コメの高騰と在庫不足の声が上がる中、政府は「コメは足りている」と主張しています。しかし、専門家からは政府の認識が間違っているとの指摘が出ています。
【写真で見る】政府「コメは余っている」、専門家は「本当にそうか?」と指摘
南波雅俊キャスター:農水省は備蓄米の放出を決めましたが、コメの現状はどうなっているのでしょうか。
2024年のコメの生産量は約679万トンで、生産量が年々減少傾向にある中、2023年と比較すると約18万トン増えています。

一方で、JAなどの集荷業者に集まる集荷量は約215万トンで、2023年と比較すると約21万トン減っています。生産量は増えているのに集荷量が減っていることから、農水省は集荷業者に対して、備蓄米21万トンを放出しようということです。なぜこのようなことが起きるのでしょうか。コメの流通ルートは、▼コメ農家がJAなどの集荷業者にコメを卸すルートと、▼コメ農家が卸・小売業者に直接卸すパターンがあるということです。JAなどに卸すよりも、直接卸すほうが高値になる場合もあり、卸・小売業者側に流れるといいます。この卸・小売業者の中には、コメを溜め込んで価格が上がったところで一気に売り出そうという考えを持っている業者もあるそうです。
江藤拓農林水産大臣は、「需要に見合うだけのコメの量は、確実にこの日本国内にある。このままの状態を放置すれば、主食であるコメがマネーゲームの対象になってしまうかもしれない」としています。
農林水産量の資料によると、2008年から生産量も需要量も基本的には右肩下がりの傾向でしたが、2023年に需要が上がっています。一方で、生産量は下がっているのでギャップが生まれています。インバウンド需要が増えてきているのではないかという見方もあるようです。
東京大学の鈴木宣弘特任教授は「本当の問題は、コメの生産が減りすぎていること。主食米が足りていないのでは」としていて、大きな要因には、事実上の減反政策(農家に転作を求めて補助金を出す)が続いているのではないかと指摘しています。
良原安美キャスター:減反政策の背景には、コメの需要減少が関係していると思いますが、実際、需要は減っているのでしょうか?
東京大学大学院特任教授鈴木宣弘さん:日本人1人あたりが食べるコメの量は減っていて、年間約10万トンずつ需要が減っているといわれています。それに合わせて生産量もギリギリまで減らそうと、調整しようとしてきました。
▼転作して他の作物を作ったら補助金を出すなど、実質、減反政策や、▼政府が「適正生産量」を発表して、生産を誘導するということも続いていました。結局、ギリギリで調整してコメ生産がどんどん減ってきていたところに、インバウンドでコメ需要が増えたり、猛暑で生産が減ったりすることをきっかけに、極端なコメ不足状態を生み出しました。なので、コメは足りているわけではなく、コメ自体が不足していますから、それに対してビジネスチャンスを求めて流通業界が今回動いたということです。
井上貴博キャスター:減反政策は、コメのあまり過ぎが問題となったことから、生産量を調整して農家を守るという背景があったと思います。今、インバウンドで需要が増えていることを踏まえると、もっと生産量を増やして、あまった海外に輸出するという考え方の方が健全だと思います。どうしてそういう方向にならないのでしょうか。
東京大学大学院特任教授鈴木宣弘さん:生産調整を続けてきた背景に、以前はそういうこともあったかもしれません。しかし、今は生産調整をしてもどんどんコメの値段が下がり、30年前の米価の半分以下になっています。効果がなくても需要減に合わせて生産を調整することで、バランスを取ろうという政策は続けざるを得ないということが背景にあったと思います。増産に切り替えて需要を拡大していきたいが、そうするとさらにコメの値段が下がってしまいます。今でさえ農家の時給が10円ほどまで落ちて、「もうコメ作りをやめる」という人が続出しています。そういう状況の中でさらに値段が下がったら、コメ農家の減少も加速してしまうでしょう。コメ農家が継続できるように、増産して農家が赤字になった場合に支える仕組みを構築してうまく回っていけば、消費者も値上がりで困らず、農家も継続できて、さまざまな需要を拡大できるようになると思います。この部分を政策転換で進めていく必要がありますが、財政負担が増えるのではないかといった問題があり、緊縮財政のもとで政策転換にも歯止めがかかってしまっているというジレンマがあるのかと思います。
井上貴博キャスター:コメを作れば作るほど農家が赤字になってしまうということですね。需要と供給のバランスが悪くなって、毎年のようにコメ不足・コメ高騰といった状況になっても困りますね。
元競泳日本代表松田丈志さん:日本人の主食であるコメをもっと日本で作って農家さんも儲かる、海外にも日本の売り物として出していけるような仕組み・ビジネスモデルを作れないのでしょうか。
東京大学大学院特任教授鈴木宣弘さん:やっと30年前の米価に戻って、農家は一息ついているだけです。このままではコメ農家がいなくなり、またコメ不足が生じて大騒ぎになるということを繰り返してしまいます。これを止めるために、何とか増産できるような解決策が必要になります。==========<プロフィール>鈴木宣弘さん東京大学大学院農学生命科学研究科特任教授元農水省官僚専門は農業経済学松田丈志さん元競泳日本代表五輪4大会出場4個のメダル獲得JOC理事宮崎県出身3児の父