チケットやグッズが転売される事態に…不気味な『行方不明展』が大人気デートスポットになっているワケ

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

この夏、若い男女に大人気のデートスポットは夏祭りでも花火大会でもなく、不気味な展覧会だった……。
その名も『行方不明展』。人、物、所在、記憶などありとあらゆるものに関する「行方不明」にスポットをあてた本展覧会はSNSを通じて話題を集め、あっという間にチケットは完売。異例の6万5000人を超える来場者を記録した。
仕掛け人であるホラー作家の梨さんとテレビ東京の大森時生さんは、この熱狂ぶりをどう感じているのか。
–当初はここまでの反響を予想していましたか?
大森「もともと想定していた来場者数をはるかに超える反響があり嬉しい限りです。ただ、展覧会にお客さんが殺到した結果、どの展示を見るのにも順番待ち状態になってしまい、不満を感じた方もいたのではないかと反省しています……」
梨「ヘッドホンをつけて音を聞く展示は90分待ちのこともあるそうで……。十分なキャパシティの会場を用意できなかった私たちのミスでもあるのですが、展覧会の盛り上がりと体験価値の大きさが反比例してしまうのは、イベントものの難しさだなと改めて痛感しました」
–ここまで多くの人の注目を集めた要因をなんだとお考えですか?
梨「最初に大森さんと立てた目標は『ホラーファンの壁を越える』だったんです。全国のホラーファンに届く展覧会になれば目標としていた人数は達成できそうだなと思いつつ、それ以上の来場者を見込むならホラーファン以外の人にも興味を持ってもらわなくてはいけない。そこで私たちが目をつけたのがTikTokでした」
大森「ホラーコンテンツやホラーファンの主戦場はX(旧Twitter)なので、Xで盛り上がっているだけでは『壁越え』はできない。じゃあ、TikTokにいる一般ユーザーに届けるにはどうすればいいか。
その答えとして、いわゆる一目で見るだけで、惹きつけられる要素を入れることにしました。巨大な土の山があるとか、古いガラケーが大量に積まれているとかですね。
そういった“映える”展示たちと自撮りしてSNSにアップしているお客さんがたくさんいて、そういうものがSNS上でバイラルして広がっていくのはとても面白く感じました」
–展示の写真撮影がOKだったのはSNSでの拡散を狙っていたんですね。でも逆に、展覧会のネタバレになってしまう不安はありませんでしたか?
大森「今回の展覧会は謎解きではないのでネタバレは関係ないと思っています。本展を作り上げていく中で参考にしていたのが、’21年に話題を呼んだ『ルール?展』でした。
TikTokでバズったことで美術に興味のない若者が殺到した展覧会で、展示物が魅力的なのでどこをどう撮っても面白い。同じようなことが『行方不明展』でも起こるといいなと思っていました」
–たしかにカップルや小さいお子さんなど普段ホラーに馴染みがなさそうなお客さんもたくさん見かけました。
大森「それが僕たちが目指した『壁越え』だったんです。ホラー好きやフェイクドキュメンタリー好き、梨さんのファンの方々などの壁を越えて、それ以外の人々とホラーとの出会いになればいいなって。
子どもの頃に怖い映像をテレビで見て以来ホラーが好きだという人がいるように、この展示がきっかけで“こちら”の世界に足を踏み入れた方がいたら最高ですね」
梨「『壁越え』をできたことで新たな発見もありました。たとえば、古いテレビで動画を流す展示があって、私たちはこれを一人で静かに鑑賞するものと想定して作っているんですが、カップルのお客さんや子連れのお客さんが集まってワイワイ談笑しながら鑑賞されていて。こういう楽しみ方もできるんだなあと非常に勉強になりましたね」
–ホラーファン以外に作品が届いた結果お二人にも発見があって、さらにホラーの裾野が広がっていくのはとてもよい循環ですね。最後に、お二人が次に作りたいものについて教えてください。
梨「今回の展覧会はホラーが好きな層とそうではない層にリーチできたと思っています。こうやって自らジャンルを狭めることなく、ホラー好きのコア層を狙いつつも別の層を取り込めるようなモノづくりをしていきたいですね。
理想で言えば、絵本や児童書を作って、ホラーファンの子どもたちを増やしていけたらなって。まだまだホラーで遊べると思っているので、もっと多くの人のそばにホラーを届けられるよう頑張ります」
大森「Jホラーが世界ではなかなかウケていないことにモヤモヤしていて。今日本で流行っている、分かりやすい怖さではないけれどなんとなく不気味で生活が侵食されるような怖さという概念をフェイクドキュメンタリーや映画にして、国境を越えられたらいいなと企んでいます」
※『行方不明展』は9月1日(日)の20時まで開催。現在チケットは完売しております。なお、この展示はフィクションです。
インタビュー・文:中野渡舞

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

SNSでもご購読できます。