「石破さんは、この半年で一番の窮地に直面していると思う。衆議院選挙で負けたときよりも悪い。お金にはクリーンなイメージがあっただけに、有権者だけでなく、自民党内でも落胆の色が濃い」
「高額医療費の引き上げ問題で二転三転しただけでも痛手なのに、私が地元に帰って耳にした印象では、その10倍、ひどい」
こう語るのは、いずれも自民党内で保守派と目される衆議院議員である。
来年度予算案の衆議院通過にメドがついた3月3日、石破茂首相が首相公邸に衆議院の新人議員15人を招き会食した際、各議員の事務所に秘書を差し向け、10万円分の商品券を配った問題は、一気に、石破氏の退陣に直結しかねない深刻な事態となっている。
商品券配布が表面化した3月6日には、「野党だけでなく与党からも爆詰めされたら辞めるかも」との憶測も流れたほどだ。
石破氏がどう釈明しようと、議員を集め「これからもよろしく」と言えば、これはもう十分な政治活動だ。得意のカレーでも作ってもてなせば良かったものを、商品券の配布は本来なら1発でアウトだ。
「(石破さんは)違法ではないとおっしゃいますけども、僕は違法だと思います」
とは、3月17日、弁護士出身で、日本維新の会代表を務める大阪府の吉村洋文知事が、囲み取材で語った言葉だが、石破氏の行為は、どう考えても、個々の政治家の政治活動に関する寄付を禁じた政治資金規正法(21条2項)に抵触すると言わざるを得ない。
ただ、そんなことより問題なのは、「裏でそういうことをしそうにない人が、お土産代として換金も可能な商品券をちゃっかり渡していた」という事実だ。
しかも「法に触れるのでは?」と質す記者に、「第何条のどの条文を仰っていますか」と開き直った、石破氏のイメージとはかけ離れた姿である。
石破氏に限らず、どの首相にも付きまとうのが「サブロク危機」だ。3月は予算案をめぐる攻防があり、6月は通常国会が会期末を迎える時期で、今年のように重要な選挙が迫るケースもある。
石破氏の場合、維新の提案を受け入れ、高校無償化に舵を切ったことで、2つの危機のうち3月危機は脱したかに見えた。小林鷹之氏や高市早苗氏らへの待望論は若干あっても、石破降ろしの気配は皆無といってよかった。
事実、参議院改選組で積極財政路線の西田昌司氏が早期退陣を求めた程度で、商品券問題でさえも、もともと国民人気が高い石破氏が謝罪すれば、ただちに「石破降ろしにはつながらない」との見方が多かった。
しかし、問題が明るみに出た後の週末、地元に戻った自民党の保守系議員らは、想像以上の悪評を耳にし、「党内抗争は良くないと控えてきたが、これで再び反石破の旗色を鮮明にできる」(前述の衆議院議員)と勢いづいている。
後は、衆議院で過半数を占める野党が、「石破氏が首相のままでいるほうが選挙を戦いやすい」と考えるか、予算の成立と引き換えに首を獲りにいくかなどにもよるが、公明党を含め与党内から「石破氏では都議選や参院選を戦えない」といった声が高まるようだと、石破氏の前途はおぼつかなくなる。
石破氏が5度目の挑戦で手に入れた首相の座を簡単に手放すとは思えない。とはいえ、通常国会前の1月、渡辺喜美元行革相に「4カ月も(首相を)やったからもういいや、と思ってるんです」と語っているように、地位に恋々とする政治家でもない。
筆者は予算成立後の4月、あるいは「サブロク危機」のうちの6月は、注視すべきだと思っている。
その石破氏は、首相に就任してからまもなく半年を迎える。商品券問題は最大のミスだが、肝心の政策や国会運営はどうなのか、筆者は大学教員をしているので、「優・良・可・不可」で採点しておく。
日米首脳会談(2月7日)で、トランプ大統領との初の対面での会談を無難に乗り切り、日米安保条約に基づき抑止を含めたアメリカの支援が確約されたこと、ならびに、AI やエネルギーなどでの相互協力が確認できたことはプラス。ただ、日本にも自動車関税の引き上げが適用されるのか否かなど今後については微妙。
最も高い95万円の基礎控除額が適用されるのは年収200万円までの人。給与所得者の多くが年間2万円程度の減税にしかならない。
国民民主党の主張どおり178万円まで引き上げたなら、年収500万円の人で年間13.2万円もの減税につながるところだったが、8兆円近い税収減を恐れた財務省が「そんなことをしたら首相の首を獲る」とばかりに抵抗し、その勢いに押し切られた点。
参議院選挙を意識したバラマキ。財務省の「高校授業料無償化なら数千億円で済む。103万円の壁引き上げより安上がり」という思惑に、自民党や日本維新の会が踊らされた格好。主計局の吉野維一郎次長ら幹部が維新の議員事務所を回り、予算案への賛成と引き換えに、1つ実績を挙げさせるという飴を与えた財務省の勝利。
この制度、私立高志願者には恩恵があるものの、公立高の定員割れや私立高の授業料値上げという弊害を生じさせかねず、中学の段階から「私立へ」という受験熱を高め、教育費が今以上にかさむというリスクもはらむ。
「自民1強」「政高党低」(政府が党より強い)とされた時代は、国会審議が形骸化し、政策よりも閣僚などの不祥事追及で日程が消化される時期が続いてきたが、昨年の衆議院選挙で自民・公明両党が少数与党となったことで、野党と十分議論し合意形成を図る機運が生まれてきたことは評価できる。
ただし、表面的には熟議に見えても、その陰で、与野党で「握る」(水面下で事前に取り引きする)ケースが減らないのは残念。
石破政権半年を点数化するなら、「50~60点」くらいだろうか。何と言っても、今の日本の現状は、石破氏が国家像として掲げる「楽しい日本」からかけ離れている。
今年も春闘で5%超の賃上げが実現したものの物価高には追いつかず、大企業と中小企業、大都市圏と地方の所得格差は拡大するばかりだ。若者は結婚できず、その結果、少子化が年々深刻化している現状にも具体的な対策を打てていない。
「103万円の壁見直し」や「高校授業料無償化」は、やらないよりマシという政策にすぎない。中小企業で働く人や地方在住の方も豊かさが感じられる政策、若者が結婚して子どもを作ろうと思いたくなる政策を打てないなら退陣すべきだ。
では、「ポスト石破」は誰が最有力なのだろうか。一般的には、先に挙げたように、小林氏と高市氏、昨年秋の自民党総裁選挙で石破氏と争った2人の経済安保相経験者が有力とされている。
しかし、筆者は、以下の3つの点で、この2人の可能性はマスメディアで報じられているほど高くはないと見ている。
石破氏が急きょ退陣した場合、次期首相はいきなりトランプ氏や中国の習近平総書記をはじめ諸外国の「クセ者」と対峙しなければならなくなる点。
次期首相がゴリゴリの保守派だった場合、中国や韓国との関係が悪化するだけでなく、選択的夫婦別姓などで一致する野党が「反タカ派」で結束すれば、首相を決める首班指名選挙で敗れる可能性がある点。
少数与党の状態で首相に就任したとしても短命政権で終わる可能性がある点。
上記のうち、(1)は50歳と若い小林氏には不利で、(2)は高市氏にとって逆風になる。そして(3)は2人とも避けたいことではないだろうか。
そう考えれば、「ポスト石破」のフロントランナーは、安定感があり経験豊富な林芳正官房長官、もしくは加藤勝信財務大臣ということになる。
いずれにしても、石破氏の商品券問題を契機に、しばらく落ち着いていた永田町に動きが出始めたのは事実である。
…つづく<小泉進次郎が首相になったら「日本、終わるんじゃないかと思います」…自民党で噂される、10人の総裁候補《本当の評価》>では、改めて、林芳正官房長官、加藤勝信財務大臣らの評価を2024年の自民党総裁戦から振り返る。
【つづきを読む】小泉進次郎が首相になったら「日本、終わるんじゃないかと思います」…自民党で噂される、10人の総裁候補《本当の評価》