2025年9月7日に石破茂首相が辞意を表明し、永田町は一気に「総裁選モード」へと突入した。実質的に今回の総裁選は次の首相を決める選挙でもある。立候補したのは、届け出順に小林鷹之氏、茂木敏充氏、林芳正氏、高市早苗氏、小泉進次郎氏の5名。
直接の投票権はないとはいえ、国民が特に気になるのは各候補が掲げる物価高対策や経済政策だろう。ただ実は、誰が総裁の座に就くかによって、住宅ローン金利にも影響を及ぼす可能性がある。
住宅ローン比較診断サービス「モゲチェック」を運営するMFSの取締役CMOで、住宅ローンアナリストでもある塩澤崇氏が、「総裁選と住宅ローン金利の行方」を解説する。
今回の自民党総裁選は、国会議員による295票と自民党員による295票の計590票で争われます。このうち国会議員による投開票が10月4日に行われ、党員票と合わせて過半数を得た候補者が新総裁に選出される仕組みです。
もし1回の投票で過半数を得る候補者がいなかった場合は、上位2名による決選投票が行われます。
総裁の交代が実現すると経済政策や金融政策に大きな変化が生じますが、多くの国民に影響を与えるのが金利動向、つまり住宅ローンの金利です。
日本の金利は日本銀行が決めています。日銀が利上げを行うと銀行の資金調達コストが増加することから住宅ローン金利も上昇します。
日本銀行は独立性が担保されている中央銀行ですから、基本的にそのときの総理大臣が誰であろうと金融政策には関係がありません。しかし、日銀総裁の指名権は首相が持っており、政権と一体となって経済を担っていく存在でもあります。連携はあってしかるべきといえるでしょう。
実際、日銀の植田和男総裁と石破首相は定期的に会談を行っています。そこで何を話しているかは私たちには分からないものの、今後の金利政策の話題も当然出ているはずです。安倍晋三元首相の在任中を振り返ってみても、日銀総裁に黒田東彦氏を指名したうえで、低金利政策を筆頭にアベノミクスが実施された経緯があります。
やはり日銀の総裁はときの政権の意向をある程度汲み取っていると考えるのが自然です。
今回の総裁選が金利動向に与える影響は、「高市早苗氏が新総裁となるか、他の候補者が選出されるか」が大きな分水嶺になると考えられます。
高市氏は基本的に利上げに消極的なハト派(金融緩和派)で、アベノミクスを継承していると言われています。現在の石破政権は金融正常化を推し進めるスタンスですから、もし高市氏が選出されると金利政策にも転換が見られるかもしれません。
一方、他の4名の候補者のこれまでの発言を見ていると、基本的には日銀の独自性・自主性に任せて段階的な利上げを尊重する中立派という印象です。実際に政権を担った後にスタンスが変わる可能性もありますが、現時点では「ハト派の高市氏と中立派の4名」という状況といえるでしょう。
では、ここからは各候補が総裁に就いた際の具体的なシナリオを予想してみたいと思います。
まず、高市氏は積極財政派です。利上げには消極的で、代わりに財政出動によってどんどん市場を活性化しようという考えを持っています。ただし日本経済の現状を踏まえると、今までのような“過激なハト派”のトーンを抑える可能性が高いのではないでしょうか。
前回の総裁選が行われたときと比較すると、現在は物価上昇が定着しつつあり、株価も過去最高値を更新しています。こうした状況下では、あえて利下げを行って金融緩和を続ける必要性はなくなってきています。
したがって、高市氏の金利政策に対するスタンスは調整が入ることが考えられます。
ここで、日銀のスタンスや物価上昇の動向に基づき私が作成した今後の金利予想を見てみましょう。
石破政権が続く前提で予想したものではありますが、仮に高市氏が選出された場合、2025年度の政策金利は現在の0.5%のままとなる可能性があります。
ただ一方で、低金利政策を継続すると日米の金利差が開いたままとなり、円安圧力がさらに強まります。円安は物価高を招く要因にもなるため、どこかのタイミングで日銀が追い込まれる形で利上げを行うことになるでしょう。
したがって、2026年度に何度か利上げを行って1.25%、2027年度に1.5%に到達するシナリオは高市氏が総裁、つまり首相になったとしても変わらないと考えたほうがいいでしょう。
ただし、日本版「トラスショック」が起きた場合はこの限りではありません。
トラスショックとは、2022年9月にイギリスで発生した株安、債券安、通貨安のトリプル安のことです。当時のトラス首相は税源の裏付けのないまま大型減税政策を打ち出し、市場はこれを財政悪化のリスクと受け止めたのです。
前述の通り、高市氏は積極財政派です。過度な財政出動によって市場が財政悪化の懸念を強めると、日本国債の売りを誘い、特に長期金利の急激な上昇につながりかねません。事態収拾のため、政策金利の引き上げや経済政策の変更もあり得るでしょう。住宅ローン金利の動きも見通しが立ちづらくなるものと考えられます。
では、高市氏と争う小泉氏が総裁の座に就いた場合、金利はどうなるのでしょうか。
つづく記事〈“小泉進次郎総理”誕生で住宅ローン金利は…《解雇規制の緩和》が実現したら「利上げは急加速」か〉で、詳しく解説します。
構成/椿慧理
【つづきを読む】”小泉進次郎総理”誕生で住宅ローン金利は…《解雇規制の緩和》が実現したら「利上げは急加速」