ASEANでの首脳会議に出席し、その後も日米首脳会談を筆頭に日韓会談、日中会談…と立て続けに外交デビューを果たした高市早苗首相。
スピード感を持って国家と国民のため結果を出すべく政策を掲げ、「強い日本を作るために絶対に諦めない」との決意を表明した高市氏。筆者が感じた彼女のリーダーとしての手腕は、非常に好印象だった。真剣なまなざしを送ったかと思えば、周囲をパッと明るくするような笑顔ものぞかせる。その魅力は国を問わず多くの人に好かれ、人を惹きつける資質にあふれており、どちらかといえば仏マクロン大統領のような(良い意味での)「人たらし」的タイプだと見受けた。日米首脳会談ではトランプ大統領から、不明点があればいつでも何でも言っておいでと声がかけられる場面もあり、両国の友好関係の深まりが感じられた。
高市氏は日本の報道各社の世論調査でも、JNN82.0%、産経新聞75.4%など軒並み高い支持率となっている。メディアでの露出に伴い、高市氏の一挙手一投足に注目が集まる中、ソーシャルメディアや左派メディアを中心に反対派からは厳しい意見も上がっている。
トランプ大統領の横で「はしゃぎ過ぎ」、あるいはトランプ氏を「上目遣いで見上げた」といったさまざまな批判や揶揄の動きもある。高市氏にせよトランプ氏にせよ、国のトップに立つ者は何をやっても反対派の格好の餌食となり、槍玉に上がる。SNS上では「~~やめろ」(前政権ではなぜか「~~やめるな」)といったハッシュタグが飛び交い、受け手側にますます高い情報リテラシーが求められる時代になったと感じる。
高市氏に対して上がる批判の中で、筆者が特に気になったのは彼女の「英語力」を揶揄する声だ。英語は日本の義務教育で長年教えられているにもかかわらず、その学習の難しさが常に指摘されている。自分の英語にコンプレックスを持つ日本人も多く、英語の習得は永遠の課題だろう。よって高市氏の英語力についてのSNS上の物議は、多くの日本人にとっても少なからず「引っかかる」ものだったのではないだろうか。
SNSを中心に高市氏の英語を貶す声がある一方で、「ペラペラだ」と評価する日本人の意見も見られる。
高市氏は「U.S. Congressional Fellow」という肩書きを持つ。2025年10月21日付米NPRの記事でも「87年、高市氏はコロラド州選出の民主党下院議員パット・シュローダー氏の事務所でコングレッショナル・フェローとして働くため渡米した」(原文:In 1987, Takaichi moved to the U.S. to work as a congressional fellow in the office of Rep. Pat Schroeder, a Democrat from Colorado – (後略))と紹介されている。
米政府機関、Senate employment office(上院雇用事務所)には「Congressional Fellowships and Internships」(連邦議会フェローシップとインターンシップ)についてこのように書かれている。
「コングレッショナル・フェロー(議会フェロー)は通常、政策のレビューや監督、調査の実施、政策概要書や法案の作成、利害関係者との面会などを通じて、所属オフィスに貢献します」(原文: (前略)Congressional fellows typically contribute to their offices by providing policy review and oversight, conducting research, drafting policy briefs and legislation, and meeting with stakeholders, among other responsibilities.)
80年代なんて今のようなインターネットもAIもない(もちろんYouTubeやTikTokもないから、生の英語に触れる機会もない)時代に、このような高尚な任務を遂行していたというのだから大したものだ。通訳がもしついていなかったとすると、英語環境下でかなり鍛えられたはずである。
一方で、筆者がASEAN首脳会議での高市氏のスピーチを聞いた限りは、決して「ペラペラ/流暢」という印象は持たなかった。どちらかと言えば独特のイントネーションや発音で、事前準備した原稿を「読んでいる」と感じた(例えばスピーチ冒頭の「First of all」や「appreciation」「warm welcome」など)。「Thank you」などナチュラルに聞こえる箇所もあったほか、後日のトランプ氏との首脳会議ではリラックスした様子で談笑するシーンも見られた。
アメリカに住み英語の環境下に長年身を置くと、英語のアクセントでその人がアメリカ人か(アメリカ人であればどのあたりの出身か)、またはイギリス人/オーストラリア人か、日本人か中国人か韓国人かフィリピン人か、中南米の人かなどを判別できるようになる。しかしそれができても筆者は英語という言語の専門家ではないため、他人の英語力をレビューしたりとやかく言ったりできる立場ではない(そもそも人の仕事にいちゃもんつける仕事ほど簡単なものはないと思っている)。
アメリカのメディアは高市氏の英語をどう見たのか気になり調べてみたが、ASEAN首脳会議に出席後の彼女の「英語力そのもの」について報じている主要メディアは、筆者が調べた範囲では見つからなかった。
アメリカ英語のアクセントの矯正を副業で長年してきた日系アメリカ人の友人がいるので、ASEAN首脳会議での高市氏の英語スピーチを聞いてもらうことにした。「少し理解するのが難しいです」というのが、スピーチを数分間聞いた友人の感想だった。高市氏の英語スピーチを正しく聞き取れるかどうかは「人や地域による」という。
「自分は母親が日本人なので、日本人の英語は比較的理解しやすいです。私の夫も耳がいいので問題ないでしょう。さまざまな人種や民族が共存するニューヨークのような大都市に住んでいると外国人の話す英語に耳が慣れてくるので、アクセント(訛り)が強くてもよく聞けば理解できるかもしれません。ただし外国人の英語がほとんど聞こえてこない地域、例えば中西部などに住む人々にとっては、彼女の英語を聞き取ることは難しいでしょう」
この感想は筆者のこれまでの経験からも同調できる。アメリカの内陸部に行けば行くほど、外国人の姿をほとんど見かけない。そうした地域では人々の多くが「英語は話せて当然」と信じる人が多く、「なぜ英語が話せない人が世の中に存在するのか」が理解できない。彼らにとってアメリカこそが世界であり、パスポートを持たないこともごく普通だ。そうした環境では、外国人が話す英語はもはや英語として耳に入らないのかもしれない。
ちなみにトランプ大統領は、外国訛りの記者の質問を「聞き取れない」として返答をスキップすることがしばしばある。ニューヨーク出身者でもそういう人はいる。外国人の英語を聞き取るには、慣れや耳の良さに加えて、辛抱強さも必要だろう。
友人によると、ネイティブスピーカーに理解してもらえる英語を習得するには、Dialect Coach(方言・訛りコーチ)に習うのも一つの手だそうだ。ダイアレクトコーチとは映画、ドラマ、舞台で俳優に発音を指導する専門家だ。アメリカ人俳優でも例えばイギリス人の役柄を演じる際、役作りの一環でダイアレクトコーチに頼ったりするのだ。
最後に筆者の経験からもう一つ。英語を話す際は、確かに発音やイントネーションなども大切なのだが、総合的な英語力そのものよりも「自信をもって堂々と話す姿勢」がアメリカでは高く評価される傾向にあることも付け加えたい。
筆者も移住して間もないころは自信がなかったから小さい声でボソボソと話すことも度々あった。そのたびに親しい人から「聞こえない」「timid(臆病でびくびくしているの意」と注意を受けてきた(このような辛辣な指摘に今では感謝)。留学生だった当時、南米出身のクラスメートは同じ英語レベルながら堂々と話していて、こういう点にもお国柄や国民性が表れるのだなと思った。このような経験から、英語ができなくても堂々と話せば良いのだと学んだ。
高市首相もASEAN首脳会議では自信を持ってハキハキとスピーチしていた。日本でトランプ大統領と対面する際も「Welcome back to Japan」と大きな声で元気よく迎えていた。通訳を介したコミュニケーションだけを行う仏頂面のリーダーがいたとして、さてトランプ大統領はどちらのリーダーを好きになるだろうか。
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