3月11日、東京都新宿区で動画配信サイトのライブ配信中、“視聴者”でもある男にサバイバルナイフで何度も刺され死亡した「最上あい」こと佐藤愛里さん(22)。佐藤さんと、元リスナーの高野健一容疑者(42)との間には、数年間に及ぶ金銭トラブルがあった。ライブ配信は気軽にコミュニケーションが取れる距離の近さゆえに、これまでも事件やトラブルが多々あった。有名ライブ配信者やライブ配信事務所社長に取材を行い、リスナーとの“トラブル”について実態を語ってもらった。
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ライブ配信アプリとはトークや楽器演奏、ゲームプレイなどをリアルタイムで配信できるアプリである。配信者はライバー、視聴者はリスナーと言われており、リスナーはライブ配信中、ライバーにコメントをしたり、アイテムを送る「投げ銭」をしたりすることができる。
ライバーは10代~20代の若い女性も多く、なかには「投げ銭」によって年間で数千万万円稼ぐ人気ライバーもいる。しかし、ライブ配信は気軽にコミュニケーションが取れる距離の近さゆえに、リスナーとライバー間でトラブルに発展するケースも考えられる。
ライバーの育成やマネジメントを行っている事務所「晴ライバーオフィス」社長の前田晴香さんに今回の事件について聞いてみた。前田さんは配信業に関わって9年目になり、自身も過去にライバーとして年間約1億円売り上げた経歴を持つ。
「ライブ配信をよく知らない一部の人は、今回の事件について『だからライブ配信は危険だ』とか、『ライブ配信だからトラブルの元になる』という勘違いをしています。しかし、今回はライバーが容疑者から直接お金を借りていたことが原因で起きた事件であって、ライブ配信がきっかけで起きた事件ではないと思います」
前田さんは、自身の事務所の所属ライバーには個人情報の管理に注意を払うよう指導しているという。
「以前、所属ライバーが配信中に地元トークで盛り上がり、うっかり口を滑らせて、自分の出身校をばらしてしまったことがありました。実家や自宅の住所など、個人情報が特定されかねないことは絶対に配信で話さないよう厳しく指導しました」
殺害された佐藤さんは高田馬場の路上でライブ配信中に“リスナーだった高野容疑者にサバイバルナイフで刺された。これについて前田さんはこう話す。
「ライブ配信はアプリごとに特性やルールが異なっており、危険性の高さから屋外での配信を禁止しているアプリもあります。事務所の所属ライバーにも、現在地がわかるような配信は絶対にしないよう伝えているし、リスナーと直接会うことも禁止しています。
しかし、ライブ配信アプリは誰もが気軽にできるものなので、中には出会い系感覚でアプリをしているリスナーやフリーのライバーがいるのも事実です」
一方、情報管理に気をつけている前田さんも、リスナーからネット上の誹謗中傷を受けて、顧問弁護士に相談し裁判に至ったことがあるという。
「リスナーと直接会うことはなくとも、トラブルに発展するケースはごくまれにあります。所属ライバーがリスナーからのアンチコメントで悩んでいたので、私からそのリスナーに注意したことがありました。
そしたら、そのリスナーの矛先が私に向いて、SNSで私のデマを発信されたり、私の顔に落書きをした画像をアップされたりしました。あまりにもひどい内容だったので、弁護士さんに相談し、裁判をすることになり、その結果、勝訴しました」
それにしても、実際に会うこともない画面越しの相手に、なぜ大金を「投げ銭」するのだろう、前田さんはこう分析する。
「投げ銭をするリスナーの中には、家でお酒を飲みながら配信を見るのを楽しみにしている人や、話し相手を求めている人など、ライブ配信を精神的な支えにしている人もたくさんいます。
キャバクラでお気に入りのキャバ嬢にシャンパンを入れるのと同じような感覚で、投げ銭するリスナーも多いと思います」
ライブ配信アプリで毎月100万円以上稼ぐ、人気ライバーのAさん(20代女性)にも話を聞いた。
「私のリスナーで高額投げ銭するかたは、持病を抱えていてなかなか外に出られなかったり、離婚して寂しい思いをしていたりするような“訳アリ男性”が多いです。
そういう人たちにとって、直接会わなくても女性とコミュニケーションが取れるライブ配信アプリは、キャバクラとかに比べて気軽な気持ちで楽しみやすいんだと思います。
しかし、高額の投げ銭をされたあとに見返りを求められるケースも多いです。毎月100万円以上投げ銭してくれていたリスナーに『直接会ってくれないならもう投げない』と言われたこともあります。
私は怖かったので断ったのですが、お金に目がくらんでついリスナーと直接会ってしまい、パパ活的なことをしているライバーもいると聞きます。
また、私の周りには、高額投げ銭する人を切らさないようにするために、キャバ嬢の営業LINEみたいにこまめにリスナーと連絡を取り合っているライバーもたくさんいます」
10年以上ライブ配信のみで生計をたてるBさんはオフ会での恐怖体験を語った。
「ライバーの中には定期的にリスナーとのオフ会を開催する人が多いです。実際に会っておくことでリスナーとの関係が切れにくくなるし、オフ会の参加費や当日のチェキやグッズの売り上げでも稼ぐことができるからです。
数年前、オフ会後にリスナーさんに後ろからずっと後をつけられて、怖くて交番へ駆け込んだことがありました。それ以来、オフ会をするときには必ず、事務所のスタッフに来てもらうようにしています。
あと、オフ会当日はリスナーさんからプレゼントをもらうこともあります。以前、ペットボトルを直接手渡しされたのですが、そのペットボトルを触った瞬間、異様にヌメヌメしていて、よく見ると体液的なものがついていました。
そのときは怖くなってすぐに裏へ行き、手を洗いました。それ以来、飲食物のプレゼントは一切お断りしています」
これまで複数の人気ライバーを取材してきた芸能ライター(40代)は業界の危機管理の“あまさ”を指摘した。
「事務所にもタレント(ライバー)にも、『危なっかしい』と感じたことは何度もありました。大手芸能事務所に比べるとタレントはすぐ天狗になり管理もあまく、所属ライバーのプライベートはもちろん仕事内容も把握できていない。トラブルについて問い合わせても『業務委託なのでわかりかねます』とホウレンソウをしていない印象を受けますね。
今回の事件を受け、多くの事務所や配信元の会社がライバーたちに配信場所や個人情報の管理を徹底するように注意喚起がおこなわれたといいます。ですが、ペナルティなどを配信者や事務所につけない限り、トラブルは繰り返されてしまうでしょう」
2度と同じような事件があってはならない。
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取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班