《サービスエリアのゴミ箱に「骨つぼ」が…》増える「遺骨の放棄」我々はどのように向き合うべきか

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2017年、静岡県内にある「NEXCO中日本」管理下の高速道路のサービスエリアにあるごみ箱そばで骨つぼが見つかった。
【写真から考える】増加する「遺骨の放棄」とどのように向き合うべきか
近年、高齢化が進み、引き取り手がいない「無縁遺骨」が増加している。また「墓じまい」についても全国で15万件を突破し、ここ数年で過去最高を更新している。こうした背景もあって、遺骨を放棄するケースも増えているとみられる。実際に、サービスエリアやコインロッカーなど、思いもよらぬ場所で遺骨が見つかるというのだ。
しかし、遺骨の放棄は法律違反であり、過去に逮捕事例もある。法的側面、そして背景に潜む社会の根本的な問題について、中央大学法学部教授の遠藤研一郎氏に話を聞いた。
「遺骨の扱いを巡る問題は、民法における“所有権”の概念と深く関わっています。人は生きているあいだは権利の主体ですが、死後はその主体性を失います。このため、遺骨を私物のように扱えるのかという点が問題となるのです。
例えば洋服であれば廃棄処分が可能ですが、遺骨に関しては、刑法や墓地埋葬法によって厳格な処分方法が定められています。
刑法190条では、死体や遺骨の遺棄行為を犯罪とし、3年以下の懲役が科せられます。また、墓地埋葬法では、遺骨は必ず決められた場所で埋葬しなければならないと定められているため、サービスエリアやコインロッカーでの放棄や、自宅での埋葬も、この法律に違反する行為です。
一方で、これらの法律の罰則は、必ずしも遺骨の放棄行為を抑制できているわけではありません。特に、1000円以下の罰金という軽微な罰則は、一人ひとりのモラルを問うようなレベルであり、抑止力としてしっかりと機能しているとは言い難いです。遺骨の放棄という行為が、殺人や窃盗のような重大な犯罪とは性質が異なるため、法定刑が軽くなっていることが要因の一つと考えられるでしょう」(遠藤教授)
今後もしサービスエリアや、コインロッカーなどに遺骨を捨てる人が増えた場合に、罰則などが厳しくなる可能性はあるのだろうか。
「可能性は0ではないと思いますが、社会のルールの作り方として、まず罰則を厳罰化すれば犯罪がなくなるというのは、少し違います。厳罰化しても、犯罪数は少なくならないでしょう」(遠藤教授)
なぜ、罰則の厳罰化だけでは問題が解決しないのか。遠藤教授は、遺骨の放棄という行為が社会全体の価値観や構造と深く結びついていると指摘する。
「かつては、家族が故人の遺骨を供養することが当たり前でした。そもそも遺骨を捨てるなどという行為自体が、考えにくい社会だったのです。しかし現代社会では、核家族化や少子高齢化が進み、家族関係が希薄化しています。
結果として、遺骨の引き取り手がなく、無縁となるケースが増加しているのです。一概に“無縁遺骨”といいますが、では本当に親族がいないのかというと、“いる”ケースは少なくありません」(遠藤教授)
総務省の2023年の調査(「遺留金等に関する実態調査結果報告書」1741の市区町村と47都道府県を対象)によると、2018年4月から2021年10月までの3年半の間において、死亡時に引き取り手がなかった死者は約10万5000人にのぼる。約10万5000人の死者のうち、ほとんどを占める約10万3000人は身元が判明しているにも関わらず、引き取り手がいなかった死者である。
墓じまいの際に、遺骨の処分に困る人も少なくない。納骨堂や永代供養墓への移転、散骨など、選択肢は様々あるが、経済的な負担や故人とのつながりに対する複雑な感情などが、決断を難しくしているケースもある。
この墓じまいについて、海洋散骨事業を展開する株式会社ハウスボートクラブは、2023年に「墓じまい」という言葉を知っている20歳以上の男女、871名を対象に墓じまいに関する意識調査を実施した。
本調査によると、墓じまいを検討する理由として、「子どもに迷惑をかけたくない」が最多の27%を占めた。この回答者のうち58.1%が65歳以上の高齢者だった。
一方、20代では「管理費などの費用が高額だから」という検討理由が目立ち、墓守りの長期的な経済的負担を懸念していることが明らかになった。このように、世代間で、墓じまいに対する意識に大きな差がみられる。
「人々の価値観や生活スタイルの変化に伴い、墓のあり方も多様化しています。特に、経済的な負担を軽減したいというニーズから、散骨など、ランニングコストのかからない埋葬方法を望む人は増えています」(同社代表取締役社長・赤羽真聡氏)
経済的に余裕のない人にとっては、葬儀費用や墓地の維持費が負担となるため、遺骨の適切な処分を諦めてしまうケースもあるようだ。こうした状況下では、罰則を厳しくするだけでは、遺骨の放棄という行為を根絶することは難しいのかもしれない。
行政も、この問題に対してさまざまな取り組みを行っている。例えば、一部の火葬場では遺骨の「焼き切り」を選択できるようになったり、自治体で無償の永代供養墓を整備したりするなど、遺骨の処分に関するさまざまなオプションが増えている。
ひとつ方法を間違えると犯罪にもなりえる、遺骨の処分。「家族の形」や「墓じまい」のあり方が多様化した今だからこそ、社会全体で真剣に向きべき問題なのかもしれない。
取材・文/宮崎澄子

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