「お父さん、相談があるの」深夜に震える声で電話が…年金月25万円でささやかに老後を楽しむ70代夫婦が音を上げた“愛娘からのお願い”【FPの助言】

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我が子のためになんでもしてやりたい、親であれば多くの人がそう考えるかもしれません。しかし、「我が子のため」も度を過ぎると自らの生活さえ立ち行かなくなることも……。本記事ではAさんの事例とともに、親子間のお金の問題が家計に与えるリスクと、老後の生活を守るための具体策について、波多FP事務所の代表ファイナンシャルプランナーである波多勇気氏が解説します。
70代のAさん夫婦は、仲良く穏やかな老後を迎えていました。毎月25万円の年金収入と、老後のために積み立ててきた500万円の貯金で、ささやかながらも満ち足りた生活を送っていました。「これからは夫婦2人でのんびりと暮らしていこう」そう話し合っていた矢先のことです。ある日の深夜、電話が鳴り、受話器から聞こえたのは40代の一人娘の声でした。
「お父さん……ちょっと相談があるの」少し震えた声に、不安がよぎります。そして娘は続けました。「離婚して、家に戻りたいの。お願い、住まわせて……」Aさんと妻はしばらく沈黙しました。娘の困難を思うと、拒むことはできません。しかし心のどこかで不安も感じていました。「私たちの生活は……どうなるんだろう」と。
悩んだ末、2人は娘を受け入れることにしました。「大丈夫よ、家族なんだから」妻は娘を抱きしめながら微笑みました。しかし、その決断が彼らの老後生活に大きな影響をおよぼすとは、このときまだ気づいていなかったのです。
娘が戻ってくると、日々の生活費が急激に増加していきました。晩婚の娘にはまだ幼い息子が一人います。「なんだか、最近の食費がすごいわね……」妻が呟くと、Aさんは「そうだな……4人分だからな」と返しました。孫は食べ盛り。もちろん祖父母として、孫にはいつもお腹いっぱいになるまでご飯を食べてほしいと願っています。しかし、物価高のなか、日ごろの食費はじわじわと家計を圧迫していくのです。
また、結婚してから専業主婦となっていた娘は、キャリアのブランクから就職活動が思うように進まず、光熱費や食費などの負担がすべてAさん夫婦にのしかかる状況が続きます。離婚時の夫婦仲は最悪といっても過言ではないほどの状態だったこともあり、娘の元夫は養育費を不払いにしています。
「このままじゃ貯金が尽きてしまうかもしれない」Aさんはふと口にしましたが、その言葉に妻は黙り込みました。家族を思う気持ちが強いほど、彼らはどうしても言いだせない「お金の話」を抱えたままの日々を過ごしていくことになります。

総務省の調査によると、60代後半から70代の夫婦世帯の平均的な生活費は月約25万円。しかし、Aさん夫婦のように年金だけで慎ましく暮らしていると、そこに想定外の支出が重なると、たちまち老後の安定が脅かされることになります。さらに孫の教育費や健康管理の出費も重なると、毎月の支出が30万円を超えることもあり、予備の貯蓄が一気に目減りしていきます。
Aさんはある夜、妻に話しました。「俺たち、せっかく計画的に貯めた貯金が減っていくのを見るのはつらいな。それに、M(孫)がもう少し大きくなったら学費だって嵩む。とても耐えられそうにない」「そうね……でも、あの子も仕事が見つかれば少しずつでも家計を助けてくれるんじゃないかしら」と妻が言うものの、2人ともそれが確実ではないことを理解していました。
「親子だから助け合うのは当然。でも、このままだと私たちの生活が立ち行かなくなる」Aさんは心の中でそうつぶやきました。
ある日、ついにAさんは意を決して娘に話を切り出しました。「お前のために手を差し伸べるのは当たり前だと思っている。でもな、いまのままだと、俺たちの生活が破綻してしまうんだ」
その言葉に驚いた娘は、「ごめんなさい……こんなに負担をかけているとは思わなかった」と涙ぐみました。そこから、親子3人でしっかり話し合いをする時間が始まりました。
Aさん夫婦は、増加した家計の支出と今後の見通しを娘に説明し、娘も就職活動の進捗状況や、できる範囲での負担について具体的に話し合いました。話し合いのなかで、「今後、少しずつでも貯金を増やすためのプランを立てよう」「家計簿を見直して、無駄な出費を減らすことから始めよう」「元夫の養育費不払い問題を解消させよう」という意見が出て、親子の関係も以前より深まりました。
また、ファイナンシャルプランナーの助けを借りて家計を管理することや、家族全員が必要な負担を意識することが大切だと痛感しました。

Aさん夫婦のケースは、親子間の「お金」の問題がいかにデリケートで、どれだけ大きな影響を与え得るかを教えてくれます。家族を思う気持ちが強いほど、「お金の話」をするのが難しくなるもの。しかし、老後の安心を守るためには、時には勇気を出して正直に話し合うことが不可欠です。
Aさんは、最終的に娘にこう言いました「俺たちはいつまでもお前の親でいたい。でも、同時に、自分たちの老後も守らなければならない。お前が再び自立できるまで、みんなで力を合わせてやっていこう」。

波多 勇気波多FP事務所代表ファイナンシャルプランナー

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