新型コロナ感染で従業員死亡 歌舞伎町の飲食店に6800万円賠償命じる 裁判所が指摘した「不十分な感染対策」

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新宿・歌舞伎町の飲食店で働いていた中国籍の男性(当時50歳)が新型コロナウイルスに感染して死亡したのは、店側の感染対策が不十分だったからだとして、遺族が約7800万円の損害賠償を求めた訴訟で、東京地裁(大須賀寛之裁判長)は、慰謝料など計約6800万円の支払いを命じた。判決は3月27日付。
この判決が報じられると、高額な賠償金もさることながら、新型コロナ感染の責任を雇用主側に認めることは珍しいのではないかといった驚きの声も上がった。判決は、店の責任をどのように認めたのか。
飲食店に住み込みで働いていた男性は2021年7月、新型コロナウイルス感染による肺炎の診断を受けた。その後、症状が悪化して同年9月に亡くなった。
判決文によると、繁華街に立地する店は、年中無休で24時間営業しており、男性が発症した当時も「まん延防止等重点措置」の対象地域になっていた。
しかし、措置期間中も営業時間に変更はなく、酒の提供も続け、20人規模の客がフロアを借り切って宴会を開くなどしていた。
東京地裁は、入店客数を制限しないなど、従業員の感染回避のための措置を十分に講じず、勤怠管理も適切でなかったなどとして「男性の生命、身体に危険が生じさせないようにする義務を違法に怠っていたものと言わざるを得ない」と指摘。男性に対する安全配慮義務違反(不法行為)を認めた。
店側は、従業員の消毒など感染対策に取り組んでいたと主張していた。
新宿区の保健所は、労働基準監督署からの照会に対して、新型コロナウイルスの感染源については、「特定(推定)されていない」と回答していた。
しかし、東京地裁の判決は男性が店以外の場所で新型コロナに感染するような機会はなかったとも認めている。
「男性は、体調不良を訴えた7月11日当時、住み込みで店舗の上階にある従業員の居室で独人暮らしをし、深夜から翌日昼間までの店舗における勤務に従事しており、6月頃以降は休日の取得ができないこともあったと認められる」(判決文から)
そうすると、「2021年6月ころ以降は、基本的に、~中略~、店舗以外の場所で新型コロナの感染者と接触する機会があったことはうかがわれない」としたうえで、店の感染対策が不十分かつ、男性を含む4人の従業員が同時期にコロナに感染したことも踏まえて、「男性が体調不良を訴えた7月11日以前に店において新型コロナに感染したものと認めることが相当」との判断を示した。
店側の安全配慮義務違反(不法行為)と、男性の死亡結果との間の因果関係も認められた。
判決は、店の感染対策が不十分だったとして、店は従業員が新型コロナに従業員が罹患することも生命に危険が及ぶことも十分に予見できたと認めた。そのうえで、男性の死亡慰謝料(2500万円)や逸失利益(約3865万)、男性の妻と子への慰謝料(2人で計300万円)などを賠償額に算定した。
訴訟のなかでは、店側の主張が退けられることもあった。
たとえば、一時帰国した男性が勤務再開した際に、すでにスタッフを雇ったことなどから店は就業を断ったが、家族を養うための生活費を稼ぎたいと懇願されたために勤務を再開させ、さらに稼ぎたい意向が強い男性は自ら進んで決められた以上の業務をこなしたと店側は説明している。そのような背景から、店で働くことの感染リスクを男性は自ら甘受していたとして、過失相殺されるべきだと店側は主張していた。
しかし、裁判所は「労働者が生命、身体へのリスクを伴う業務に従事し、使用者の指示に従って労務を提供した結果、使用者の安全確保が不十分であったことにより業務に内在するリスクが顕在化し、生命、身体に対する被害を受けたという場合に、労働者がリスクのある業務に積極的に従事したことをもって過失と評価することは相当でない」との考えを示して、店側の主張を退けた。
遺族代理人の川口真輝弁護士は「コロナ禍における感染防止対策のあり方という、国内で前例の乏しいテーマを扱う裁判でした。今回の判決にあたり、代理人弁護士として安堵するとともに、裁判所には、丁寧に事件に向き合っていただいたものと認識しています」と取材に答えた。
「立証については、当時の飲食店における営業の状況や勤務環境を示す証拠を、できる限り具体的に、多角的な面から提出することを重視しました」(同)
弁護士ドットコムニュースでは、店側にも判決の受け止めや控訴の方針について尋ねている。

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