豚熱発生で全頭殺処分に異論の声…経営破綻、300億円の負債抱えるケースも

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

家畜伝染病「CSF(豚熱=豚(とん)コレラ)」が発生し、豚の全頭殺処分に追い込まれた農場が、再建のめどが立たずに経営破綻するケースが生じている。
国は2019年10月に豚へのワクチン接種に乗り出したが、この3年の間に接種済みの豚でも感染は目立ち、栃木県内では今夏に過去最多の5万頭超が処分された農場もある。専門家からは全頭処分に異論も出始めている。(亀田考明)
「ビーッと声を上げて死んでいく豚を見るのがつらい」。栃木県那須烏山市の農場で、豚の殺処分に立ち会った男性は肩を落とした。同農場ではCSFのワクチンを接種済みだったが、今年7月に感染が判明。5万6298頭を殺処分した。
CSFは18年9月に岐阜県で26年ぶりに感染が確認された。今年10月21日までに、国内感染例は84件に上る。CSFは人体への影響はないが、豚への感染力や致死率は高い。
国は19年10月25日、発生地域と周辺の都府県でワクチン接種を開始。3年間で接種推奨地域は39都府県に広がり、全国の飼育豚の約6割が接種を済ませた。
一方、国はCSF根絶を目指して、家畜伝染病予防法に基づき、これまで発生農場内の全ての豚を処分することで封じ込めを図ってきた。すでに全国で計35万頭以上が処分された。
発生農場の経営への影響は致命的だ。国は処分した豚の価額分の手当金を支給する。だが、「申請書類の作成や金額の算定などで年単位の時間がかかる。豚を失うだけでなく、処分する間にも経費がかかり続ける」(栃木県内の農場関係者)として、支給を待たず、再建を諦める農場もあるのが現状だ。5万頭超を処分した那須烏山市の農場は、経営する東京都内の畜産会社が約300億円の負債を抱え、グループ2社とともに9月に民事再生法適用を申請した。今年3月に感染が確認され、全1137頭を処分した那珂川町の農家も廃業した。元経営者の女性(54)は「家畜とはいえ、愛着を持って育てた動物を一頭残らず殺すやり方では、農家の心が折れてしまう」と声を震わせた。
発生農場での全頭処分について、農林水産省は「接種済みの農場でも感染したケースは多い。ワクチンが万全でない以上、やむを得ない」との考えだ。
これに対し、専門家からは、国に再考を促す声が上がる。北海道大の迫田義博教授(ウイルス学)は、処分対象を豚舎単位に限定し、周囲の豚にはワクチンを追加接種する「部分殺処分」を提案。「感染防御に丸腰だった4年前とは状況は異なる」と指摘する。日本獣医生命科学大の青木博史教授(同)も「農場が大型化する中、農家の負担軽減のためにも、国は部分殺処分を検討してほしい」としている。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。