認知症の死の前兆となる末期症状とは?Medical DOC監修医が認知症の死の前兆となる末期症状などを解説します。気になる症状がある場合は迷わず病院を受診してください。
※この記事はMedical DOCにて『「認知症の死の前兆」となる末期症状はご存知ですか?寿命についても医師が解説!』と題して公開した記事を再編集して配信している記事となります。
監修医師:石飛 信(医師)
2003年福井大学医学部卒。福井大学神経科精神科助教を経て、2013年国立精神・神経医療研究センター思春期精神保健研究室長。2020年よりありまこうげんホスピタル診療部長。現在、主に精神科救急医療に従事。専門は児童精神医学。児童のメンタルヘルス向上を目的とした「かかりつけ医等発達障害対応研修」、「児童思春期の精神疾患薬物療法ガイドライン作成」に責任者としてかかわった。
認知症は、さまざまな脳の病気が原因となり、脳の神経細胞の働きがだんだん低下する病気です。その結果、記憶力、思考力、判断力、言語能力などの認知機能が低下します。これらの症状は日常生活に重大な影響を与え、患者さんとその家族にとって大きな課題となります。認知症の原因となる病気としては、アルツハイマー型認知症が最も多く、次いで血管性認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭型認知症と続きます。
アルツハイマー型認知症は、認知症の多くを占めます。そして、認知機能のレベルの観点から、初期、中期(中等度)、末期(重度)というように段階を経て進行していきます。意外に思われるかもしれませんが、認知症が進行すると死に直結するような身体の病気を発症しやすくなります。例えば、嚥下(えんげ)機能(飲み込みの機能)や歩行機能が低下し誤嚥性肺炎(ごえんせいはいえん)や転倒による頭部外傷がおきやすくなります。また、うまく自分の病状を伝えられないことでもともとお持ちの持病が知らないうちに悪化したりすることで致命的となることがあります。結果として、死亡するリスクが認知症でない方と比べて上がってしまうことがあります。ここでは、アルツハイマー型認知症を例に、末期の状態での症状を5つ紹介します。
認知症の末期の症状として、飲み込みの機能が低下し、栄養摂取が困難になることもあります。そのため、窒息やむせ込みにより誤嚥(ごえん)してしまい、その結果誤嚥性肺炎という病気になってしまうリスクがあります。対処法としては、流動食やゲル状の食品を利用し、栄養状態を保つための工夫が必要です。老年内科または栄養科での相談が推奨されます。
認知症の末期では、自立で歩いたり寝返りをうったりするなどの動作が困難になることも多くみられます。その結果、床ずれによる感染症リスクが高まったり、転倒による頭蓋骨骨折など命にかかわる怪我をしてしまったりする可能性があるのです。対応策としては、転びにくい靴を履く、定期的に体位を変更し、床ずれ防止用のマットレスを使用することなどがあります。床ずれに対しては皮膚科やリハビリテーション科などでの処置が大切です。また、転んでしまった際には、脳神経外科や整形外科などを受診することが必要です。
認知症の末期の方では、認知機能低下のため身体の不調を言葉で表すことができません。そのため、もともとお持ちの合併症、例えば糖尿病などの進行がかなり進んでからでないとわからないことがあります。また、先ほど述べたような転倒や感染症によって、意識がぼんやりしてしまうこともありえます。そのために、周囲が気づいた際には、意識障害などの症状として明らかになるということも考えらえます。このような場合は隠れた他の病気や、もともとある病気の悪化が懸念されます。緊急性が高い場合は救急病院を受診する必要があります。
飲み込む力や排泄処理が上手くいかなくなるといった理由から、感染症のリスクが高まります。その結果、肺炎や尿路感染症などの感染症にかかりやすくなります。口腔ケアを行うなど、適切な衛生管理と、体温チェックなどを行い感染兆候に気を配る必要があります。発熱や尿の混濁などの症状がみられた場合には、内科や感染症科での早急な治療が必要です。
・どんな病院・科に行くべきか、受診時の注意点、緊急性認知症の末期段階で急にやせてくることもありえます。これは、がんの末期症状である可能性があります。認知症の方では、がんの発見が遅れ、見つかったときにはすでに末期の状態であるということも報告されています。認知症の方ではがん検診を受けることがそもそも難しく、また介護をする家族の方にも負担になることなどが原因として考えられています。認知症の方において、食べているのにも関わらず急激にやせてきた場合には、がんによる症状も念頭におくことが大切です。かかりつけ医がいる場合には相談してみるようにしましょう。

ここまで認知症の死の前兆となる末期症状などを紹介しました。ここでは「認知症の死の前兆となる末期症状」についてよくある質問に、Medical DOC監修医がお答えします。
石飛 信 医師
認知症患者の終末期には、歩く・座る・食べるなど、多くの身体能力が失われます。そして、排便や排尿のコントロールができなくなる可能性もあります。さらに、会話することはできず、介助が常に必要な状態になることもあります。注意すべきは、感染症、特に肺炎にかかりやすくなってしまうといった特徴ならびに症状があります。

今回の記事では、認知症の進行段階ごとの特徴的な症状と、その対処法について詳しく解説しました。認知症患者さんにおいて、認知機能低下自体で死亡することはありません。しかし、認知症患者さんではもともと有する身体疾患のコントロールが悪くなったり、脳萎縮に伴い嚥下、歩行の機能も落ちたりすることで、死亡リスクがあがることがあります。認知症は現在の医学では完治することは難しいです。そのため、認知症の症状に心当たりがある場合には、早めに専門の医療機関に相談するようにしてください。認知症の早期発見と適切な介入が、病気の進行を遅らせ、患者さんの生活の質を維持するためには重要です。認知症患者さんに対する介護は、その病状などに応じてさまざまです。そのため、認知症患者の家族などの介護者は、専門医と連携して個々の患者に合わせたケアプランを立てることが勧められます。今回の記事が、認知症に対する理解を深める上で役立てば幸いです。
「認知症」と関連する病気は6個ほどあります。各病気の症状・原因・治療方法など詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
アルツハイマー病
血管性認知症
レビー小体型認知症
前頭側頭型認知症
パーキンソン病
認知症の原因となる病気には多くのものがあります。それぞれ異なる症状をきたしますので、専門の医療機関で診断や治療を受けることが大切です。
「認知症」と関連している、似ている症状は11個ほどあります。各症状・原因・治療方法などについての詳細はリンクからMedical DOCの解説記事をご覧ください。
記憶障害
判断力の低下
言語能力の低下
実行機能の障害
時間や場所がわからなくなる
視覚と空間能力の障害
物の置き忘れ
社会や趣味に対する興味関心の喪失
気分や性格の変化
幻覚や妄想
排尿・排便障害
これらの症状は、認知症のタイプや進行度によって異なる場合があります。認知症は現在のところ治癒の方法はありませんが、適切な支援と治療により症状の進行を遅らせることが可能となります。
参考文献
認知症疾患診療ガイドライン2017(日本神経学会)
認知症の臨床評価について(厚生労働省)
知っておきたい認知症の基本(政府広報オンライン)