2025年の都議選・参院選では、外国人政策が大きな争点となった。多文化共生をめぐる建設的な議論が交わされる一方で、違法就労や制度の悪用といった課題、さらには経済や地域社会への影響について関心が集まった。政治的対立の先鋭化や、排外的な言説の拡大も加わり、メディアの報道も過熱したが、実際のところ、東京・埼玉に住む外国人は特にどのエリアに集中しているのだろうか。都内マンションの販売価格を定点観測し続けるマンションブロガー「マン点」氏は、最新の人口データを地図化して分析。すると、これまで気づかれにくかった“2つのベルト”が浮かび上がったという――。同氏のレポートをお届けする。
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【写真を見る】最新の人口データを元に作成した地図 濃い赤で示されるのが特に「外国人比率の高い」エリアである
まずは、出入国在留管理庁の「在留外国人統計」(2024年6月末)を基に、東京都・埼玉県の全125自治体について、外国人比率(外国人人口÷総人口)を算出した。人口のデータは、それぞれ東京都と埼玉県が公表する2024年7月1日時点の住民基本台帳による。
さらに、数字の羅列だけでは実感しづらいため、外国人比率を地図にして可視化した。
その地図をもとに、都内と埼玉県内の外国人比率を俯瞰すると、東京・埼玉を跨ぐ“二つのベルト”が浮かび上がったのである――。
次図を参照しながら読んで欲しい。
ひとつは、東京23区の中心部から北西~南東にかけて見られる、外国人比率の高いエリアだ。新宿区や豊島区を起点に、外縁の川口市・蕨市・戸田市へと帯状に連なっているのが分かる。この地帯を「第1ベルト」と呼ぶことにする。
もうひとつは、東武東上線に沿って埼玉県内を北西へ延びるエリアだ。この地帯を「第2ベルト」として、その内訳をより細かく分析する。
先ほど定義した「第1ベルト」のうち、外国人比率7%を超えるのは次の9つの区市である。
比率の高い自治体をランキング形式でまとめると、下記のようになる。
・1位:新宿区 13.2%(4万6869人/35万6352人)・2位:蕨市 12.3%(9238人/7万4889人)・3位:豊島区 11.4%(3万5305人/30万8390人)・4位:荒川区 10.2%(2万2716人/22万2115人)・5位:台東区 8.9%(1万9776人/22万3066人)・6位:港区 8.7%(2万3218人/26万8043人)・7位:北区 8.2%(2万9866人/36万2274人)・8位:川口市 7.8%(4万6343人/59万4994人)・9位:江東区 7.3%(3万9456人/53万8268人)
外国人の急増により近ごろ報道でも注目されることが増えた川口市は、外国人比率では9位の7.8%だが、外国人人口では4万6343人とボリュームが大きいことが分かる。
「第1ベルト」の各自治体の外国人の国籍内訳をまとめたのが次図だ。
各自治体とも中国籍が最も多く、特に蕨市では全住民の7.8%を占めている。次いで目立つのは韓国籍だが、在日韓国人も多く含まれる。
他に目立つのは、ベトナム国籍、ネパール国籍、ミャンマー国籍といったアジア諸国の人々である。
【ベトナム国籍】・蕨市(1.4%)・川口市(1.0%)・豊島区(0.9%)・新宿区(0.8%)・荒川区(0.8%)・北区(0.7%)
【ネパール国籍】・新宿区(1.1%)・豊島区(1.1%)・荒川区(1.1%)・蕨市(0.7%)
【ミャンマー国籍】・豊島区(1.4%)・新宿区(0.7%)・荒川区(0.7%)・北区(0.7%)
次に「第2ベルト」として定義した埼玉県内15の自治体を、東武東上線の路線順(都心から郊外。※高麗川駅のみJR八高線)で示す。外国人比率は2~4%と穏やかだが、ベルトの広がりは顕著である。
左から、自治体(駅)、外国人比率(外国人人口/総人口)でまとめた。
・和光市(和光市駅)3.6%(3027人/8万4748人)・朝霞市(朝霞駅、朝霞台駅)3.4%(4928人/14万3975人)・志木市(柳瀬川駅)3.1%(2312人/7万5063人)・新座市(志木駅)2.9%(4836人/16万6115人)・富士見市(みずほ台駅、鶴瀬駅、ふじみ野駅)3.1%(3531人/11万3188人)・ふじみ野市(上福岡駅)3.1%(3568人/11万3452人)・川越市(川越駅、川越市駅、霞ヶ関駅)3.2%(1万1180人/35万4670人)・鶴ヶ島市(若葉駅)2.9%(2051人/7万156人)・坂戸市(坂戸駅、北坂戸駅)3.8%(3817人/9万9631人)・日高市(高麗川駅)2.4%(1260人/5万3445人)・東松山市(東松山駅、高坂駅)4.2%(3857人/9万2604人)・滑川町(森林公園駅)3.2%(649人/1万9995人)・嵐山町(武蔵嵐山駅)4.2%(745人/1万7612人)・小川町(小川町駅)1.7%(450人/2万6989人)・寄居町(寄居駅)2.8%(888人/3万1203人)
「第2ベルト」の各自治体の外国人の国籍内訳をまとめると、こちらは中国、ベトナム、フィリピン、ネパールの各国籍が中心となっている。
特に、都心から郊外に向かって中国籍の外国人比率が減少するのとは逆に、ベトナム籍の外国人比率は郊外に向かって増加する傾向が見られる。鶴ヶ島市を境に逆転している。
その他で目立つのは、嵐山町のブラジル国籍の比率が高いことだろうか(0.8%)。
都市の中心から外縁部へ、さらには郊外へ──。外国人の居住地は、都市構造と交通網の論理に従って形成されてきた。その連なりが、いまや“外国人居住者ベルト”として現れていることが分かる。
こうした変化は、多文化共生を推進する都市の機会であり、未来を切り開く可能性を秘めている。
一方で人口構成の変化は、住宅や教育、地域コミュニティの姿にも少なからず影響するため、そうした情報は日本人にとっても、住まいを選ぶうえで考慮すべきファクターともなり得る。
外国人が多い地域にこそ、多様性が生まれ、文化的な刺激がある。一方で、行政サービスの整備や地域間の格差といった課題も見逃せない。そうした地域の“今”を正しく理解することが、未来のまち選びにつながるはずだ。
<【最新マップで判明した「東京・埼玉」に広がる2本の“外国人急増ベルト” 国籍別の外国人分布“最新データ”を徹底分析し浮かび上がった新事実とは】では、さらに2014年、2019年、2024年の外国人比率をマップで可視化。2つのベルトが時代の変化とともに、どのように郊外に広がっていったのかを解説する。また、「第1ベルト」の中心地である「川口市」、「蕨市」、「戸田市」に見られる「極めて外国人比率の高い地域」の最新状況を詳細マップで分析。総数14枚の図版と5000字にわたるマン点氏渾身のレポートをお届けしている>
【著者プロフィール】マン点(まんてん) マンションアナリスト。一級建築士。20年以上続けている不動産ブログ「マンション・チラシの定点観測」の管理人X(旧Twitter):https://x.com/1manken
デイリー新潮編集部