石破茂首相が首相公邸で開催した、自民党の当選1回の新人議員との会食で、1人10万円の商品券を手渡していたことがわかった。3月3日の会食の日、石破首相の秘書は会食前に、15人の新人議員の事務所を訪れて「お土産代わり」として手渡したといい、総額は150万円に及ぶ。石破首相本人にかかわる 政治とカネのスキャンダルだ。
この会食に出席した新人議員の一人、Aさんが「現代ビジネス」にこう証言する。
「石破首相の秘書が急にお見えになられて『総理からのお土産です』と百貨店の袋から取り出して、手渡されました。中身を見ると分厚いもので、確認したら商品券でしたので、正直、いいのかな?と思った。
他の新人議員に連絡を取ると『自分のところもきた。どうしよう』と困惑していた。とりあえず、事務所の鍵のかかる机に入れています。政治とカネが注目される中で、どう対応していいかわからない……」
3月13日、石破首相の商品券10万円で初報を打ったのは、朝日新聞だった。午後8時42分に《石破首相側が15人に議員側に商品券配布 10万円ずつか、複数証言》とフラッシュで速報。その後、他のメディアも相次いで、報じる中で、石破首相は急遽、深夜11時20分から取材に応じざるを得ない状況に追い込まれた。
「3月3日、自民党所属の当選1回の衆議院議員15名、会食。それに先立ち、出席議員の事務所に商品券をお届けいたしました。会食のお土産としてご家族への労いなどから、私自身の私費、ポケットマネーで用意をしたものでございます。これは法律に抵触するものではございません」
と火消しに走った。記者から政治資金規正法に触れることはないのかと質問が出ると、石破首相は「政治資金規正法第何条のどの趣旨をおっしゃっておられますか。第何条のどの条文をおっしゃっておられますか」と記者に質問を繰り返した。
「21条の2項に抵触するのでは?」とさらに聞かれると「ですので、そこのどこの部分ですか?」と再度、記者に確認。
「21条2項、政治活動ではないか?」と聞かれると「政治活動ではございません。どこが政治活動というのをおっしゃっておられますか」と反論。いらだっているのが明らかだった。
政治資金規正法21条の2項は《公職の候補者の政治活動に関する寄附の禁止》として、政治活動の寄附を禁じている。政治資金に詳しい神戸学院大学の上脇博之教授はこう語る。
「石破首相がポケットマネー、政治活動ではないと強調したのは政治資金規正法21条の2項を念頭に置いて危ないと感じたからでしょう。しかし、そこを強調すればするほど、政治活動に見えますよ。公邸で官房長官らも参加しているのですから、政治活動、政治資金規正法に触れるのではないかと感じます」
「安倍派、二階派、岸田派などから政治とカネがの問題が噴出するなか、昨年9月の総裁選で石破首相が選出された理由は、かなり前の派閥を解消し、カネにクリーンという点が大きく評価されたからでした。
しかし、今回の商品券10万円を15人に渡した問題が発覚しました。合計150万円というのは、今の政治情勢から鑑みれば突出した金額。大きなイメージダウンはすぐに政局に直結してもおかしくない」
こう話すのは、石破首相と付き合いも長い、政治評論家の田村重信氏だ。
なぜ、今回、朝日新聞がいち早くスクープすることができたのか。会食があったのは3月3日と10日以上も前のことである。
自民党の安倍派の国会議員、B氏はこう明かす。
「3月5日頃だったと思うが『石破首相が手土産だと商品券10万円をくれた』と新人議員が言っていた。本当かなあと訝しんでいたら、そんな新人議員が他に何人もいるという噂が党内で広がりつつあった。
私自身も当選1回の時に、官邸で食事会があって確か20万円か30万円くらいの商品券か、それに類するものを頂戴した経験があるから本当だと思った。
そんな中、『反石破』の複数の議員がその情報を記者にささやき、朝日新聞や他のメディアも取材をはじめた。私もテレビ局にもこんな情報があるよと教えたよ。
メディアのなかで、最初に事実関係を詰められたのは、朝日新聞だったということ。石破首相にすれば身内から刺されたってことだね」
このB氏は最後にこう言った。
「これで党内政局は一気に加速する。つまり石破おろしですよ」
今年は夏に参議院選挙、6月には東京都議選と大型選挙が待ち受けている。党内では、低迷する支持率、人気のなさに石破首相では選挙の顔にならないと「首相退陣論」が水面下で渦巻いている。
3月12日、自民党の参議院総会で、西田昌司参議院議員は
「今の体制では、参議院選挙戦えない。早く総裁選をやって、新たなリーダーを選び直す必要がある」「みんな石破首相を交代させなきゃと思っている」
と石破首相に退陣を突き付けた。
自民党の大臣経験者、C氏は
「ただでさえ、あちこちで石破おろしの火だねがある。そこに15万円の商品券の問題で、石破首相自身が、火をつけてしまった。長期政権は、もはや難しくなった。
こうなった以上、次の総裁として選挙に勝てる顔を選ぶべきだ。ただ、石破首相もせっかくつかみ取った首相の座は離したくない。
怖いのは、石破首相がやぶれかぶれで、ゴールデンウイーク直後あたりに解散総選挙に打って出ること。ここで惨敗すれば、政権交代になりかねない。当然、都議選や参議院選挙でも勝てないだろうから、自民党がボロボロになってしまいかねない」
一方で、立憲民主党の幹部はこう言う。
「すでに衆議院は少数与党に追い込んでいる。今回の商品券事件で、維新も国民民主党もとても、自民党に同調はしないはず。そうなれば、内閣不信任案を出して多数をとることができる。
衆参ダブルより、先に解散総選挙が来るのではないか。石破首相がこんな形で自ら、こけてくれるなんて、野党にとってはラッキーな展開だ」
土俵際に追い込まれつつある石破首相。前出のB氏は意気軒昂にこう語る。
「政治資金ではない、私費でやったので悪くないで押し通せると踏んで、深夜の記者会見に臨んだ。しかし『オレは悪くない』という態度がよけいに反感を呼んでいる。
もう石破首相ではダメだ。安倍派も裏金事件ではみそぎが終わっている。自分でやめないなら、自民党としては不信任で負けるのは恰好悪いでしょうから、こちらがおろすしかない。派閥がなくなっても結束はまだまだかたいものがある。これまで石破首相にやられた分を倍返ししてやりたよ」
田村氏もこう続ける。
「記者会見を見た印象だが、私費だからいいだろうという感じにとらえた国民が多いんじゃないか。この物価高、賃金は上がらない中で、石破首相の口ぶりから『たった1人10万円』『過去にも配布した』とも話した。あまりに国民感情からは離れており、石破首相らしくない言葉でブーメランとして返ってきそうな気配です。これまで自民党の中では『良心』というイメージだったのに…」
10万円事件で、一気に政局は流動化しかねない。
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