国土交通省によると、既婚者とその親が「同居」している割合は全体の約23%だそうです。共働き世帯の増加や地価の上昇などを背景に「二世帯住宅」の注目度が高まってきている昨今。しかし、当然メリットだけではないようで……。とある家族の事例をもとに、二世帯住宅に潜む“落とし穴”とその対策方法をみていきましょう。株式会社FAMOREの山原美起子CFPが解説します。
山本誠さん(仮名・75歳)は現在、2歳年下の妻敏子さん(仮名・73歳)と2人暮らしです。夫婦の主な収入は月24万円の老齢年金で、そのほかに3,500万円の貯蓄があります。
長いあいだ不妊に悩まされてきた夫婦は、40代でようやく授かったひとり息子の直人さん(仮名)を大切に育ててきました。
直人さんは優しく明るい性格で、大学時代に同じサークルで出会った同い年の菜穂さんと30歳で結婚。
その後、菜穂さんを連れて実家に挨拶に訪れた直人さん。朗らかな人柄の菜穂さんは、両親ともすぐに打ち解けました。その日、母の敏子さんと楽しそうに夕食の準備をしている姿をみて、直人さんは菜穂さんに打ち明けました。
直人さん「実は、いずれは同居して親の面倒をみようと思っているんだけど……。考えてみてくれないかな?」
恐る恐るそう尋ねると、予想に反して菜穂さんは前向きでした。
菜穂さん「お義父さんもお義母さんもすごくよくしてくれるし、私は大丈夫だよ!」
しばらくして、直人さんと菜穂さんのあいだに念願の第一子が誕生。誠さん夫妻にとっては“待望の初孫”です。
誠さん「直人の小さいころによく似ているよ」敏子さん「そうねぇ。でも、目元は菜穂さんにそっくり。可愛いわぁ。」直人さん「いざ親になると、母さんや父さんの気持ちがよくわかる。授乳に寝かしつけで菜穂も俺も寝不足だけど、この子のためならなんでもできるって思うね」敏子さん「そうでしょう。困ったときはいつでも頼ってね。しばらく菜穂さんも大変でしょうから、落ち着くころまで泊まっていってもいいのよ」直人さん「あぁ、それでちょっと相談があってさ。……もしよかったら、俺たちと一緒に住まない?」誠さん「えぇっ!? いや、俺たちは大歓迎だが、菜穂さんは大丈夫なのか?」菜穂さん「はい。初めての育児で不安もあるし、お義母さんやお義父さんがいてくれると心強いです」敏子さん「まぁ! 喜んで協力させてもらうわ!」
誠さん「直人の小さいころによく似ているよ」
敏子さん「そうねぇ。でも、目元は菜穂さんにそっくり。可愛いわぁ。」
直人さん「いざ親になると、母さんや父さんの気持ちがよくわかる。授乳に寝かしつけで菜穂も俺も寝不足だけど、この子のためならなんでもできるって思うね」
敏子さん「そうでしょう。困ったときはいつでも頼ってね。しばらく菜穂さんも大変でしょうから、落ち着くころまで泊まっていってもいいのよ」
直人さん「あぁ、それでちょっと相談があってさ。……もしよかったら、俺たちと一緒に住まない?」
誠さん「えぇっ!? いや、俺たちは大歓迎だが、菜穂さんは大丈夫なのか?」
菜穂さん「はい。初めての育児で不安もあるし、お義母さんやお義父さんがいてくれると心強いです」
敏子さん「まぁ! 喜んで協力させてもらうわ!」
こうして相談の末「お互いのプライバシーを保ちつつ、困ったときは助け合えるように」と、約5,000万円の二世帯住宅を購入することにしたそうです。
大喜びの誠さんは「せめてものお礼ができれば」と、住宅資金贈与の特例を活用して1,500万円(当時)を生前贈与し、住宅資金の一部を援助することに。残りの3,500万円は直人さん名義で住宅ローンを組みました。
月々の返済額は12万円で、直人さんの年収は650万円。返済比率も30%未満に抑えられており、金融機関の審査もすんなり通過しました。
こうして誠さん夫妻と直人さん一家の3世代で、幸せな同居生活がスタートします。しかし……。
二世帯住宅での暮らしを始めて2年後、山本さん一家に暗雲が立ち込めます。直人さんの勤務先が不渡りを出して倒産したのです。
焦った直人さんは給料重視ですぐに転職するも、そこはノルマの厳しいブラック企業でした。慣れない仕事のストレスと過労で体調を崩した直人さんは入院し、休職を余儀なくされます。
子育てにもお金がかかるなか、給与収入がなくなったうえ入院による出費がかさみ、500万円あった貯金はものすごいスピードで目減りしていきます。そして、月12万円のローン返済が困難になってきました。
一家の危機に、誠さんはローンの肩代わりを提案。とはいえ、年金暮らしの誠さんも出費はカツカツです。悩んだ末、誠さんはお金の専門家であるFPへ相談することに。
国土交通省が実施した「家族の住まい方の実態」についての調査※によると、既婚者とその親が「同居」している割合は全体の約23%でした。介護などの理由から、高齢になるにつれ同居率は高くなっています。
※ 出所:国土交通省「既婚者とその親との住まい方」調査結果。全国1万人に対しアンケート調査を実施。
金銭援助などにより経済的負担が軽減されたり、子育て・家事を協力し合えたりと、親との同居には大きなメリットがあります。
一方、子育てに口を出される・日常的に個人的な用事の送迎を頼まれる、生活リズムのズレにより双方にストレスがかかるなど、親との同居にはデメリットも少なくありません。
こうしたなか、親との同居によるメリットを享受しながらデメリットを減らす選択肢のひとつとして「二世帯住宅」があります。二世帯住宅であれば、適度に生活スペースを分離できることから、双方がプライバシーを保ちつつ快適に暮らすことができそうです。
しかし、この二世帯住宅にも見落としがちな問題点があります。
二世帯住宅は家族構成やライフスタイルに合わせて設計されることが多いため、売却時に購入希望者の需要とマッチする確率が低いというデメリットがあります。
ほかにも売却までに時間がかかる、リフォーム費用がかさむといった理由から敬遠されがちな二世帯住宅。売却してすぐに現金化したいと考えたときに買い手が見つかりにくい点は、二世帯住宅のデメリットでしょう。
また、仮に住宅を売却して賃貸物件へ移った場合も、誠さん夫妻は一生続く家賃の支払いで老後資金不足のリスクが高まります。また、療養中の直人さんにとっても、自宅売却や引っ越しは大きな負荷となるでしょう。
他方、売却せずに二世帯住宅に住み続けるとしても、70代で年金生活の誠さんがローン審査を通過する見込みは低く、肩代わりも現実的ではありません。
FPはこれらを踏まえ、直人さん名義の住宅ローンをどのように返済するかに焦点をあてて、3つの対策を提案しました。
「団信(団体信用生命保険)」のように、住宅ローンを直接補償していない商品であっても、ローン返済には保険金や給付金をあてることが可能です。
直人さんが加入中の団信は、支払事由が被保険者の「死亡」「重度障害状態」となっていたことから、病気療養中の直人さんは該当しませんでした。ただ、直人さんの病気(過労)が業務に起因するものであれば、労災保険から支給される「医療費の全額支給」や「休業補償」、労災が適用されない場合は健康保険から支給される「傷病手当金」を申請します。
また、加入している民間保険に「入院給付金」など該当するものがないかチェックしましょう。
一定期間だけ減額するなど、住宅ローンの返済条件を変更することで家計負担を軽くできる可能性があります。
ただし、減額分は当然あとから返済しなければならないため、直人さんが仕事に復帰する見込みがある場合に有効な方法といえます。
親子で保障内容が重複している保険の見直しや、光熱費の共有化、食料の共同購入など、二世帯同居の利点を生かしたコスト削減を検討します。
直人さんの復職が難しい場合は失業保険の活用や負担の少ない仕事への転職を検討し、親世帯の協力を得て共働きで収入減をカバーすることも検討の余地があるでしょう。
結局、直人さんは会社を退職。体調を考え、在宅ワーク中心の映像制作会社へ転職しました。給料は大幅に下がりましたが、誠さん夫妻の積極的な育児サポートで、菜穂さんがフルタイムで復職することに。そのため世帯年収はさほど変わらず、住宅ローン返済の目処が立ちました。
誠さん「息子も少しずつ元気を取り戻し、ホッとしています。一時は『いったい誰を恨めばいいのか』と二世帯住宅にしたことを後悔しましたが、やはり家族で心地よく支え合えるこの住まいが、私たちには合っているようです」
今回は結果的に丸く収まった事例を紹介しました。ただ、住宅ローンが払えず滞納が続くと、ローン残債の一括返済を求められるのが一般的です。間違った判断をしないためにも、ローン返済が負担に感じた際には金融機関や専門家に早めに相談しましょう。
二世帯住宅を購入する際には、長期的な視点で慎重な検討が必要です。先述した売却の難しさに加え、家族構成の変化なども考慮すべきでしょう。子どもの独立や親の介護、相続など、ライフステージの変化に対応可能な設計や契約ができると安心です。
購入したあとに後悔しないためにも、家族全員が納得できる住まいづくりを目指しましょう。
山原 美起子株式会社FAMOREファイナンシャル・プランナー