通常運賃とは別にグリーン料金を支払うと利用できるJR在来線のグリーン車。普通車よりも快適なはずのこの車両でも、実は厄介な乗客トラブルが多発している。前編記事『「グリーン車で肉まん食うなんて非常識だろ!」…他の乗客がニオイに大迷惑でも鉄道乗務員が注意しづらい「ある事情」』につづき、現役鉄道マンが目撃したグリーン車トラブルの数々を紹介する。(全2回の2回目)
指定席タイプではないJR在来線のグリーン車を利用するには、Suicaグリーン券、あるいは紙のグリーン券のいずれかを購入する必要がある。
Suicaグリーン券を購入のうえでグリーン車を使用する場合は、座席上部の読み取り部にタッチすることでランプが赤色から緑色に変わる。そのためグリーン券を購入したことが第三者にも一目でわかるようになっている。
一方、紙のグリーン券の場合は、グリーン券を確認した乗務員がランプを赤色から緑色にする必要があり、駅間によっては、車内改札を受けないまま下車する乗客もいる。
そして、この仕組みを知らない乗客がトラブルを起こすケースが多々ある。
かつて私が乗務員をしていたときもこんな出来事があった。
「お前の座席は赤ランプのままだろ!グリーン券を買ってから座れよ!この犯罪者が!」
どうやら乗客同士で揉めているようだ。非常に強い語気で一方的に責めているのが遠くからでもわかった。現場に急行すると30代くらいの男性が10代くらいの男性を責め立てている。
「どうなさいましたか?」
両者に声をかけると、30代くらいの男性のほうが口を開いた。
「こいつ、グリーン券を買わずにここに座ってるんですよ。こっちは金払ってんのにさ。タダでグリーン車使うなんて許せないでしょう」
なぜ、グリーン券を所持していないとわかるのか。男性に確認すると「こいつの座席のランプが緑に変わっていないからだ」と言う。
突然文句を言われてフリーズしてしまっている男性に「紙のグリーン券を持っていたりする?」と尋ねたところ、スッと紙のグリーン券を私に差し出した。
一方の男性は、「なんでグリーン券を持っているのにランプが緑色に変わらないんだ!座席が壊れている」と、うろたえ始める。
「紙のグリーン券は、乗務員が確認してランプの切り替えを行わないと緑色に変わらないんですよ」
私の説明を聞いて男性の顔がみるみる青白くなっていく。「そんなこと全然知らなかった……。私の勘違いで本当にすみませんでした」と若い男性に対して深々と頭を下げていた。
自分はグリーン券代を支払っているのに、他人がタダ乗りしているのは許せない。その気持ちはよくわかる。ただ、ランプが赤色でも不正乗車でない場合もある。いきなり相手を責め立てるのではなく、冷静な対応をしていただきたい。
公共性の高い鉄道では、普段の生活では出会うことのないクセの強い乗客にも出くわす。最後は、グリーン車で大暴れした高齢男性の話を紹介したい。
車内改札中、男性から「あっちのグリーン車で女の子とお年寄りが揉めている」と言われ、急いで現場に向かった。
「若いんだから席を譲りなさい!」
到着すると、喚き散らす男性高齢者に10代くらいの女性が怯えている。「この人が急に近づいてきて、私に席を譲れって言うんです。グリーン券も持っていないのに……」と女性が助けを求めてきた。
あいにくこの日、グリーン車は満席で、男性はとにかく座りたかったのかもしれない。だからといって彼に正当性はまったくない。
「そもそもこのお客さまが席を譲る理由がないですよね。若いことを理由に席を譲る必要もありませんし、こちらの方は普通運賃とは他にグリーン券代も支払っています」
それでも高齢男性は「若者は年寄りを労わる必要がある。グリーン券代なんて安いんだから早く代われ。俺はこの座に座りたいんだ」と繰り返し喚き散らす。その後も説得を試みるが、一向に納得してもらえない。
このままでは埒が明かない。次の駅で駅係員に対応してもらおうと考えていたところ、ふと気がついた。以前も同様に若い女性に因縁をつけて警察沙汰になった名物乗客にそっくりなのだ。トラブルメーカーの顔は絶対に忘れない。
「あなた、以前も若い女性とトラブルになっていましたよね?これ以上ご理解いただけないようでしたら、次の駅で警察に引き渡します」
毅然とした態度で伝えると、高齢男性は先ほどとはうってかわってしどろもどろになる。そして、ぶつぶつと文句を言いながら、グリーン車から去っていった。
乗客との意思疎通が困難と判断した場合は警察に応援を要請するなど、他の乗客の安全を守るため、鉄道会社にはこれまで以上に毅然とした対応が求められている。
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