〈年金月21万円・貯金ゼロ〉浪費家の65歳夫が突然、節約家へ変貌…怪しむ66歳妻が耳にした「とんでもない隠し事」【FPが解説】

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長年染みついたお金の使い方を変えることは容易ではないでしょう。しかし、身近な人の金使いに変化があったときは見逃さないほうがいいかもしれません。本記事では、老後資金の考え方についてFP相談ねっと・認定FPの小川洋平氏が解説します。

加藤さおりさん(仮名/66歳)は夫の聡さん(仮名/65歳)と暮らしています。
聡さんは昔から浪費家で、友人付き合いが広く、奢り癖がありました。給料が入ると、生活費を差し引いたほとんどがゴルフや酒代に消え、子供が100点を取った祝いや、さおりさんが趣味の陶芸でお皿を完成させた祝い、馬券が当たった祝いなど、ささやかな出来事も格好の浪費の口実に。決して高収入とはいえないにも関わらず、周りの人にまで気前よく奢ってしまうのでした。さおりさんはそんな夫の明るさが好きでしたが、その結果、老後の貯蓄はほぼゼロという状態で定年退職を迎えることになりました。
年金受給額は夫婦2人で月額約21万円。さらにさおりさんはパートで月10万円、聡さんは通っていたゴルフ場で働き、月15万円の収入を得て生活しています。
「いつになったら仕事を辞められるのやら……」そんな風に考えながら過ごしていたある日、聡さんから思わぬ言葉をかけられました。
「うちの保険、見直ししてもらうから証券を出してくれ」
これまでお金のことには無頓着だった聡さんが、突然そんなことを言い出したので、びっくりしました。聡さんはさらに、スマホ料金の見直しもしたいとまで言い出します。さおりさんは、夫が外食を意識的に控えるようになっていることにも気が付きました。
聡さんの変貌ぶりに怪しみつつも、さおりさんは思い当たることもありました。少し前に、聡さんが昔からの友人との付き合いが減ったと愚痴をこぼしていたのです。また、寝室で通帳をみて物憂げな表情を浮かべている姿も目撃しました。おそらく、年齢を重ねて友人付き合いが減り、定年退職を迎えてようやく老後の不安を感じ始めたのでしょう。いまになってようやく、節約と貯金を意識しはじめたのだと思いました。
さおりさん自身も、パートをこの先10年、20年と続けられるとは思えません。夫が節約を始めたのはよいことだし、水を差さないよう静かに見守ろうと決めました。
しかし、それから1年近くが経ったとき、思わぬ事実が発覚します。

ある日、聡さんはさおりさんに「話がある」と切り出しました。聡さんの口から語られたのは、遺伝性の神経の難病に罹患したという衝撃的な事実でした。
以前、聡さんは右足に違和感を覚えて病院を受診したところ、医師から病名を告げられたそうです。進行には個人差があるものの、段々動きが鈍くなっていき、いずれはほとんど動かないような状態になるとのことでした。完全に寝たきり状態になることもあり得ると聞き、さおりさんは言葉を失いました。
自身の難病を知った聡さんは、妻に負担をかけないよう節約を始めたのです。自分が動けなくなったときのために、と初めて貯金というものを意識するように。
まさかの事態に動揺を隠せないさおりさんでしたが、夫とともに病気と向き合い、将来のために、夫が自分で動けなくなった場合の生活資金を2人で協力して貯めていこうと気持ちを切り替えました。
今回、聡さんは自身の難病を知って貯蓄の必要性に気がつき、節約を始めました。
老後資金が不十分な場合、働いて収入を得ることで生活費を賄うことが第一の選択肢です。早い段階で支出を見直して資産形成を開始することも大切ですが、リタイア後も働かなければならない状況で働けない状態になると、収入を失ってしまうことにもなります。
一般的に、子供が独立したあとの老後には高額な保障は不要と考えられます。しかし、今回のケースのように、収入を失ってしまうと生活に支障が生じるような場合には、生命保険で対策することも検討すべき手段の一つです。
聡さんのような状態の場合、症状が進行し所定の状態に該当した場合に支払われるような商品や、資産形成と保障を兼ねたような商品で事前に準備することもできます。当然罹患後に加入することはできませんのであくまで準備であることには注意しましょう。
また、リタイア時に十分な資産を確保できていない場合には、公的年金の繰下げを行い、元気なうちは働いて収入を得て、完全にリタイアしたあとの公的年金を増額することも一つの選択肢です。
老後の資金計画、ひいては人生全体の資金計画を考えるのは、少しでも気になったそのタイミングです。どうしても優先順位が低く、考える機会も少ないかもしれませんが、できるだけ早期に自分の人生設計や家計の状況と向き合い、働き方、資産形成プラン、自分たちのリスクとその対策について考えていきましょう。

融広報中央委員会『家計の金融行動に関する世論調査』(令和5年)によると、60代の二人以上の世帯で21%、5組に1組もの世帯が「貯蓄なし」と回答していることがわかります。
リタイア時に貯蓄がない場合でも働く年数を伸ばし、公的年金を繰下げしながら貯蓄を増やすなどの対策は可能です。できるだけ早期に計画を立てて資金計画を考えることが大切になります。また、今回は難病の発覚によって節約、貯蓄を意識するようになりましたが、高齢になると介護リスクも高まりますので、難病にかからずとも夫婦の一方、もしくは両方が介護を必要とする状態となったときのための資金準備も考え、生命保険なども活用しながら対策を考えておきましょう。
小川 洋平
FP相談ねっと
ファイナンシャルプランナー

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