするのは特別なことではなく、当たり前になってほしいという時代の流れや風潮がありました。なので「イクメン・カジメン」という言葉は使いませんでした。
――たしかにそうですね。
白水:同時に、子どもといられる時間は有限であるということ、母親よりも父親の方が圧倒的に少ないということに着目しました。その短さを父親本人が意識して、家事や育児に参加しようと自ら思えるものがいいのではないかと考えたのです。 それで「子育ては期間限定」というキーワードが出てきたんですよね。
父親が自発的に子どもに関わろうと思える内容にするには、やはり子どもから見たお父さん、子どもがお父さんのことをどれだけ知っているか、見ているかをお伝えするのが一番効果があるのではないかというアイデアに至りました。

――確かに、子ども目線のお父さんへの意見は、嘘のない素直な言葉も出て、ほろっときたりグサッときたりしますもんね。
白水:そうですね。もともとフィクションドラマにしようかという考えもあったんです。子どもとの時間が取れないまま歳をとってしまった……というような。そんな時に、Twitterでパパが急に帰ってきて子どもが喜ぶ動画がバズっていたのを見て「これだ!」と。
やはり子どもの素直な反応やそれを見た父親の反応こそが人の気持ちを揺さぶるのではないかと思い、ドキュメンタリーにしようということになりました。
◆動画は、本番一回撮り下ろしで編集している
――ではあの動画は、まさにリテイクなしで一発で撮ったのでしょうか。
白水:そうなんです。見ている方は色んなシーンを省いたり加えたりと演出があるように感じるかもしれないですけど、本番一回撮り下ろしで編集しています。ネットでは出演者の親子さんはオーディションをしてキャスティングしたなどの噂も流れていますが、実際は知り合いの知り合いに頼み込んでとかで、ギリギリ集まった5組の皆さんです(笑)。
――大変でしたね…! 撮影中はどのように進みましたか?
白水:実は事前に撮影された子ども側の映像をお父さんは見ているのですけど、グズる弟をお兄ちゃんがフォローしてる姿とかも入っているんです。その姿を見たお父さんは「ああ、ちゃんとお兄ちゃんしてるんだな」って感じたと思うんですよね。問題に答える場面以外でも、お父さんたちの心を揺さぶったのではないかと。
子どもたちが、父親本人ですら覚えていないような“好きな色”や“好きな季節”だとかを些細な会話からキチンと記憶しているシーンもあり、感情はどんどん高ぶっていったのだと思います。
◆“行政っぽくない”ものができ上がり、素晴らしいと感じた
――ドキュメンタリーを「検定」としたのはなぜなのでしょうか。
白水:啓発動画とはいえ他人の親子をただ見せられるだけでは興味がわかないかなと思ったので、続きを見たくなる仕掛けを作りました。
まずパパが受ける検定かと思いきや子どもが受ける検定というところで意外性を持たせ、父親の立場の人だったら「自分の子どもだったらどんな反応するかな」とか「自分だったら何点をつけてくれるだろう」と日頃を振り返るきっかけにしたかったのです。
――長崎県さんは最初にこの動画の仕上がりを見て、どう思われましたか。
山本:われわれが意図した以上に“行政っぽくない”ものができ上がってきて、とても素晴らしいと感じました。行政は「イクメン」「カジメン」などの分かりやすい言葉を使うことが多いのですが、そういった言葉をバン! と出さずして、長崎県として伝えたいことが動画に収まっていました。今回の取材に合わせて私も何回か見返しましたけど、もう何度見ても泣けるんですよね。
◆ひとり親家庭の方からも様々な反応が
―― 一方で、ひとり親家庭の方がこの動画を見ると、また違った感想を持つように思います。「子育ては期間限定」ですが、ワンオペであるからこそ関わりを持つ時間が少ないからです。今回のこの動画でひとり親家庭の方からの反響など何かありましたか?
白水:YouTube動画のコメント欄にもひとり親家庭の方からのコメントを色々といただきました。広告動画とはいえ誰かを不幸にするような影響は与えたくないと思いながらも、いろんな立場の方が見て、引っかかってしまうのは申し訳ないと思っていました。

◆「パパ検定」続編の予定は?
山本:長崎県にもいろんなご意見をいただきました。この動画のコンセプトの大前提として、まずは父親である男性にその父親であること楽しんでほしい、男性の背中を押す、ということを今回は目指しています。そこから様々な意識が変わっていくきっかけになればと。
――そうですよね。いろんな立場の人に、いろんなメッセージとして届いた動画だと思います。今後、「パパ検定」に続くシリーズ動画のようなものを作るご予定はありますか。
山本:自分が聞く限りは長崎県庁内でそのような動きはなさそうですが……。「パパ検定」動画のおかげで、行政っぽい動画だけでなく、このような胸に響くエモーショナルな動画も効果があるのだと、長崎県庁内で認識を共有できたことはいい機会だったと思います。
白水:私たちも機会があればこういった動画などを企画・演出していきたいと思っています。
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人の心を動かすのは、人の心。「パパ検定」は、子どものいる家庭だけへの問題提起ではなく、かけがえのない家族との時間や地域や社会との繋がりについて考えるきっかけとなる動画なのだと思います。
うちにはパパがいないしとか、私は子どもがいないし……と思わずに、皆さんで何かを感じ取ってみてはいかがでしょう。
<取材・文/河合桃子>

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