厚生労働省が発表した「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」によると、2040年度には約57万人の介護職員が不足するとされ、人手不足が深刻化しています。そんななか、介護問題の取材を行うノンフィクションライター・甚野博則さんは、「介護する側も、される側も『地獄』状態なのが今の日本の介護システム」だと語ります。今回は、甚野さんの著書『衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない!』から一部を抜粋し、ご紹介します。
【書影】「団塊の世代」必読!介護士と当事者が語るリアル。甚野博則『衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない!』
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介護を必要とする人が急増する一方で、「ケアマネジャー」の数は減少傾向にある。ケアマネとは、介護が必要な高齢者やその家族に対して、適切な介護サービスを受けられるよう支援する専門職である。正式名称は「介護支援専門員」といい、利用者の状態を評価し、介護サービス計画(ケアプラン)を作成することが主な役割である。
また、介護サービス提供事業者との調整や、利用者やその家族への相談対応など、多岐にわたる業務を担っている。介護保険制度の下で、利用者が最適な介護サービスを受けられるようにするための重要な役割を果たしており、逆にいえばケアマネがいなくては介護サービスが受けられない。いわば介護の“司令塔”のような存在だ。
そのケアマネが不足しているとの声は現場でよく聞く。2020年度に約18万8000人だったケアマネ従事者は、22年度には約18万3000人と微減しつつある。
また、1998年度に行われたケアマネの試験の第1回には約20万7000人の受験者がいたが、2023年度は約5万6000人まで減っている。そして2024年度は前年より4.9%減り約5万4000人だった。受験者減少の背景には、試験の難易度の高さだけでなく、資格取得後の業務の厳しさが影響していると考えられる。
さらに、ケアマネの年齢構成についても問題が浮き彫りになっている。2022年度のデータによると、60歳以上のケアマネの割合が増加しており、逆に45歳未満の従事者の割合は減少している。60歳以上のケアマネジャーは全体の約33.5%を占めており、今後の定年退職によりさらなる人材不足が懸念される。これに対し、若年層の参入が不足しているため、介護現場における人手不足の問題はますます深刻化することが予想されるのだ。
こうしたケアマネ不足の問題に対応するため、厚労省ではいくつかの対策を検討している。例えば、受験対象となる指定の国家資格の範囲を広げることで、より多くの人材がケアマネの資格を取得しやすくすることだ。また、保健・医療・福祉分野で一定の教育を受けた者がケアマネとして活動できるようにするための養成ルートの確立も検討されている。これにより、若年層を中心に新たな人材を取り込むことが期待されている。
さらに、潜在ケアマネの職場復帰を促進するための取り組みも行われている。具体的には、自治体が離職したケアマネに対して復職を提案することや、職能団体と協力して再研修の案内を行うことである。この再研修にはオンラインでの参加が可能な形式を取り入れ、復職を希望する人が気軽に参加できるよう配慮されている。
また、復職後に受講する研修内容の緩和も提案されており、こうしたことにより離職した人が戻りやすい環境を整えることが目指されている。
その一方で、シニア層のケアマネが長く働き続けることができる環境の整備も重要な対策として挙げられている。ケアマネの業務は体力的な負担が大きく、年齢を重ねるごとにその負担が増すため、働き方の柔軟化や延長雇用の導入が必要だ。シニア層のケアマネが無理なく働けるように、業務時間の短縮や勤務日数の調整を行うことで、地域に根付いて長く活躍できる職場環境をつくることが求められている。
ケアマネの離職防止策として、待遇改善も不可欠だ。例えば、厚労省の「令和4年度 介護従事者処遇状況等調査結果」によると、ケアマネの平均給与額(常勤者)は2022年9月時点で36万1770円。これは各種手当も含んだ金額で、彼らの専門性の高さや、業務量などを考慮すれば、決して恵まれた金額とはいえないだろう。
ケアマネの離職の要因として「賃金・処遇面」が大きな割合を占めていることもあり、労働条件を改善することで離職を防ぐことが期待されている。とくに、賃金の引き上げやキャリアパスの整備を行うことで、ケアマネが安心して働き続けられる環境をつくることが重要である。
(写真提供:Photo AC)
厚労省では、「ケアマネジメントに係る諸課題に関する検討会」を2024年4月から開始し、高齢者介護の現場で直面する課題に対処するための議論が進められてきた。検討会では、ケアマネの業務内容や主任ケアマネの役割、地域包括ケアの課題などが取り上げられ、その目的は効果的なケアマネジメントを通じて介護サービスの質を向上させることである。
しかし、検討会の議論を通じて浮き彫りになった根本的な問題は、先に述べたように深刻なケアマネの不足だ。
この検討会の内容を簡単に紹介しよう。まずはケアマネの業務について、その範囲の明確化が重要な課題として挙げられた。
ケアマネは利用者やその家族から多岐にわたる相談を受けており、介護サービスにとどまらず、日常生活全般に関する支援を求められることが多い。例えば、ゴミ出しや金融機関での手続きといった、本来の業務を超える依頼にも対応しているケースが多々見られる。こうした対応に関して、どの範囲までがケアマネの責任であるかを明確にすることが求められている。
また、緊急時の対応や家族への支援など、ケアマネに過度な負担がかかっている現状があり、それに対する評価や報酬の見直しが必要であるとの意見も検討会で出された。これらの過重な業務負担が、ケアマネの不足をさらに深刻化させている現状があるのだ。
主任ケアマネの役割についても、重要な課題が議論された。主任ケアマネは地域でのケアマネジメントの質を高める役割を担っており、他の職種との連携や、地域全体での支援体制の構築が求められている。しかし、現場では主任ケアマネが多くの時間を事務的な管理業務に割いており、その結果、現場での指導や他のケアマネの育成に十分に時間を割けていない。
このような状況を改善するためには、管理業務を効率化し、主任ケアマネが本来の役割に集中できる環境を整えることが必要である。主任ケアマネが本来の役割を果たせないことが、現場におけるケアマネ不足をさらに悪化させているのだ。
人材確保に関する議題も重要な焦点であった。ケアマネの資格を取得しても、実際に業務に従事する人が少ない現状が問題視されており、資格取得の条件を緩和すること、研修制度を見直すことが検討されている。
また、ケアマネの離職防止や、離職したケアマネの職場復帰を促進するための対策として、研修の柔軟化や待遇改善が求められている。ケアマネが業務の厳しさや低賃金を理由に離職するケースが多く、このままでは人材不足が深刻化することが懸念される。
※本稿は、『衝撃ルポ 介護大崩壊 お金があっても安心できない!』(宝島社)の一部を再編集したものです。