最大クラスのマグニチュード(M)9級の「南海トラフ地震」について、政府の中央防災会議の作業部会は31日、新たな被害想定をまとめた報告書を公表した。
死者数は最大で29万8000人、全壊焼失棟数は235万棟に上り、対策は進んだものの2012~13年の前回想定(32万3000人、238万6000棟)から微減にとどまった。経済被害は物価高を反映し、前回の約237兆円から約292兆円に増えた。
南海トラフ沿いで科学的に起こりうる最大級の地震、津波を想定したもので、見直しは前回想定以来。海岸堤防などは整備されたが、津波の死者は依然多く、報告書は「津波からいち早く避難することが一人ひとりの命を守るためには必要」と強調した。政府は報告書を踏まえ、減災目標を定めた14年策定の推進基本計画を見直す方針。
今回の見直しでは、地形データを高精度化したほか、住宅耐震化や津波避難ビル・タワー、堤防、防潮堤の整備状況などを反映させた。
その結果、高さ3メートル以上の津波が福島~沖縄に襲来し、人が流され命の危険がある「深さ30センチ以上」の浸水域は3割拡大。津波高の最大は高知県黒潮町、土佐清水市の34メートル。「震度6弱以上または津波高3メートル以上」の自治体は、福島~沖縄の31都府県764市町村(前回30都府県750市町村)となった。
被害は、地震や津波の複数パターンを組み合わせ、季節・時間別に算出。死者が29万8000人となるのは、在宅者の多い冬の深夜に発生し、津波からの早期避難率(すぐに避難する人の割合)が20%と低く、人口が多い東海地方の被害が大きいケース。津波の死者は21万5000人で、全体の7割を占める。
負傷者数と避難者数の最大はそれぞれ95万人、1230万人。災害関連死も初めて試算し、東日本大震災や昨年の能登半島地震を基に2万6000~5万2000人と推計した。
過去に南海トラフで起きた地震の傾向を踏まえ、震源域の東側と西側でM8級地震が時間をおいて発生する「半割れ」ケースも初めて想定し、死者数は最大17万6000人。
報告書は、高齢化や人口減少が進めば「より厳しい状況に陥る可能性があり、さらなる人口減少や経済の停滞という悪循環を引き起こす可能性も否定できない」と指摘。行政による対応には限界があるとし、「あらゆる主体が総力を結集して防災対策に臨むことが必要不可欠だ」とした。
◆南海トラフ地震=静岡県沖から宮崎県沖にかけた南海トラフ沿いで起こるM8~9級の巨大地震。政府の地震調査委員会によると、今後30年以内の発生確率は「80%程度」。昨年8月には日向灘でM7・1の地震が起き、地震への備えを求める初の「臨時情報(巨大地震注意)」が出された。