〈《中学受験家庭の壮絶すぎる4日間》偏差値50の中堅校の待合室で母親が“来ないでほしい”と願ってしまった一言「次の筑駒、願書出した?」〉から続く
中学受験をする家庭にとって、多くの学校の受験初日となる2月1日から合格を手にするまでの日々は緊張の連続。
【実際の写真】クッキリと明暗が分かれる中学受験の合格発表当日の様子。涙を見せる子どもも…
5年にわたる取材で中学受験家庭の入試までの道のりを描いたルポ『中学受験のリアル』(集英社インターナショナル)では、詳細な様子を描いているが、入試開始日から合格を手にするまでにかかる時間はそれぞれに違う。すんなりと志望校の合格を手にする子どもがいる一方で、なかなか合格の二文字に出会えずに長く苦しい戦いとなるケースもある。
▼▼▼
中学受験では、受験初日に合格確率の高い学校を受け、安全を確保したうえで2日目以降に偏差値の高い「本番」の受験というスケジュールを組む家庭も多い。
写真はイメージです AFLO
B子さんのケースでは、受験初日に模試でA判定が出ている学校を2つ用意して受験に挑んだ。しかし、待っていたのは予想外の苦戦だった。
午前の受験校は偏差値50台後半の第一志望で、模試ではA判定が出でいたものの倍率が高く、本人も合格は難しいかもしれないという覚悟を決めての受験だった。
夕方に結果を見ると、予測通りの不合格。しかしB子さんも「やっぱりダメだったかぁ」と納得した様子だった。
午後入試の学校は偏差値的に10以上もゆとりがあり、親子共にまさか落ちるとは思っていなかった。
最近は合格発表も全てオンライン化されており、午後入試の場合は夜10時頃に合否が出る。B子さんと母親は、さほど緊張することなくパソコンの画面を開いた。だが、画面に映し出された文字は「補欠合格」という4文字だった。
「うそでしょ……」
親子は思わずつぶやいた。偏差値的には低めだったが、B子さんはこの学校が気に入っており、第二志望に据えていた。なのでこの学校に合格すれば、たとえ第一志望校が残念な結果でもハッピーに受験を終えられると親子は考えていたのだ。
だが、中学受験は計算通りに行かないのが常だ。第二志望の合格を持ってゆとりのある状態で2日目にもう一度第一志望校にチャレンジするはずが、まさかの「補欠」。そして2日目の第2回入試でも合格は叶わず、3日目を迎えた。

プレッシャーを抱える状況が続けば、子どももモチベーションを保つことが難しくなる。午後入試の合格発表があるのは大抵夜で、翌日も入試を控えている家庭の中にはあえて合否を見ずに寝るという家庭もあったが、多くの場合は本人も気になって眠れないため、親子で合否を見るケースが多い。
しかし望んだ結果が出なければ、子どもが大泣きして日付が変わるまで落ち着かなかったという家庭も少なくない。ネット出願が主流となって試験前日の夜中まで出願を受け付ける学校もあるため、全落ち状態が続くと親が深夜に塾に電話し、まだ間に合う学校を受験するための準備が始まる。特に2月3日を過ぎても合格がない場合、レベルを下げるため聞いたこともない学校を薦められることが出てくる。
筆者が取材した中では、最終的に地元の公立中学への進学を選んだとしても、“全落ち”で進学するのと、どこかしら受かった上であえて公立中を選んだのとでは子どもの気分が全く異なってくるからと、塾から「合格体験」を得るための受験を勧められた家庭も多くあった。
2月2日が終わっても1つも合格がなかったB子さんは、2月3日にもう一度本命校の入試を控えていた。しかし塾からは事前に、1回目の入試を逃すと倍率が上がりかなり難しくなると言われていた。
母親は合格が取れそうな学校に出願する方がいいかと迷ったが、塾に紹介された学校は、合格体験のためだけに行くにはあまりにも遠く、本人も受験をする気持ちにはなれず、結局そのまま第一志望校の3度目の入試を受けることにした。

そして迎えた2月3日、「これがダメなら後がない」と思いつめてB子さんを試験に送り出した数時間後、母親のスマホが鳴った。
「B子さんの保護者の方ですか? 〇〇中学です。おめでとうございます。繰り上がりで合格になりました」
電話は「補欠合格」だった第二志望の学校からだった。スマホを持つ手に力が入る。
「本当ですか! ありがとうございます!」
第一志望校最後の入試を終えて出てきたB子さんは、手応えがなかったようで暗い表情だった。しかし母親が繰り上がり合格を伝えると、B子さんは一気に笑顔になり大粒の涙をこぼした。
2月の1日から3日は、関東圏の中学受験家庭の多くにとって1年で最も長い日だ。今宵もきっと多くの家庭で夜の作戦会議が開かれるだろう。受験は最後まで分からない。本人のやる気がある限り、最後まで挑戦する我が子を見守ってあげてほしい。
(宮本 さおり)