札幌市ススキノ地区のホテルで起きた猟奇的殺人事件を巡り、殺人や死体損壊などの各ほう助罪に問われた精神科医・田村修被告(61)の裁判員裁判が18日、札幌地裁で結審した。
被害者の男性(当時62歳)をナイフで刺殺し、さらに自宅で頭部の損壊を重ねたという一人娘の瑠奈(るな)被告(31)(殺人罪などで起訴、精神鑑定中)。「父親も殺害計画を知りながら、凶器などを買い与えて『不可欠かつ重要な役割』を果たした」とする検察側は、修被告に懲役10年を求刑した。(高橋剛志、岡絃哉)
午後4時45分、計約2時間半に及んだ検察側の論告求刑と弁護側の最終弁論が終わり、修被告が証言台に向かった。10回を数えた公判の締めくくりとして、現在の心境を述べるためだ。
「被害者やご遺族、その他の多くの方々に取り返しのつかない苦しみを与えてしまい、申し訳ない気持ちでいっぱいです」と切り出した修被告。公判では「殺害計画は知らなかった」などと一貫して全面無罪を主張してきたが、弁護人を頼らず一人で考えたという最終意見陳述の原稿には、「全て親の責任だと感じており、悔やんでも悔やんでも、悔やみきれない」との言葉も盛り込まれていた。
多重人格や統合失調症のような症状を見せながら自傷行為を繰り返していたという瑠奈被告を刺激しないため、妻の浩子被告(62)(死体遺棄ほう助罪などで公判中)とともに娘の希望に極力応じる生活を続けてきたこと。娘の行為を知りながら、「いずれ捜査の手が及ぶから」と考えて警察に通報しなかったこと。
その悔恨からか修被告の声の震えは次第に大きくなり、「生涯親としての責任を果たしていきたいと思います」と陳述を結んだ時には涙声になっていた。
午後5時、渡辺史朗裁判長が判決言い渡しの期日を「3月12日午後2時」に指定して結審を告げた。弁護人の隣の席に戻った修被告はハンカチで口元を押さえ、退廷する裁判官3人と10人の裁判員・補充裁判員を見つめていた。
従来の庁舎入り口のX線検査に加え、法廷前ではスマートフォンを回収。スマートウォッチなどの録音・録画機能がついた電子機器の持ち込みも禁止……。1月14日に始まった修被告の裁判員裁判では毎回、傍聴人に対する厳重な所持品検査が行われてきた。
こうした厳戒態勢を取る理由を地裁は明かしていないが、浩子被告の第2回公判(昨年7月1日)に出廷した修被告の隠し撮りだという画像がインターネット上に流出したことが原因と見る向きが多い。画像はネット上に残されており、地裁は「適切に対処していく」とする。
法律で禁じられているにもかかわらず、注目度の高い裁判を中心に廷内の隠し撮りは各地で後を絶たない。同様の検査が行われている浩子被告の公判では、第4回(同10月1日)にも“未遂事件”が発生。裁判長が傍聴人の不審な挙動に気づいて退廷を命じ、地裁職員が所持品を確認したところ、録音機能付きのペンが見つかったという。