過去最多9人の候補者による、15日間の自民党総裁選を制したのは石破茂元幹事長(67)だった。「ボッチ」「ケチ」と揶揄されながらも、5度目の挑戦でついに射止めた栄光の裏には、ある2つの食べ物が存在する。
「一致結束、箱弁当」
かつて自民党の各派閥は毎週木曜日に集まり、昼食を共にするのが慣例だった。皆で話し合いながら同じものを食べることは「団結の証」とされ、派閥文化の象徴ともいえた。
今回の総裁選では派閥は解消したものの、その習慣は残り、15日間、正午になると各議員やその秘書らはそれぞれの選対本部に集まって昼食を共にした。たとえば上川陽子外相(71)陣営でいえば、普段は1000円ほどの弁当ながら合間で、推薦人となった松本剛明総務相(65)がうなぎ弁当を差し入れたり、盛山正仁文科相(70)がちらし寿司を差し入れ、過酷な選挙期間でのメリハリをつけた。
そんな中、石破陣営では選対となった衆議院第二議員会館1118号室で選挙戦終盤の昼食時、悲鳴があがった。
「またリンガーハットだ」
まず1つ目はリンガーハットの「皿うどん」(850円)。7種類の国産野菜が一度にとれる身体にも優しい嬉しい逸品。しかしながら、15日間の昼食の中、4度も出され、食傷気味になったという。選挙スタッフは半笑いでこう語る。
「石破さんにお金がないのはわかっていますし、タダで頂いているので文句を言える筋合いもないですが、小泉陣営では叙々苑やKINTANの高級焼肉弁当、ニューオータニのお弁当が振る舞われると聞いて、朝から電話をかけまくっているのにこの差は何だ、と。高価なものを食べている陣営に負けてなるものか、とモチベーションを保ちました」
石破陣営では、皿うどんの他はカレーやカツサンド、議員会館地下のお弁当など庶民的な昼食が並んだ。推薦人の長島昭久衆議院議員(62)はこう補足する。
「叙々苑なんてもっての外で、石破選対はカネのかからない総裁選を体現している。旧民主党時代から、冷飯食らいもなれたもので、今日の出陣式で食べたカツカレーも食べた時には冷え切っていたけど、いま振り返ればこみ上げてくる美味しさがあったな」
9月27日の投開票直前の出陣式では衆議院第二議員会館地下1階食堂「ニュートーキヨー」のカツカレー(1230円)が振る舞われた。同食堂には「チキンカレー」はあるがカツカレーはメニューにない。そして、この“裏メニュー”こそが、石破氏に栄光をもたらした2つ目の差し入れだ。同店の店長が語る。
「石破先生は週に1度は秘書の方を連れて、『カツカレーある?』と尋ねてきます。石破先生は無類のカレー通とお聞きしており、召し上がっていただけて光栄です。チェーン店ですが、店長と料理長の裁量で味も価格も異なるので、どこでもうちと同じカツカレーが食べられるわけではありません。第二議員会館にお越しの際は、『カツカレー、ある?』と気軽に尋ねてください。縁起のいいカツカレーが召し上がれますから」
これを機に裏メニューからレギュラーメニューへの昇格も考えているという。
“カネのかからない総裁選”を実行していたのは決選投票に残った高市早苗経済安全保障担当相(63)も同様だった。
「また海苔弁か」
高市選対のある衆議院第一議員会館918号室では小泉選対のような高級弁当は夢のまた夢だった。
「議員の分は揚げ物がちょっと増えるなど若干豪華でしたが、9陣営の中でいちばん粗食だったのでは」(電話かけに参加した秘書)
唐揚げ弁当や焼き鯖寿司など安価でお腹いっぱいになるものが提供されていたという。高市氏の実弟で大臣秘書官を務める高市知嗣氏は「乏しい資金の中でやりくりしました」と苦しい胸内を語り、こう続ける。
「他陣営と比べて粗食で申し訳ないと思いながら皆さんに頑張っていただいた。推薦人の先生方や他の事務所の秘書にまずは召し上がってもらって、余れば高市事務所のスタッフも食べられる、ということで弁当が食べられない時もありました」
資金力に乏しい二陣営が決選投票で争ったことで自民党は「政治とカネ」の問題に真摯に取り組む組織へと生まれ変わるのだろうか。そんなことはまずないだろうが、石破選対に関わった人たちにとって、皿うどんとカツカレーは特別の味となったことだろう。石破陣営で「弁当奉行」として15日の献立をやりくりした舞立昇治参議院(49)の事務所で「食いしん坊番長」の異名を誇る浅井威厚秘書はこう説く。
「リンガーハットの米濱和英社長は石破候補と同郷の鳥取出身なんです。石破候補も皿うどん・ちゃんぽんが好き。それがリンガーハットの弁当を4度も出した理由です」
石破氏は料理好きで、幹事長時代には、海外で買い求めた香辛料を組みあわせて作る「石破カレー」を党大会の前夜祭で振る舞い話題となった。新総裁となった今、次は「石破皿うどん」を振る舞うこととなろうかーー。
取材・文・PHOTO:岩崎大輔