【石倉 英樹】50年も「へそくり」を貯め続けた75歳妻が、夫の死後にハマった「意外な落とし穴」

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「これは私のお金よ!」
病気で夫を亡くした75歳の杉浦さん(仮名)は、不機嫌な表情を隠しません。
「亡くなった夫名義の財産が相続税の対象なのは分かるけど、どうして妻である私名義の財産まで相続税の対象になるの!? どう考えても納得いかないわ!」
一体どういうことなのでしょうか。詳しく見ていきましょう。
杉浦さんは、結婚してから専業主婦として家事と育児をこなし、一所懸命に家庭を守ってきました。2人の子供も無事に社会人になり、それぞれが幸せな家庭を築いていることが杉浦さんの何よりの自慢です。
そんな杉浦さんの密かな楽しみは、“へそくり”を貯めることでした。夫が定年した後に、2人で海外旅行に行くことを楽しみに、50年もの間、毎月コツコツお金を貯めていたのです。
会社員だった夫の給料を毎月預かり、そこから月々の生活費を支払って、その残りをへそくりとして長年に渡って自分の預金口座に貯金をしていました。
残念ながら夫は先立ってしまいましたが、高給取りだった上に、結婚してからの年数が長かったこともあり、へそくりはそれなりの金額となっていました。自分名義の預金口座の残高は、なんと3000万円にも上ります。
そして冒頭の発言に戻ります。実は、この「自分名義の3000万円」の預金残高が、夫の相続税の対象になると聞かされたのです。杉浦さんは納得がいきません。
「たしかに、給料を稼いできたのは夫だけど、私は専業主婦としてずっとこの家を守ってきたんだから、残ったお金は夫婦の共有財産でしょ? それに、私が家計をやりくりした結果貯まったお金なんだから、このへそくりは私のものであって、夫の相続財産になるのはおかしいわよ!」
杉浦さんの言う通り、奥様が毎月家計をやりくりして貯めたへそくりは、夫のものではなく妻のもの、と考える方は少なくないでしょう。
しかし法律上は、夫婦それぞれが稼いだお金はそれぞれのもの、と考えるため「夫が稼いだ財産は夫のもの」「妻が稼いだ財産は妻のもの」として取り扱われます。
このため、相続税を計算するときは「預金の名義が誰か?」ということよりも「そのお金は誰が得たか?」が重視されるのです。
へそくりは、もとをただせば夫が働いて得たお金なので、たとえ妻名義の預金口座に残高があったとしても夫の財産であるとみなされることになります。このため、夫が亡くなったときの専業主婦のへそくりは、夫の財産として相続税の対象になるのです。
この杉浦さんのへそくりのように、亡くなった方名義の預金ではないですが、亡くなった方の相続財産となる預金を「名義預金」と言います。
名義預金は、亡くなった方名義の預金口座ではないため相続税の申告時に漏れやすく、税務署から指摘を受けやすいポイントのひとつです。
なかでも、専業主婦のへそくりは名義預金の典型例。
収入が無い専業主婦の預金口座に多額の預金残高がある場合には、「名義預金に該当するのではないか?」と税務署から疑われる可能性が高まります。
「まだ完全には納得いかないけど、法律で決まっているなら仕方ないわ。だけど、私名義の預金残高の3000万円全てがへそくりというわけじゃないのよ。私自身のお金もこの中に混ざってるの…。その場合はどうしたらいいの?」
杉浦さんのお金の行方はどうなったのでしょうか。また、実際にへそくりを貯めているという方も多いはず。心当たりのある方が知っておくべきことも後編<知らないと大損…“へそくり”を貯めている夫婦が「知っておくべきこと」>で詳しく解説します。
知らないと大損…“へそくり”を貯めている夫婦が「知っておくべきこと」

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