小室佳代さんが作りたかったのは料理よりも「お嬢様イメージ」 「“世間につけられた下品な印象を覆してやる”という強い決意が」

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小室佳代さん(58)の自伝エッセイ『ブランニューデイ あたらしい日』(内外出版社)が発売された。実際に本書を読んでみたライターの冨士海ネコ氏は「ヒロインとして注目を浴びることへの陶酔と高揚感を感じ取った」という。
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【写真を見る】佳代さんの自伝エッセイ その内容とは
『ブランニューデイ あたらしい日」は2月6日に発売され、Amazonでは発売当日、「子育てノンフィクション」カテゴリーで1位に。大型書店でも売り切れが相次いでいるようだ。私も都内の書店を回って、3軒目でようやく1冊見つかった。皇室女性と結婚した息子を持つシングルマザーという、数奇な運命の女性に注目している人はそれだけ多いということだろう。
時を同じくして、イギリスのヘンリー王子と結婚したメーガン妃のNetflix番組「ウィズ・ラブ、メーガン」の予告編が公開。こちらもゴージャスな料理やおもてなしを通して、彼女の人となりを紹介していくという仕立てだという。王室から離脱後、夫とアメリカで暮らしているメーガン妃だが、いまだに彼女の言動は、佳代さん同様に議論を呼んでいる。
佳代さんとメーガン妃の共通点は多い。ロイヤルファミリーと関係を結んだことをきっかけに、国内で大バッシングにあったバツイチ女性。派手な服装の写真が報じられたり、「銭ゲバ」と中傷されたり、あまりの過熱報道にメンタルに不調をきたしたこともあるという。
ふつうなら、メディアや世間に恨みごとを言いたくもなるに違いない。あるいは、これ以上世間の耳目を集めないよう、表立った発信は控えようとするだろう。けれども佳代さんはどちらでもなかった。むしろ、そんな「普通の人」じゃないのよ私は、と宣言したかったのかも、というのが、エッセイを一読した印象だ。
発売前は、料理エッセイという触れ込みだった佳代さんの本。けれども本書の中で料理が出てくるのはようやく50ページを超えてからである。本の序章では、出版の経緯について「自分の苦労を語ることで、同じようにメンタル不調や悩める人たちの助けになれば」と明かしているが、かといって闘病について割かれている箇所が多いわけでもない。もちろん元婚約者との金銭トラブル話も無く、息子の伴侶について触れたのも2~3行程度である。
料理指南もなく、闘病記でもなく、暴露本でもない。要は、読者に対するサービスが全くない。というか、あえて世間が欲しがるような情報は書かない、という強固な意思すら感じるのだ。一貫して伝わってくるのは、世間とは一線を画す「お嬢さん」としての自己イメージ。語り口は優しげだが、世間につけられた下品な印象を覆してやる、という、強い決意がうかがえた。
紹介される料理も、日本の食卓ではあまりなじみのないドイツ料理が多い。佳代さんが薫陶を受けた、鎌倉山でお店を営んでいたドイツ人マダム直伝のレシピのようだ。ただしレシピは分量すら書かれておらず、5行ほどの説明と佳代さんの自筆のモノクロイラストのみ。だから完成した料理の彩りがどうなるか、いったい何人分くらいなのかというのは想像するほかない。一番最初に紹介される「ザワーブラテン」なるドイツ料理に至っては、「月桂樹や野菜のクズ(玉ねぎ、人参、セロリ葉等)と一緒に白ワイン、水、酢のマリネ液に2~3日漬け込む」とあり、「3日もかかるのかーい!」と思わず笑ってしまった。
これほどに料理レシピは不親切なのに、自分や周囲の人間のステータスに関してはずいぶん描写が細かい。鎌倉に生まれ育ち、ピアノに華道にと育った少女時代。母は「外資系企業」、夫は「都市計画のビッグプロジェクトに関わる部署で働く」「一級建築士の資格」持ち。圭さんのインターナショナルスクール時代に出会った同級生の母は、「産官学各界の会議で同時通訳として活躍」する、「海外の大物女優から信頼も厚」い、会社経営もこなすスーパーウーマンだったそう。その女性から「富裕層を対象としたツアー」を提供する旅行会社のフォーラムで、圭さんに通訳のアルバイトの打診があったこと。その息子は強制したわけでもないのに、「おとうさま・おかあさま」と両親を呼んでいたこと、などなど。
それらは元婚約者との金銭トラブルや、息子と皇族女性の結婚について、金の亡者だの上昇志向が強いだのと浴びせられた批判への抗議にも見える。自分も息子も豊かなバックグラウンドと教養を持つ人間であり、成り上がりのように言われるのは不愉快だと。なにせ序章タイトルは「対等な関係性が居心地いいね」である。息子とのフラットな関係性について語ってはいるものの、息子以外との人間関係についても含みを持たせるようなタイトルと言っては深読みしすぎだろうか。
佳代さんは夫から見た自分の印象を「おっとりしたお嬢さん」とつづっているが、その夫との出会いについて書かれた章では、ひと昔前のケータイ小説のようなタイトルが並ぶ。「異国文化に恋した70’s~横浜物語~」「ラブストーリーは突然に~夫との再会~」……最後の「Everything is gonna be Alright♪」という締めの一文はもう、脱力しそうな懐かしさというか古臭さだ。病を患う悲恋のヒロインというのは王道の展開だが、佳代さんの文章からも、ヒロインとして注目を浴びることへの陶酔と高揚感が感じ取れるような気がするのである。
育児ノンフィクションとはいうものの、佳代さんの育児テクニックを再現できる人はそういない気がする。個人的には「おかあさま」と呼んでいたはずの息子が、中学生を過ぎたあたりから佳代さんのことを「あなた」と呼んでいるような記述に引っかかった。「あなたは結婚した方がいいよ」と度々言っていたという思い出に始まり、「もっとあなたらしく」「あ、そう。それはあなたの意見ね」など、親子が逆転したかのようなやりとりも記されている。不思議な親子関係というか、息子から軽んじられているように見えるのだが、佳代さんが掲げるのは「自由主義」とのこと。息子から「叔母さんみたい(な距離感)」と言われても、ベタベタしない子育てを評価してもらえたと、ポジティブに受け止めてきたようだ。
「ズレている」という批判は、セレブを目指す人にはむしろ褒め言葉に聞こえることだろう。お金持ちの子女たちのぶっ飛んだ金銭感覚や行動規範は、眉をひそめられるより、「浮世離れしたセレブならでは」と好意的に解釈してもらえることも多い。
メーガン妃の番組もまた、カリフォルニアの山火事による被害など、食事さえ満足に取れない人もいるのにセレブパーティーごっこかと批判が出ているという。佳代さんの「ザワーブラテン」も、材料を一式そろえるだけでも結構な費用が飛ぶ。白ワインに月桂樹、野菜だって今は高い。それを3日もかけて作るような時間もお金も余裕がある人が、日本にどれだけいることだろうとは思ってしまった。
心身に不調をきたすほどバッシングされながらも、世間の同情や共感を集めることにはあまり関心のなさそうな佳代さんのエッセイ本。ドイツでは「名よりも実を取る」という意味の「空腹を満たすのは月桂樹の葉(古代ローマで王冠に使われた)ではなくジャガイモ」ということわざがあるというが、自伝も爆売れで「お嬢さん」イメージも収入も手に入れた佳代さんの、“料理上手”ぶりにはうなるばかりである。
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冨士海ネコ(ライター)
デイリー新潮編集部

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