トランプ米大統領の「関税」をめぐる予測不能な動きや、党内で持ち上がる減税論に石破政権は対応できているように見えない。支持率低迷で夏の参院選も自民党劣勢が予想されるなか、存在感を高めるのが先の総裁選で最多の党員票を獲得しながら決選投票で敗れた高市早苗・前経済安保相(64)だ。党内外から“高市待望論”も浮上するなか、石破政権とその“トランプ対応”、減税について、どう考え、どう動くつもりなのか。ノンフィクション作家の常井健一氏が斬り込んだ。【全3回の第2回。第1回から読む】
【写真】高市早苗氏インタビューアザーカット
──(総裁選で)負けたら、厳しい評価を受けました。「保守色が強すぎて警戒感、拒否感が広がった」と、党内の声が報じられました。
「最後の討論番組で、失敗しました」
──え、どこのですか。
「BSフジの『プライムニュース』でした。司会の反町理さんになぜか靖国問題を長いこと聞かれたんです。候補者9人が揃うなか、私だけ集中砲火を浴びた気がしましたね。あれで、『高市は総理になっても靖国に行く人だから、中国や韓国との関係が悪化する』という懸念が広がったと聞きました」
──実際には、どうするつもりですか。
「どういう立場になっても、信教の自由はありますし、国策に殉じられた方々に感謝の誠は捧げたいので、お参りは続けます。でも、テレビで言わなくていいことを言ってしまった。なんとなく右翼扱いされていますよね」
──最近の雑誌に、「日本版マリーヌ・ルペン」とされ、フランスの極右政党のような新党立ち上げの憶測が書かれました。
「つくるわけないし、私は穏健保守ですよ」
──安倍元首相でも、靖国公式参拝は2013年末を最後に控えました。
「あの時、安倍総理は衛藤晟一首相補佐官を米国に派遣して、ホワイトハウスと話をつけてから参拝したのに、あとで米国から非難されました。以後、参拝されなかったのは、オバマ政権に裏切られたからでしょう」
──「高市首相」なら?
「本来、日本国のために亡くなった方をどう慰霊するかは私たち日本人が決めることで、他国に外交問題にされる話ではないのです。しかし、不要な摩擦を起こす必要もないので、少なくとも、同盟国への根回しは整えたうえでお参りします」
──石破政権が中国に急接近するなか、石破首相と王毅外相の会談内容について、中国側が虚偽の情報を流しました【※注】。
【※注/3月21日に石破首相が中国の王毅外相と会談した際、中国外務省は石破首相が日中間の問題などについて「中国側が詳述した立場を尊重する」といった趣旨の発言をしたと発表したが、日本外務省は「そのような発言の事実はない」と発表】
「私は、すぐに外務省の幹部に確認しましたよ。本当に総理がおっしゃった発言なのか。向こうが録音をしていた場合、それを晒されても、恥をかかずに済むのか」
──外務省の答えは?
「外交儀礼上、会談を録音することはありません、と。仮に向こうが録音していても、何も困りません──ということでした」
──日米首脳会談も、「高市首相」ならどうしたか。
「大手メディアは2月の首脳会談を『大成功』と報じていましたが、正直に申し上げますと違和感を覚えました。米国に対してたくさんの約束をしましたが、切らなくていいカードを切りすぎたな、と。たとえば、アラスカの天然ガス開発は、米国から天然ガスを買うだけなら、日本のサプライチェーン強化に資するのですが、開発段階からの参加は、莫大なコストがかかるし、リスクも大きすぎます。あの案件は、温存して、最後に切るべきカードでした」
──なるほど。
「1兆ドルの対米投資についても、あくまで民間企業の判断です。仮に、日本からの投資が増えても、米国の対日経常収支は赤字になる。その点にも留意が必要なのですが、『赤字』という言葉が大嫌いなトランプ大統領が正しく理解しておられるとよいのですが……。私は、米国相手に数字を出して約束することは、慎重であるべきだと思っています。1980年代の日米半導体協定【※注】で、日本は痛い目にあっていますから」
【※注/半導体市場における日本のシェアが高かったことに伴う日米貿易摩擦を解決するために締結された貿易協定。これにより日本の半導体開発の勢いが衰え、国際競争力を失ったとされている】
──日本製鉄のUSスチール買収計画も、「買収ではなく投資に」と合意して、日本が交渉に成功したとの評価がありますが、そんな単純な話でしょうか?
「あれは、日鉄がかわいそうすぎて、言葉も出ませんよ。だって、買収して経営権を取ってから、日本の優れた技術を注ぎ込んで高品質の鉄をつくるはずが、(日米合意の『投資』の意図が)直接投資ではなくて、証券投資ならありえませんよ【※注】。
【※注/海外企業を買収したりするなど経営権の取得を目的としたものが「直接投資」、利益を得るために株式や債券を購入するなど資産運用を目的としたものが「証券投資」】
かといって、完全に手を引くとなると、日鉄はUSスチール側から莫大な賠償金を請求されかねません。そこで、私は総理に同行した各省の幹部に『日本政府は、日鉄を守るために戦うのか』と確認してみたのですが、『民間どうしの話だから、見守るだけです』という返事でした。向こうは大統領が前面に立って戦いを仕掛けてきているのに」
(第3回に続く)
【プロフィール】常井健一(とこい・けんいち)/1979年、茨城県生まれ。ライブドア、朝日新聞出版を経て、フリーに。著書『無敗の男』(文藝春秋)が大宅賞候補になるなど、数々の独占告白を手掛け、粘り強い政界取材に定評がある。ラジオ番組『長野智子アップデート』(文化放送)にレギュラー出演中。
撮影/田中麻以
※週刊ポスト2025年5月2日号