国民の善意で成り立っている献血事業を巡り、前代未聞の不祥事が相次いでいる。日本赤十字社が今年に入って二度も、献血や献血で造られた血液製剤「新鮮凍結血漿(けっしょう)」(FFP)を人的ミスで無駄にしていたことが発覚したのだ。しかも日赤は不祥事を自ら公表しなかったり、公表しても詳細を明らかにしないなどの「ごまかし対応」を連発している。
【写真9枚】昨年、日赤に就職された愛子さまのかわいらしい「三つ編み&花柄ワンピース姿」
献血は、輸血を必要とする患者を救うため、血液を無償提供するボランティアで、国から唯一、採血事業者として許可を受けた日赤が担っている。実際の採血業務は、各都道府県にある赤十字血液センターが各地の拠点や出張献血バスなどで行う。
東京都赤十字血液センターの関係者はこう憤る。
「わずか3カ月の間に2度もありえない問題が起きた。社会的意義のある尊い事業を担っているというおごりが原因ともいえ、日赤の危機管理意識の低さを露呈している」
最初のミスが発覚したのは、血液製剤「新鮮凍結血漿(けっしょう)」(FFP)を保管している赤十字血液センター辰巳供給出張所(江東区)。FFPは献血で集めた血液から造られる血液製剤で、血液凝固を助ける作用があり、患者の血液を固める「凝固因子」が不足した時などに使われる。
5月11日夜、同所に設置されたFFPを保管する冷凍庫の電源が落ち、冷凍保管の基準温度(マイナス20度以下)を上回る状態が2時間半続いていたことが判明したのだ。原因は業者の工事ミス。結果、120ミリ・リットル容量の1691本、240ミリ・リットルの1万1796本、480ミリ・リットルの261本のFFPが使えなくなってしまった。
献血は通常、200ミリ・リットルか400ミリ・リットルで行われるため、単純計算は難しいが、「1万人程度の善意が無駄にされた可能性がある」(同)という。
問題は、日赤のその後の対応だ。これほど大量の血液製剤が使用不能になるという異例の事態が起きたにもかかわらず、国への報告が遅れた上、自ら公表しなかったのだ。世間に知れ渡ったのは7月の読売新聞報道だった。
「厚生労働省に報告したのは、発生から1か月後。しかも、マスコミから問い合わせがあったため、慌てて国に報告したというお粗末な流れだった」(同)
厚労省側も日赤側のずさんな対応にはおかんむりで、福岡厚労大臣は閣議後会見で「献血由来の血液製剤であり、日本赤十字社にはしっかりと再発防止策を講じることや速やかに報告することを強く要請した」と言及する事態に。謝罪に追われた日赤側は「再発防止を徹底する」などのコメントを出した。
だがそれから1か月もたたないうちに、またもや「あり得ないミス」が起きたのである。
8月16日午前。JR大森駅前の献血バス内には、猛暑の中で39人の協力者が駆け付けた。39人の「善意」は献血血液として、江東区の血液製剤の製造所まで運ばれ、患者を救うはずだったが、叶わなかった。今度は搬送業務を担う外部業者の担当者が、「自分が乗ってきた搬送車両を駐車した場所を忘れてしまった」という意味不明な理由でまたもや無駄にしてしまったのである。
「担当者が高齢者だったようで、台車にクーラーボックスを乗せたまま数時間、街の中を彷徨ってしまったのです。受ける側も未着に気づきながらも担当者の連絡先がわからず、指を咥えて待つのみ。通常は1~2時間程度で製造所に届けられるところ、最大で約7時間の遅延が生じてしまった。東京都赤十字血液センターは患者の安全面を考慮し、品質が保証できないとして、献血血液の破棄を決定しました」(同)
日赤は、この不祥事については8月28日に公表した。だが、東京都赤十字血液センターのホームページ上で小さく事案について載せたのみ。なぜ搬送遅延が起きたかなどへの言及は一切なく、責任者が記者会見を開くといった対応も一切取っていない。
「本来は部長級の責任者が表に出てきて、丁寧に説明して謝罪すべきところでしょう。発生から10日以上経過してからの公表も遅すぎです。協力した39人には電話や郵送で謝罪をしているようですが、5月の反省が全くいかされていない」(同)
定期的に献血に協力しているという東京都在住の40歳代男性は次のように憤る。
「献血に熱心だった母の影響で20代の頃から続けています。渡航歴を確認するアンケートに答えたり、血圧測定や医師の問診などもあって、長いときは2~3時間かかりますが、誰かのためになればという思いでやっています。そんな善意が無駄にされていた可能性があると思うと信じられない気持ちです」
2つの不祥事は氷山の一角だった可能性もあるのではないか。日赤は唯一の採血事業者として責務の重さを再認識した上で、管理体制を根底からチェックし直すべきである。
デイリー新潮編集部