「意味不明でおもしろい」日清食品のCM制作秘話。過去の炎上を乗り越え

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カップヌードルやチキンラーメンなどでおなじみの「日清食品」。手軽でや美味しい商品はもちろん、思わず目を奪われてしまうようなインパクトの強いテレビCMでも知られている。なぜ、日清食品は尖ったCMを作り続けるのか、そしてその裏側とは。同社のCMに長く携わってきた日清食品ホールディングスの米山慎一郎宣伝部部長に話を聞いた。
◆印象に残るCMを生み出し続ける日清食品
日清食品のテレビCMは、SNSで「攻めすぎてて最高」「意味不明でおもしろい」といったコメントが寄せられているほど注目度が高く、見る者に強烈な印象を残している。
古くは「日清焼そばU.F.O」のヤキソバン、ここ数年でも「カレーメシ」など、記憶に残っているCMは枚挙に暇がない。
同社のCMのテイストについて米山氏は「『面白くなければCMじゃない!』という考えが基本にあって、見ている人たちを楽しませよう、驚かせようという気概を持って制作しています。」と話す。
◆日清が掲げる4つの思考
同氏によれば、社員が持つべき「大切な4つの思考」として「UNIQUE・HAPPY・CREATIVE・GLOBAL」の4つが掲げられており、CMもこれに沿って制作されている。そして、面白さ以外にも欠くことのできない要素がもう1つあるという。
「『面白い動画を作るのではなく、商品の広告を作っている』ことを絶対に忘れないようにしていて、どうすればCMを見た消費者に店頭で商品を手にとってもらえるのかを、徹底的に考え抜きます。例えば、自動車のように高額な商材であれば、お客さま自身が色々と調べ、ディーラーに行って試乗したりすると思います。
一方で、日清食品が売っているのは150円~200円くらいの最寄り品ですから、スーパーやコンビニなどの店頭で私たちの商品のことをふと思い出してもらえるような、そんなCMであることが重要なんです」(米山氏)
◆血と汗と涙と汗と汗
こうしたポリシーのもと制作される同社のCM、企画について米山氏は「血と汗と涙と汗と汗が流れています(笑)」と話す。
「私たち宣伝部は、週に1度、社長との定例会議を設けていて、その場でCMの企画についても議論するのですが、即興的にその場でアイデアを出し合い、どんどんと決めていきます。案件を持ち帰ることはほとんどありませんから、宣伝部のスタッフはいつも必死です。」
米山氏をはじめとする宣伝部のCMにかける情熱はもちろんだが、会議に参加する社長の姿勢からも、CMへの強い情熱が感じられる。そのこだわりは、米山氏の言葉にもあった通り、SNSでどれだけバズるかではなく、「どれだけ商品が売れるか」にある。
社長からも「それで物が動くのか?」という問いかけが何度も出て議論を重ね、細部にまで「食べたくなる」エッセンスを盛り込んでいく。
「例えば、ラーメンのCMで麺を箸で持ち上げる時に、麺がまっすぐ綺麗に揃うように撮影するのが一般的ですが、私たちのCMでは麺がランダムになっています。綺麗に整っているよりも少しくらいばらつきのある方が、多くの方が持っている“美味しいラーメン”の記憶を感化すると考えているからです」(米山氏)
◆宣伝部長思い出のCM
同社で、長くCM制作に携わってきた米山氏に、思い出深いCMについても聞いた。

◆看板商品「カップヌードル」のCM
米山氏は他にも思い出深い作品として「カップヌードル」のCMをあげる。コピーが印象に残っている人も多いのではないだろうか。
「『NO BORDER』というコピーで展開したCMシリーズがありました。当時、日清食品が開発した世界初の宇宙食ラーメンが、NASAから野口聡一宇宙飛行士とともに宇宙へ旅立った頃。
創業者が遺した『食足世平』(食が足りてこそ世の中が平和になる) の理念に基づき、『おいしさを感じる気持ちに垣根がないように、人々の心にも垣根がなければいいのに』という願いが込められています。地球上のあちらこちらに存在するBORDERや、そのBORDERが生み出す様々な問題をテレビCMで描いたことは、私にとってすごく思い出に残っています」
その後、「カップヌードル」は「STAY HOT」というシリーズも展開。こちらについて同氏は「若年層中心にターゲットを設定したCMで、一見しただけで理解できないくらいの情報量が詰め込まれています。それまでの「カップヌードル」のCMとは全く違う仕上がりになり、時代の潮目が変わったと感じました」と話す。
そのCMシリーズ第一弾「STAY HOT ウマい」篇は、佐藤健が「カップヌードル」を食べた瞬間に巨大ロボに変身して麺の大波の中をフォークでサーフィンし、最終的にロックフェスの舞台に立っているというもの。
また、西内まりやが出演する「STAY HOT 愛」篇も同様に、脈絡のない場面転換が続いて、視聴者が置き去りにされるような作品で、確かに米山氏がいう通り、何が言いたいかわからない。それでも、私たち消費者の印象に残るように作られているのだ。
◆炎上を狙ったことはない
インパクトの強いCMを連発する同社だが、ネガティブな反応が出ることもある。また、過去には何度か「炎上騒ぎ」に発展したことも。こうした状況に、米山氏は「炎上を狙うことなんて全くありません」ときっぱり否定。その言葉を裏付けるように、社内ではここ数年で対策も進んでいる。
「私は10年ほど前から宣伝部に所属しているんですが、2016年頃には『カップヌードル』のCMはご指摘が相次いで放映を中止するなど、何度かやらかしたことがあります。そのため、広告、マーケティングなどの外部の専門家に参加していただき『CM考査委員会』を設置しました。全ての広告素材について、企画、編集、完成の各タイミングで、公序良俗に反しないか、ダイバーシティの視点から問題ないかなどを精査してもらっています」(同氏)
ここ数年、CM考査委員会の設置の効果もあり炎上沙汰は起きていないという米山氏は、自身の変化についても話す。
「グローバルやダイバーシティなどの視点が、まだまだ自分には欠けていることを自覚しましたし、外部からの意見にしっかりと耳を傾ける心がけもできました」
さまざまな成功と失敗を乗り越えて、進化し続ける日清食品のCM。現在放送中のものも、今回聞いた話を元に改めて見てみると、新しい発見があるだろう。そして今後、私たちを楽しませてくれる新作の登場が楽しみだ。
取材・文/Mr.tsubaking

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