フリーアナ時代にストーカー被害、加害者の急死でネット中傷受けた女性…寺を建て苦しむ人の声聞く

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インターネットに誹謗(ひぼう)・中傷を書き込まれる被害を受ける人が後を絶たない中、改正プロバイダー責任制限法が10月に施行され、損害賠償請求に向けて投稿者を突き止めるための手続きが簡略化された。
これまで特定に長い時間がかかり、泣き寝入りするケースが多かったため、群馬県内からは被害者救済への期待の声が上がっている。(飯田尚人)
「悪口を書けば代償を払わなければならないということが広まってほしい」。伊勢崎市の寺院「心月院 尋清寺(じんせいじ)」で住職を務める高橋美清(びせい)さん(57)は、改正法の施行を評価する。
高橋さんは「高橋しげみ」という名でフリーアナウンサーとして活躍していたが、2015年頃、仕事で知り合った男性から電話やメールが執拗(しつよう)に寄せられた。男性はストーカー規制法違反容疑で逮捕され、脅迫罪で罰金の略式命令を受けたが、その後、急死した。
「高橋さんが男性を追い込んだ」という根拠のない話がネットに書き込まれ、拡散された。SNSなどには「首を吊(つ)れ」「いつ死ぬの」といった書き込みであふれた。高橋さんはネットのプロバイダー(接続事業者)に投稿者の開示を求めたが、受けいれられず、警察に相談しなければならなかった。
高橋さんは20年12月に寺を建て、同じ苦しみを抱える人の声に耳を傾けてきた。この2年間で全国から400件ほどの相談が寄せられたが、かかる時間や資金面から特定作業を断念するケースもあり、高橋さんは「改正法で『時間』というハードルが下がったので、被害者が少しでも動きやすくなってほしい」と話した。
投稿者を特定するためには、これまでは裁判手続きを経たうえで、ネット運営会社から発信者のIPアドレス(ネット上の住所)を聞き出し、そのIPアドレスを基に、プロバイダーに発信者の住所や氏名の公開を請求する必要があった。この問題に詳しい瀬戸章雅(あきのり)弁護士によると、一連の過程が順調に進んでも、特定まで6~9か月かかった。
改正法では、裁判手続きでIPアドレスと発信者の開示請求ができ、特定までの時間は3か月ほど短縮される見込み。瀬戸弁護士は「これまで相談する時点で断念する人も多かった。今後、開示の依頼件数が増えるかもしれない」と話す。
■「一人で抱え込まないで」 県、支援に力…20年に条例と窓口
県もネット上の誹謗・中傷対策に力を入れる。2020年に被害者を支援する条例を全国に先駆けて制定し、相談窓口を設置。今年10月末時点で686件が寄せられた。相談内容の内訳は、名誉毀損(きそん)が206件と最多で、知人からネット上に悪口などを書かれる「ネットいじめ」が191件、住所や顔写真などをさらす「プライバシー侵害」が141件と続いた。
県から相談窓口業務を請け負う公益社団法人「すてっぷぐんま」は、被害者に対し、証拠保全のために投稿をスクリーンショットで撮影することを勧めたり、投稿の削除方法を教えたりしている。担当者は「一人で抱え込まず、専門の窓口や弁護士に相談してほしい」と呼びかけている。

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