全国のローカルスーパーが、大手資本や他業種の参入により、次々と閉店・倒産している。ところが、そんななかでも激戦の首都圏で、「36年連続増収増益」という信じられない成長を続けているスーパーがある。それが“最強のローカルスーパー”と評される「ヤオコー」だ。
ヤオコーは、1890年(明治23年)、埼玉県小川町で川野幸太郎が営む青果店『八百幸(ヤオコー)商店』として産声をあげた。そんな創業135年の“老舗”が、なぜいま“日本最強”と呼ばれる存在になったのか。その消費者の心をつかんで離さない魅力をひも解いてみたい。
【前編記事】埼玉県民から圧倒的支持!イオンも恐れる「最強スーパー」常識破りの戦略《驚異の36年連続増収》より続く。
ヤオコーのビジネスモデルを他と比較するとき、よく引き合いに出されるのが、北海道を中心に展開するコンビニ「セイコーマート(セコマ)」である。
セコマも看板商品である惣菜「ホットシェフ」の人気が高い。自社工場で惣菜や弁当を作り、店舗でスタッフが仕上げる独自のスタイルである。これにより、他の業者が製造し、レンジで加熱する大手コンビニとの差別化は顕著で、北海道のコンビニは「セコマ一強」状態だ。
さらには“スーパー空白地”に店舗を配置し、災害時のライフラインとしての役割も担う。こうして、地域に深く貢献しながら、道民の暮らしに“無くてはならない”コンビニに成長したセコマ。
「セコマしか勝たん」の声は、『ヤオコー愛』と大いに重なるのである。
もう一つは「ドミナント(集中出店)戦略」である。ヤオコーは出店エリアを無理に広げず、埼玉県を中心に関東の特定地域に集中している。そのため、配送効率が高く、広告や人材確保にも無駄がない。
そして地域に深く入り込むことで、他社が入り込む余地をなくしていく。これは、セコマも同様だが、現在全国展開中の「ロピア」や、関西に進出を加速している「オーケー」とは逆の戦略といえる。
1.関東圏や北海道に集中展開する「ドミナント戦略」
2.トップダウンでなく各店舗に権限を移譲する「個店最適化」
3.顧客から絶大な支持を得る「手作り惣菜」
4.価格競争に左右されない地域や顧客との「信頼関係」
5.競合他社からも一目置かれる“争いたくない”「存在感」
スーパーとコンビニで業種が違っても、両社はこうした共通点を持ち合わせている。
かつて筆者が経営していたスーパー(社歴105年・2017年に倒産)も、「地域密着」を目指したが、その「徹底ぶり」においてヤオコーやセイコーマートは“別次元”だった。
両社は単なる「小売店」ではなく、地域の生活に不可欠な「社会インフラ」として認識されているレベルであり、目標にしたことさえ今さらながら恥ずかしく思っている。
では、なぜここまで他社が攻め込んで来ても、ヤオコーはびくともしないのか?
元スーパー社長として言わせてもらえるなら、スーパーやディスカウントストアが新たな地域に出店しようとする決め手は、既存の『地域一番店』の実力を“値踏み“して、「これなら勝てる!」と確信したときである。
私なら“返り討ち“に遭う危険性が高い「ヤオコー」のそばには絶対に出店しないだろうし、もし出店する場合でも、ヤオコー以外のスーパーから顧客を奪う作戦を取る。
したがって、ヤオコーのそばに競合店が出店しても、ヤオコーは生き残り、他のスーパーと新規出店の店とが客を奪い合う形になる。最悪は“共倒れ″も想定しなければならず、「それならもっと他の場所を探そう」と相成るのである。(セコマも同様)
また、価格競争に巻き込まれにくいのも強みだ。ヤオコーはいわゆる「ディスカウントストア」ではない。
安さ一辺倒で勝負せず、「質・味・楽しさ」で価格以上の価値を提供しているため、多少高くても“固定客”が離れない。なじみのスタッフと顧客との距離が近く、自然に会話が生まれる関係が、価格を超えた信頼を生んでいるのだ。
ヤオコーは、今年さらに「ブルーゾーンホールディングス」という持ち株会社に移行して、グループ会社のバイイングパワーを集中させ、仕入れコストの削減などでさらに競争力を強化していくという。次の目標である「売り上げ1兆円」も視野に入ってくるだろう。
ヤオコーの強さは、数字以上に地域と人に根ざした信頼の証だ。激しい競争の中でも揺るがないのは、そこにしかない価値を顧客と共有しているからである。
この“経営哲学”こそ、中小企業が大手と戦うための重要なヒントになるだろう。かつて私が守りきれなかった家業のスーパーも「地域密着」を掲げていたが、その“本気度”が圧倒的に違っていた。それを実現しているヤオコーには最大の敬意を表したい。
埼玉の小さなローカルスーパーが、これほどまでに多くの人に誇らしく語られ、愛される存在になるとは、誰が想像しただろうか?
ヤオコーは、私たちが気づかないうちに、街の暮らしそのものを支える存在になっていた。この先どんな時代になろうとも、その歩みが止まることはない。ヤオコーと地域の“相思相愛”は、時代と共にさらに進化していくだろう。
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