「BONSAI」人気で海外に転売か、盆栽盗難相次ぐ…260鉢1250万円相当被害の業者「自衛にも限界」

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盆栽の盗難が各地で相次いでいる。
海外での売却目的とみられ、昨年以降、関東から九州の11府県で少なくとも26件の被害が確認されている。世界的に人気が高まる「BONSAI」。栽培には労力と時間がかかり、事業者らは対策に頭を悩ませている。(河野圭佑、小池拓海)
「また盗まれないか……」
三重県伊賀市の盆栽販売会社「盆栽ライフ」代表・武部和広さん(51)は敷地内に並ぶ約2000鉢を見回し、心配そうにつぶやいた。
黒松やモミジなど約30鉢が盗まれたのは、昨年3月。その後も同年末までに2回盗まれ、被害は約260鉢(計約1250万円相当)に上った。中には樹齢100年以上で1鉢250万円のヒノキ科の「真柏(しんぱく)」もあった。
盆栽の生育には日照と風通しが重要で、屋外での管理が基本だ。肥料や害虫の発生に気を使いながら、枝を整えたり葉の量を調節したりして、少しずつ質の高い盆栽に仕上げていく。中には、商品になるまで5年ほどかけるものもある。
このため約3000平方メートルの敷地内に人感センサーや防犯カメラを設置し、周辺を高さ約2・5メートルのフェンスで囲った。高級な盆栽には位置を追跡できる小型機器も取り付けた。対策費は計700万円に上った。武部さんは「自衛にも限界がある。このまま盗難が続けば、業界が衰退しかねない」と危機感を募らせる。
約270の盆栽業者らでつくる日本盆栽協同組合(東京)によると、盗難が目立つようになったのは昨年春頃から。神奈川や埼玉、千葉など首都圏のほか、大阪や愛知、熊本など被害は広範囲に及んでいる。
組合や業者によると、幹線道路沿いにある盆栽園の被害が多く、被害に遭った複数の業者の防犯カメラ映像を確認した組合関係者は、高値に見える盆栽が手当たりしだい盗まれているという印象を持ったという。
背景にあるとみられるのが海外での盆栽ブームだ。日本貿易振興機構(ジェトロ)によると、2020年10月の欧州連合(EU)への黒松の輸出解禁などを機に欧米やアジアで人気が高まり、23年の盆栽輸出額は9・2億円と前年より約3割増えた。統計を開始した19年比ではほぼ2倍だ。
財務省の貿易統計によると、昨年の植木と盆栽、鉢物の輸出額は62・2億円で、国・地域別では中国(28・2億円)とベトナム(19・1億円)で7割超を占め、台湾(3・1億円)が続く。イタリア(3億円)やオランダ(2・1億円)、ドイツ(1・2億円)など、欧州では自然と融合したアートとして愛好家が増えているという。
人気の品種は国ごとに違いがあるようだ。ジェトロ農林水産食品部の川原文香課長代理は、「ベトナムではマキ科の針葉樹『イヌマキ』が長寿の象徴として縁起が良いとされている。フランスではイロハモミジが人気で、欧州全体では黒松や五葉松がインテリアとして支持されている。中国では盆栽が富裕層の趣味として定着している」と話す。
警察当局も摘発を強化している。3月には、茨城県土浦市の民家から盆栽7鉢(約215万円相当)を盗んだとして、同県警がベトナム国籍の男を逮捕した。愛知県警は4~7月、同県や神奈川県で盆栽計19鉢(約680万円相当)を盗んだとしてベトナム国籍の男らを窃盗容疑で逮捕した。鉢に取り付けられた小型機器の位置情報から容疑者を割り出したという。
あるベトナム語のSNSでは、真柏など30鉢以上の盆栽が「日本から輸入した」という説明を付けて販売されている。盗難被害にあった東海地方の盆栽園の関係者は、「うちの盆栽に似ている」と憤る。
窃盗事件を捜査する愛知県警幹部は、「盗んだ盆栽を母国に送って販売している組織があるとみられ、事業者とも協力して摘発を急ぎたい」と話した。

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