「騙したな!」元商社マン・現無職の34歳息子、年金月24万円の70代両親の“老後資金1,500万円”をしれっと盗む…母は隠蔽・父は自失、意外な結末【FPが解説】

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親子の金銭トラブル。事情が複雑に入り組み、トラブルの収束が付かないケースも少なくありません。親が高齢で、もし老後資金に手をつけられてしまったら、親子共倒れでしょう。我が子の過ちとはいえ、警察沙汰にするわけにもいかず、途方に暮れた先には……。本記事では、Aさんの事例とともに社会保険労務士法人エニシアFP代表の三藤桂子氏が親子の金銭トラブルについて解説します。

Aさんは75歳を迎え、70歳の妻と暮らしています。現役時代のAさん夫婦は、昭和の日本らしい「夫は外で働き、妻は家庭を守る」という家庭でした。夫は定年後に再雇用で働きつづけ、70歳で引退。一人息子を含めた3人で暮らしています。
Aさん夫妻の貯蓄額は退職金と合わせて2,000万円超。年金は月額24万円※と、厚生労働省のモデルケースである夫婦の年金額と同額程度を受け取っています。夫の現役時代の給与は高いとはいえませんでしたが、贅沢しなければ年金だけで暮らしていける金額です。
※2024年度の夫婦2人分の老齢基礎年金を含む標準的な年金額は23万483円
退職金の一部を使い、住宅ローンを完済。ほかにローンはありません。将来、一人息子の世話になることがないようにと、なるべく貯蓄に手をつけず質素倹約し、ささやかながら穏やかな年金生活を楽しんでいます。
一人息子は34歳独身です。かつてAさん夫婦はお互い良縁に恵まれず、遅い結婚となったため、子どもは40歳を過ぎてから授かりました。そのため、妻は昔から息子に甘かったといいます。有名私大を卒業後、商社に就職した息子のことを、Aさんたちはとても喜び、誇らしく思っていました。
ところが息子は、人間関係に疲弊し退職。次の仕事に就くまでと、両親の年金で一緒に暮らしています。「いつになったら再就職するのだろうか……」Aさんの悩みはもっぱら息子のこと。25歳で退職してから10年近く経ちますが、実は定職に就いていないのです。
これまで、何度も「そろそろ定職に就いてほしい」と話してきましたが、もう少し待ってほしいというばかり。3人の生活は年金だけで賄うには足りず、少しずつ貯金を取り崩しています。さらに息子は時折、友人と会うなどの理由で小遣いを要求する始末。妻は息子に甘いことから、こっそり小遣いを渡していたようです。
しびれを切らしたAさんは、「1年以内に自立(職に就く)しろ。それ以上は絶対に面倒みないぞ。1年後も無職のままだったら、この家にあるお前のものはすべて捨ててやる」そう宣言します。息子は「わかった、大丈夫」と真剣なまなざしで答えたので安心し、それからAさんはなにもいうことなく見守っていました。

ある日、息子から「迷惑かけた、そろそろ自立する。友人の起業した仕事を手伝うことにしたから、職場近くのマンションに引っ越す」といわれたAさん。友人の会社ということで、収入面に一抹の心配はあるものの、しっかり働いてくれるなら応援すべきだと快く送りだすことにします。
Aさんは、引っ越し費用など、最初はなにかと入り用になるだろうから餞別でもと思い、久しぶりに銀行へ向かいました。すると、2,000万円あったはずの貯金が500万円になっていたのです!
「なぜ?」Aさんは妻に詰め寄ります。妻は以前、息子に「自分のせいで貯金が少なくなるのは忍びないから、資産運用してあげる」といわれ、700万円が入っている通帳一式を息子に預けたそうです。妻は、息子だからとAさんに黙っていたとのことでした。妻は「運用成績がよかったから」と、息子から何回か小遣いをもらったこともあり、信じきっていたといいます。
「全部渡したわけでもないのになんで500万円しかないんだ……」途方に暮れるAさんに妻が話します。
妻は2年ほど前、「災害が起きたとき知らないと困るから」と、息子から日ごろ通帳等をしまってある場所を聞かれ教えました。そのときは特に気に留めていませんでしたが、あとになって、毎月のように引き出されていることに気がついたといいます。最初はAさんが引き出していると思っていた妻でしたが、息子だと知ってからもAさんに話すことができず、隠してきました。
息子は金融機関に疑われないように、毎月定額(30万円)を引き出していました。いくら親のお金とはいえ、Aさんからすると盗んだと同じ。妻が息子に甘いのを知っていて、騙すようなことをするなんて……と、Aさんの怒りは止まりませんでした。
しかし、我が子の過ちを警察沙汰にすることもできず、Aさんは頭を抱えました。息子に連絡するものの繋がらず。引っ越し先のマンションに行くも、息子の名前で借りている部屋はありませんでした。

妻が息子の所業を隠していたことから、Aさんたちの夫婦仲はギクシャクしはじめ、結果、離婚することに。年金分割し、財産分与は住宅を売って半分にわけることで合意します。Aさんの受け取り額は老後資金の残金500万円と家の売却で1,000万円、合計1,500万円となります。
一方、妻の受け取り額は家の売却益1,000万円のみ。妻は「妹のマンションに行く」と、引っ越しました。しかし、妻が向かった先はなんと、息子が購入したマンション。
「夫の亭主関白に長いこと悩んでいて、仕事をしていたころは家にいる時間が少なかったので耐えられました。でも、引退してからは毎日一緒にいるようになり、だんだん我慢ならなくなってしまったんです」後日、妻から手紙が届きました。
息子は一緒に暮らしているうちに感じ取り、母親のために一役かったようです。妻は息子の真相を知らずにただ隠蔽していたそうですが、息子の一件で別れることができたことになります。
Aさんは「息子の件を妻は本当に最初は知らなかったのか、加担していたのか、そんなことも考えましたが、いまとなってはどうでもいいです。家族のために一生懸命働いてきたつもりでしたが、妻にも息子にも見放されてしまった結果がすべてなのかもしれません」ぼんやりと話します。
夫婦の関係はさまざまですが、一般的には人生100年をともに楽しく過ごせる関係であり続けるよう、相手を思いやる気持ちやコミュニケーションをとるようなことが大切ではないでしょうか。
〈参考〉令和6年度の年金額改定についてお知らせしますhttps://www.mhlw.go.jp/content/12502000/001040881.pdf
三藤 桂子
社会保険労務士法人エニシアFP
代表

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