2023年7月、札幌市・ススキノのホテルで頭部を切断された男性の遺体が発見された事件。逮捕された親子3人のうち、殺人ほう助や死体損壊ほう助などの罪に問われている父・田村修被告(61)の裁判員裁判の公判が、札幌地裁にて行われている。
【最新写真】殺害現場となったススキノのホテルの生々しい浴室の様子ほか
1月30日、2月4日の公判で弁護側の証人として出廷したのは、死体損壊ほう助などの罪に問われている母・田村浩子被告(62)。検察側が浩子被告を追い詰めるなか、弁護人が検察側の資料の「不正確さ」を指摘する流れになり、大勢の傍聴人が駆けつけた法廷はどよめきに包まれた–ライターの普通氏がレポートする。【前後編の後編。前編を読む】
事件が発覚し、娘・瑠奈被告(30)と夫・修被告は逮捕され、浩子被告も任意の取調べを受けた。検察官は今回の公判で、その取調べの際に作成された供述調書をもとに質問した。まずは犯行に使用したと思われるエタノールを、浩子被告が購入していた点について。
検察官「瑠奈被告からエタノールをできるだけ購入して欲しいと頼まれた」浩子被告「はい」
検察官「(当時、取り調べで)『エタノールを買ったのは“娘の計画”に必要だから?』と聞かれて、『そうかもしれません』と答えていますね」浩子被告「そう書いてあるなら話したのだと思います」
関与をほのめかす供述をしていたと主張する検察官。その他にも、当時の取り調べの内容と今の供述に、食い違う点があると主張する。裁判中、浩子被告は、不本意な膣内射精をされた瑠奈被告の被害者への気持ちとして、「最初は怒っていたが徐々に怒りは収まっていったように感じた」と供述しているが……。
検察官「ただ、取調べではそれとは真逆で、『徐々に怒りが増していた』と供述していませんか」浩子被告「当時は混乱した記憶の中だったので……」
さらに検察官は、死体損壊についての事前認識があったことを問うている。
検察官「弁護人からの質問に対し、『(頭部の状況を見て)新たに損壊するなんて発想はなかった』と答えていますね」浩子被告「はい」
検察官「床に置いてある頭部の状況は」浩子被告「皮が剥がれていて……」
検察官「眼球はありましたか」浩子被告「はい」
検察官「2つありましたか」浩子被告「と思います」
検察官「じゃあ眼球を摘出できますよね」浩子被告「そんな発想できません」
半ば強引にもみえる検察官の尋問。さすがにこれ以上、追及はしなかった。
検察側の追及の後、弁護人からの最終尋問が行われた。検察官は浩子被告への任意の取調べで作成された調書に基づく質問を行っていたが、その引用に弁護人は度々「不正確だ」と異議を申し立てていた。
取調べは休憩を挟みながら、午後0時台に始まり午後10時近くまで続いた。しかし、冒頭の約2時間は録音録画されていなかったと言う。浩子被告と弁護人はこの最終尋問に向けて、録音・録画されている8時間分の音声とその文字起こし、裁判での反訳を確認・準備していた。
弁護人「裁判では調書を引用しながら『エタノールを買ったのは“娘の計画”に必要だから?』と聞かれて『そうかもしれません』と答えたやりとりが明らかになりましたね」浩子被告「はい」
弁護人「しかし(取り調べの際の)録音を確認すると……」
弁護人が反訳をもとにやり取りを再現する。
警察官「エタノールって何に使うの?」浩子被告「何か消毒とかでしょうか」
警察官「何の消毒?」浩子被告「特に聞いていません」
弁護人がつづける。
弁護人「録音でエタノールと合計6カ所で出てますが、『娘の計画に必要』とあった?」浩子被告「なかったです」
弁護人「なぜ調書の訂正を求めなかった」浩子被告「あまりに訂正の箇所があったので」
弁護人「裁判の中で検察官から『計画に必要と話しましたよね?』と聞かれ、『話したと思う』と言ったのはなぜですか?」浩子被告「二度同じことを聞かれたのと、『ありましたよね?』と聞くので、そうなのかなと思ってしまいました」
このような形で、録音が残されておらず、浩子被告が意図しない調書の記載について、弁護側は一つ一つ意見を述べていった。複数あった中で印象的なやり取りを一つ紹介する。
瑠奈被告が被害者と初めて出会い、本意でない性交を終えたあとの感情について。裁判の中で浩子被告は、「最初はレイプされた思いであったものの、徐々に落ち着いてきたと思われる」と、瑠奈被告の心境を証言していた。
弁護人 「裁判の中では検察官から、供述調書をもとに『取調べではそれとは真逆で、徐々に怒りが増していたと供述していませんか』と聞かれていますね」浩子被告「はい」
弁護人 「しかし、調書では『沸々と増加している』と確かに供述していますが、その後に『やはり、沸々と、というのは違って、継続しているくらい』と残っている調書の中ですら表現を変えていますよね」浩子被告「はい」
弁護人 「(検察側が)『徐々に怒りを増していると供述していましたよね?』と聞くのは、誤導だと思いませんか」浩子被告「そう思います」
調書自体は13ページにも及んだが、実際に印字されたのはその半分の枚数であり、残りは訂正を求めた箇所であったという。弁護側の思わぬ反撃に、傍聴席にはどよめきが起こった。
弁護側の指摘の後、検察官から改めて反対尋問が行われた。まずは数々指摘された、調書と録音の内容が違う箇所について。「録音していない時間帯での取調べで供述したのではないか」と問うが、浩子被告は「確認をとれないし、記憶にもありません」とのみ答える。明らかにそれまでと違う、強気な姿勢であった。
しかし、検察官も当然引かない。
検察官「瑠奈被告が被害者と不本意な行為となった後の心情について。瑠奈被告は『絶対に見つけて仕返しをする、殺してやりたい』と思っていたと、(浩子被告の)調書にはあります。しかし、あなたは瑠奈被告がその発言をした時期の訂正は求めましたが、瑠奈被告が発言したこと自体は訂正を求めてませんよね」浩子被告「言葉は聞いたかもしれませんが、本当に実行するとは限りませんし……」
検察官 「“はい”か“いいえ”で答えて下さい」浩子被告「はい……」
一進一退の“攻防”が続き、お互いの主張が激しくぶつかった証人尋問。裁判員裁判では、一般から選ばれた裁判員が抱く「印象」が、判決を大きく左右する。お互いの証言はどのように受け止められるのか–修被告の判決言い渡しは、3月に予定されている。
(了。前編から読む)
取材・文/普通(ライター)