タイピング音や同僚の独り言…他人のことを考えない不快な「音ハラ」を許せない人が続出! 専門家は「〇〇ハラ」の急増に懸念 も…

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職場で集中して仕事をしたいのに、同僚たちの「カタカタ、ターン!」というキーボード音や、カップラーメンをすする音、イヤホンをせずに動画を視聴する音がうるさすぎる…。最近、こうした職場の騒音が「音ハラ(音ハラスメント)」としてメディアで注目されている。
【画像】「職場の雑音で仕事にならない」と訴える人も…
キーボードのタイピング音、ドアの開け閉め、そして同僚の独り言…。職場には、さまざまな他人由来のノイズが存在する。
SNSでは、こうした「音」に関する悩みが日々投稿され、それらは「音ハラスメント(音ハラ)」と呼ばれるようになった。そして、さまざまなメディアがこの問題を取り上げている。
ネット上では、同様の悩みを抱える人々の体験談が寄せられる一方で、「聴覚過敏では?」「なんでもかんでもハラスメントにするな!」といった反発の声も多い。
確かに、妊娠・出産・育児休業などに関するセクシュアルハラスメント(セクハラ)や、威圧的な言動によるパワーハラスメント(パワハラ)と単純に比較することはできない。
一方で、職場の音環境に悩みながら働いている人が大勢いることも事実だ。
「ベンチャー企業だったので、大体のパワハラとセクハラには耐えてきましたが、それでも退職のきっかけは音ハラでした」
そう語るのは、IT業界で働くAさん(33歳・女性)。音ハラをきっかけに転職を決意し、この問題を社会に認知してほしいという思いから取材に応じた。
「私の場合、タイピング音や同僚の私語は気になりませんでした。でも同僚が忘年会の景品でスマートスピーカーをもらってから、急にDJ気取りで音楽を流し始めたんです。
さすがにそれは上司に怒られていましたが、それをきっかけに職場の雰囲気が緩み、みんなイヤホンをつけずにスマホゲームを始めたり、お笑い芸人のラジオを聴きながらゲラゲラ笑うようになりました」
次第に、職場の「音」に対する耐性が限界に近づいていったAさんは、不快な環境から逃れるために部署異動を希望。そして、50代の社員が多いチームへ異動することとなった。
「落ち着いた年齢層のチームなら、音の問題に悩まされることはないだろうと思っていました。
でも実際には、電話口で『これはパワハラじゃないよ! なぁ!』と部下を恫喝する人や、パソコンに向かって『はぁっ!?』『どうしてどうして』とデカイ声で独り言を言う人もいて…。
最終的には耐えられなくなり、職場ですが、ノイズキャンセリングヘッドホンを装着しながら仕事をしていました」
Aさんのような職場での話声や雑音以外にも、他人がすする麺の音、鼻歌、爪を切る音に悩まされる人も少なくない。
その一方で、あらゆる「不快な音」をハラスメントと定義してしまうと、セクハラやパワハラといった、さらに問題視すべきハラスメントの深刻さが薄れてしまう可能性がある。
『パワハラ上司を科学する』(筑摩書房)などの著者である、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科教授の津野香奈美氏は、こう指摘する。
「本来、ハラスメントとは、職場で発生する敵対的な言動や、就業環境を害する言動をを指します。これは、英語におけるハラスメントの定義とも一致しています。
しかし、現在はハラスメントという言葉の意味が、単なる個人間のトラブルや『ちょっと不快』といったレベルのものにまで広がっている現状には、違和感を覚えます」
音ハラは、「自分が不快だからやめてほしい」と主張しているにすぎず、本来のハラスメントの定義とは異なる。
「そのため、『職場で問題となるかどうか?』という視点で、ハラスメントを明確に区別することが必要です。単なる個人の感覚の問題は、個人間の調整や配慮の範疇と整理する一方、明らかに就業環境を害しているものは会社が対応すべき問題でしょう」
具体的には、次のようなケースが考えられる。
「毎回、ドアを勢いよく『バーン!』と閉めたり、パソコンの操作中にエンターキーを『バンバンバンバン!』と激しく連打し、その音がフロア全体に響き渡る…。こうした行為は、単なる騒音ではなく、『不機嫌さ』や『怒り』を周囲に撒き散らしているように受け取られる場合がある。
その結果、『何をしているのかわからず、不安になる』『激しく怒っているように見えて、威圧感を覚える』『その怒りが自分に向けられるのではないかと恐怖を感じる』といった心理的ストレスを職場に与えかねません」
明らかに周囲の複数人が「怖い」と感じる、あるいは「音が大きすぎる」といったレベルに達している場合、それは就業環境を害していることを意味しますので、注意を行う対象となる。
職場の秩序や安心感を保つためにも、「もう少し周囲に配慮してほしい」と注意を促すことは、行なっても問題ないだろう。前出のAさんの職場はこれに近いようだ。
「こうした『パワハラ未満』の言動については、学術的にも『インシビリティ』という概念で研究が進められています。
明確なパワハラには該当しないものの、職場環境に悪影響を及ぼし、健康問題や生産性の低下を引き起こす可能性があることが、すでに研究で明らかになっています。
そのため、職場の円滑な運営を実現するためにも、こうしたインシビリティには一定の配慮を求めることが重要だと考えます」
明らかに迷惑な音に関しては、同じく迷惑と感じている仲間を見つけて「就業環境が害されている」と主張するのも一つの対応策になるのかもしれない。
取材・文/千駄木雄大

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