何気ない一通のショートメールが自民党と日本維新の会の連立協議の始まりとなった。
10月9日夜、大阪府高石市内の自宅近くの銭湯で汗を流した日本維新の会の遠藤敬国対委員長(57)は高市早苗自民党総裁(64)に「大変やろうと思うけど、体に気をつけて頑張ってくださいね」とショートメールを送った。
10日に公明党が26年続いた自公連立から正式に離脱を表明したように、自民党と公明党の協議を巡った渦中の時期だった。遠藤氏の元には「公明党は『政治とカネ』の問題で真剣に怒っている。ブラフではなく本気の離脱だ」と情報があがっていた。自民党総裁就任直後の難局を心配し、ショートメールを送ると、その30分後に遠藤氏の携帯電話に着信があった。
「いろいろ大変やねん。一緒にやれへん?」
そう高市氏は関西弁で語りかけたのだという。議員宿舎に本を何冊も持ち込んで「政策の勉強」を第一とし、酒席も好まない高市氏だが、格式張らずに誰とでも打ち解けられる遠藤氏とは7年前の議員運営委員会を通じ、「遠(えん)ちゃん」「サナエちゃん」と呼び会う関係だった。
「遠藤氏は大阪18区で衆院当選5回ながら、永田町で『交渉人』『人たらし』の異名を持つ。赤坂宿舎で開催するたこ焼きパーティーには霞ヶ関の官僚も誘われ、自民党の森山裕前幹事長(80)、菅義偉元総理(76)らとも昵懇で自民党議員からも一目置かれている」(全国紙政治部記者)
公明党の連立離脱が水面下で進む中、高市氏は土壇場まで「最後は公明党が折れる」と楽観視し、自公政権に維新を加えて安定をはかる見立てのようだった。しかし、公明党が離脱を決め、期待していた国民民主党からも距離を置かれた。高市氏の目論見通りにいかず、首班指名選挙で高市氏が総理大臣になれるか不確定の状況にまで陥った。
一方、維新の会は総裁選の前まで小泉政権誕生に期待を寄せ、吉村洋文代表(50)が大阪万博会場で小泉進次郎防衛相(44)を「改革派」と持ち上げた。その裏で進次郎氏の後見役の菅氏と遠藤氏が国会図書館で密談をするなど「小泉シフト」に偏り過ぎていた。
高市氏、維新にとって思惑と異なる結果が出た際も与野党に幅広い人脈をもつ国対委員長の人脈がものをいった。遠藤氏はこう語る。
「野党国対として人脈を広げ、予想外の事態に備えるのは当たり前のこと。前回の総裁選に出馬した9人中、石破茂元総理(68)以外の8人は会食し、携帯も知っている。政策を進めることが目的で、誰とやる、誰だからやらない、という好き嫌いで判断はしない。個人的なつながりではなく、政策を受け入れてくれるかどうかが判断基準です。
自民党の総裁が代わったこともあり、まず大事なことはトップ同士で話をしてもらうこと。一緒に政策を前に進めていけるのか、吉村代表と高市氏の互いの携帯番号を私が伝え、13日に話し合ってもらった」
13日は大阪万博の閉幕日でもあり、吉村氏は多忙を極めた。40分だけ時間が空いたので、電話での会談となった。
「電話での会談後、2人に電話すると吉村代表は『いけると思います』と返し、高市総裁も『お気持ちはよくわかりました。一緒にやりましょう』とケミストリーも合ったようです。トップが覚悟を決めたんで、『舞台まわしはします。アクセルを踏みます』と」(同)
14日、遠藤氏は梶山弘志国対委員長(70)と会談。自民と維新が急接近する姿を内外にアピールし、様子をうかがった。16日の協議で副首都構想や企業・団体献金の廃止、国会議員定数削減など12項目を要求。20日に連立合意となり、合意書にも12項目が記されていた。遠藤氏は高市氏を「決断が早い」と評価し、こう続ける。
「前政権が参院選の公約とした2万円の給付について、うちは反対です、と伝えた。というのも、振込先口座の確認書類を郵送するなど地方自治体の給付事務手続きの負担も大きい。地元の首長がいうには諸経費が1億円もかかり、無駄が多い、と。だったら東京都がこの夏の猛暑対策として、エアコンの使用を促すため、水道の基本料金を無償化したようにガスや電気代の補助のほうが手数料も安く、速やかで逆進性もないので物価高対策に適している。
それを高市さんに伝えたら、『遠ちゃん、それいい。それやろう』と即反応してくれた。どういう形で出るかまだわかりませんが、政策を受け入れてくれる人と組んでいきたい」
異色の野党国対委員長は総理補佐官(連立合意政策推進担当)も兼任する。26年も続いた自公政権で、公明党議員が官邸入りすることはなかった。多党化の時代で、自民党の「終わりの始まり」の象徴となるか、自民党の時代が続くのか。今後の動きに注目が集まっている。
取材・文・PHOTO:岩崎 大輔