「殺されるかもわからん」王将創業期からの「しがらみ」解消に苦悩…[社長射殺]<中>

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王将フードサービスの社長だった大東(おおひがし)隆行さん(当時72歳)は、2013年12月19日に凶弾に倒れる1年ほど前から、周囲に思い悩む様子を目撃されていた。
「殺されるかもわからん」
本気とも冗談ともつかない口調だが、深刻な様子は周囲に伝わっていた。大東さんが創業期から抱える同社のしがらみの解消を目指していた頃だ。
その詳細な経緯は、同社が事件後に設置した第三者委員会が16年3月に公表した報告書に記されている。
報告書によると、同社は、加藤朝雄氏(故人)が1967年、京都・四条大宮に1号店を出店し、創業した。大東さんは69年に同店で働き始めた。姉は朝雄氏の妻で、店を広げていく朝雄氏を義弟として支えた。
朝雄氏は77年頃、同じ福岡県出身の企業グループの経営者の男性(78)と知り合った。やがて出店に伴う建築関係の許認可手続きなどで頼るようになった。
ビール会社出身で、朝雄氏が死去した93年に就任した2代目社長の望月邦彦氏(86)は取材に、経営者について「王将の拡大期を支えた『恩人』だった」と語る。
翌94年、朝雄氏の長男が3代目社長に就任。専務の次男と2人で代表権を担った頃から、王将と企業グループ側との関係がいびつになっていく。
▽ハワイの土地(18・2億円)▽京都・祇園のビル(5・3億円)▽貸付金(87・8億円)――。適正な評価額とかけ離れた価格で不動産を購入したり、巨額の資金を貸し付けたりし、第三者委が認定した企業グループ側との不適切取引は2005年までの10年間に総額約260億円。うち約170億円が回収不能になっていた。
企業グループ側との取引の多くは取締役会に諮られていなかった。第三者委は一連の取引について「創業家の独断専行」と認定した。
不適切取引は大東さんが4代目社長に就任した00年以降も続いた。01年3月期には有利子負債が452億円に膨らみ、02年には金融機関から融資を受けられず、会社の存続が危ぶまれる事態となった。長男と次男が責任を取って取締役を辞任し、企業グループ側との交渉に大東さんが自ら乗り出すことになった。
「うみを出すことも辞さない」。03年7月、大東さんは不適切取引を解消する方針を社内で示し、取引で取得した不動産を売却。巨額の債権も放棄する形で、3年後には企業グループ側との取引を解消した。
しかし、関係を断ち切ることはできなかった。王将は06年に大証1部に上場。さらに東証1部上場を目指したが、その過程で大株主でもある創業家側との対立を深めた。創業家側との交渉役として頼ったのが、企業グループの経営者だった。こうした経緯を東証に問題視され、申請直前の12年11月、上場を断念した。
王将は同月、不適切取引に関する再発防止委員会を設置。13年9月の臨時取締役会で調査報告書の原案が示されたが、わずか30分で回収された。じっくり目を通せない取締役もいたという。大東さんが殺害される1か月前の同年11月に完成した報告書は非公開とされ、大東さんと総務部が1冊ずつ保管していただけだった。
ある元取締役はこの年の春頃、大東さんから「決着をつけた」と聞いたという。別の元取締役は「弱音を吐くことはなかったが、一人で苦悩を抱えていたんだろう」と振り返る。
京都府警は事件直後から、大東さん個人への恨みではなく、経営を巡るトラブルが背景にあるとみて捜査してきた。不適切取引にも早い段階から注目していた。
しかし、殺害の実行役として逮捕された特定危険指定暴力団・工藤会系組幹部、田中幸雄容疑者(56)と、大東さんや王将との接点は確認されていない。
また、第三者委は王将と反社会的勢力の関係は「なかった」と結論づけている。
企業グループの経営者は15年10月、取材に応じ、「王将さんとは古い付き合いだが、事件とは全く関係ない」と話し、暴力団との関係も強く否定した。
捜査は重大局面を迎えたが、背景は依然として謎に包まれたままだ。
府警の増田茂雄・捜査1課長は28日深夜の記者会見で、王将の経営実態も捜査の対象だとした上で、事件との関連については「今後の捜査で解明したい」と述べるにとどめた。
■「やっと、なぜ、交錯」…大東さん長男
大東さんの長男・剛志さん(48)は28日夜、合同捜査本部を通じてコメントを発表した。要旨は以下の通り。
当たり前の日常が突然奪われたあの日から9年がたとうとしています。逮捕の一報を聞きましたが、正直「やっと」という思いと「なぜ、このような長い月日となったのか」と色々な思いが交錯しています。
なぜ大切な父の命が奪われなければならなかったのか。警察には、今後の捜査で、犯人の背後関係も含めて、しっかりと真実を明らかにしてもらいたい気持ちです。犯人を許すことは到底できません。

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