物価高や人件費上昇を理由として、この2年間で4回の値上げを実施してきた餃子の王将。しかし、さらなるコスト上昇で、直近でも今年2月14日に追加の値上げを実施している。
売り上げは客単価の上昇もあり、過去最高(直営・既存店)を更新しているものの、客数の伸びが鈍化しているのが心配だ。これはディマンドプル型ではなく、コストプッシュ型の値上げにお客さんがついてこれていないのではと推察する。
5回目の値上げを実施した翌月の3月、客数は前年割れとなってしまった。25年3月期(24年4月~25年3月)の1年間で、既存店客数が前年割れとなったのは、ほかに24年7月・10月のみ。これまで値上げしてもあまり影響がなく、いつも混み合っていた餃子の王将だけに、この結果は心配だ。
5回目の値上げ対象となったのは、米と小麦粉の高騰からくる飯類が中心で、多くの人が注文する主食メニューである。しかも、値上げ額が165円と大きなラーメンもあり、また、殆どが100円以上の値上げだった。
餃子の王将はその値上げした分を賃上げ原資にするなど、人を大切にする企業として良いイメージが定着している。しかし、その企業姿勢は評価しながらも、お客さんも生活が厳しい状態だから、行く機会が減ってしまっているのではないだろうか。
餃子の王将は今までも、値上げして一瞬は客数が鈍化するものの、客単価向上とのバランスで売り上げは過去最高を更新していた。
しかし、5回目の値上げ後の3月は客単価が1297円(前年比+12.2%)と上がっており、商品価格の上昇による客単価アップは顧客の来店頻度にも影響を与えているようだ。
この客数の伸びが鈍化している状態を払拭するため、経営陣の動きも活発になっている。その一つとして、アプリ会員を固定化する活動を強化している。
定期的にポイント倍増キャンペーンを実施し集客力を強化しているが、その実施スパンが短くなっている。先月に続き今月も実施しており、2ヵ月連続で実施するのは今までになく驚きだ。
そのキャンペーンも、「ぎょうざ倶楽部会員カード」に10%割引されるなど特典が充実したプラチナカードを前面に打ち出し、誘導する策を講じている。
最も大切な営業基盤である顧客を固定化し顧客生涯価値(Life Time Value)を高めることは重要なことだ。それだけに、新規客の誘致~常連化~固定化に向けて、活動を強化しているようだ。
5回目の値上げリストを見たら、絶対的な常連客が多い餃子の王将とはいえ、客足に影響があるのではないかと思っていた。特に看板商品の王将ラーメンは627円が748円と120円の値上げで約20%アップだ。
ラーメン1000円の壁が話題の中、それでも748円はあの内容からすれば安いと思うが、男性はラーメンだけでは物足りず、ご飯類を追加するから、1000円は軽く越してしまう。ランチの1000円超えは今の時代は仕方ないとは思いながら、来店頻度が減るのは当然か。
麺飯セットや定食の1000円超えは、満足度は高いものの、なかなか気軽には行けないものだ。特に夜の時間帯は追加点数を増やして単価を上げるのが、餃子の王将のビジネスモデルだけに、高くなったというイメージを持たれると先行きが厳しくなる。
それでも町の中華店と比較したらまだ安いし、値上げによる顧客離反は若干あるかなと思っていたが、やはり微減とはいえ、如実に客数に表れている。
しかし、そういった状態でも、値上げを実施した翌月の3月(単月)の売り上げ(直営既存店)は、客単価アップが客数減を補い、 90億4500万円(前年同月比112.1%)となり、大幅な増収だ。
前年同月比で過去最高を更新し、FC売上を含む全社売上は38ヵ月連続で過去最高を更新中だ。25年3月期(通期)でも、売り上げ(直営全店)は 1013億6100万円(前期比 109.5%)と過去最高を更新し、創業以来初めて1000億円の大台を突破するなど、業界内で売り上げ首位を堅持している。この好業績を、客数を含め今後も維持できるか動向が注視される。
餃子の王将がわずか3年間で5回も値上げしたことは、これだけ収益力・資本力がある企業でも先の不確実性を見越し、今のうちに将来不安を払拭した運営基盤を確立しておきたいのではなかろうか。
けっして、業界首位の地位に長くおり、自社を脅かす存在が少ない競争環境にあるという慢心さが出ているのではないと筆者は思う。
お客さんも相次ぐ値上げで行きにくくなったら、他にも町中華店があるので、もう行かないという選択肢もあるはず。だが、それでも人々は餃子の王将に引き寄せられてしまうという現実がある。
値上げしたとはいえ、品質と価格のバランスは、まだまだ競争上の優位性がある。また、安定成長を実現するため、料理のさらなる品質向上を目指した取り組みを継続している。
餃子の改良や麺のリニューアルなどは一例で、基本メニューも常に現状に甘んじることなく、商品のブラッシュアップを図っているようだ。そういった顧客提供価値を高め続ける姿勢が、今後もお客さんの店に対するブランドロイヤリティを高めるのだろう。
中華が食べたくなった際、まず想起するのは餃子の王将になる人が多い。今後も変わらぬ経営姿勢で期待したい。
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