ママ友づくりはなかなかに難しい。
晩婚化が進んだ昨今、子供の年齢は同じでも、親子ほど年の差が離れているママと知り合う機会は大いにあり、小学校の運動会ともなれば、同じママでも20代から50代までいたりする。
前編に引き続き紹介するケースは、その中でも世代間ギャップを抱えながらも、子育てに邁進していた高齢出産の女性が、考え方の違いや、体力的問題などから、孤立無援の状態に陥り、買ったばかりのマイホームを手放して引っ越しする事態にまで発展した事例である。
北関東在住の香取和美さん(仮名・49歳)が、通っている幼稚園の園長と立ち話をした内容がそのまま保護者会で問題となり、他のママたちから総スカンをくらったのは、前編記事『「まさか、こんなことで幼稚園の保護者会で四面楚歌になるなんて」…“チクリ魔”と呼ばれる49歳ママが味わった「孤独すぎる幼稚園生活」』でお伝えしたとおり。
息子のお迎えにいった際に、他のママからすれ違いざまに「チクリ魔…」と呟かれるなど、いたたまれない状況になってしまったが、それだけで終わらず、香取さんの行動が、再び裏目にでてしまう――。
香取さんと息子が通っていた幼稚園では、週に1回「お弁当の日」があり、料理上手な彼女は、身体が弱い息子のために栄養を重視したお弁当を作って持たせていたというが…
「揚げ物をできるだけ避けて、和食中心の『まごわやさしい』を意識した献立で弁当をつくって持たせていました。一方で他の子供たちはキャラ弁が多かったため、息子はからかいの対象になってしまったのです」
『まごわやさしい』は、栄養バランスが整った食事を意識するときにつかう覚え方で、<ま=まめ類、味噌・豆腐含む>、<ご=こま類>、<わ=わかめ(海藻類)>、<や=やさい>、<さ=さかな>、<し=しいたけ(キノコ類)>、<い=いも類>を使う。
“お友達”が、ピカチューやアンパンマン、ちいかわなどをあしらったキャラクター弁当を持ってくる中、息子さんは、大人が喜びそうな見た目が渋い「茶色弁当」。仲間外れにされた息子さんは、とうとう弁当を食べなくなってしまったという。
「そんなことが起きたあと、幼稚園から『キャラ弁禁止』というお達しが出たんです。今度は立ち話もしていませんが、私は『また園長さんが忖度をしたのか』という胸騒ぎがして確認すると、園長さんに『キャラ弁は栄養が偏る傾向があるし、内容によって子どもたちにヘンな序列が生まれるので、もともと好ましくないと思っていたんです』と言われました。とうぜんキャラ弁つくりを楽しんでいた他のママたちからは総スカンで、『また香取さんが原因で騒動が起きた』と白い目でみられました」
一方で、「キャラ弁騒動」はママたちの間でも意見が割れて、中には「香取さんのおかげで助かっちゃった。キャラ弁って正直面倒だったのよね」と声をかけてくれるママもいたというが、
「どっちにしても、結局私のせいという認識は変わりません。息子もお友達から『キャラ弁がダメになったのはお前の家のせいだ』とイジメられてしまいました」
「何をやっても悪い方に転がってしまう」と悩む香取さんだったが、さらに追いつめられることになる。
「秋の運動会のことです。クラス対抗の保護者リレーという種目がありました。両親のどちらが出ても良いのですが、やはり父親がメインの競技。夫も出場することになり『息子に良いところを見せたい』と、56歳の夫はジムに通ったり、休日はジョギングなどをして当日に備えました。
でも、若さには勝てません。いざ競技が始まると息子のクラスは順調に順位を上げ、夫がバトンを受け取った時は1位だったのですが、夫はどんどん他の若いパパたちに追い抜かれてしまいます。
同じクラスの保護者から『えーっ!?』とか『勘弁してよ~』と、もはや隠す気もない落胆の声が方々からあがり、次の走者からひったくられるようにバトンを取られた夫は見るに堪えないほど落ち込んでいました。結果息子のクラスは3位。夫が戦犯扱いされたのは言うまでもありません」
「たかが幼稚園の運動会で、なぜあそこまでムキになるのか…」
と香取さんは納得がいかない様子だったが、北関東では「子どもの運動会」は有数の「家族イベント」のひとつとなっている。
香取さん夫婦が暮らす地域は、三世代(なんなら四世代)の家族が総出で応援に出向き、場所取りのために保護者が深夜から並ぶのが風物詩と言っても良い状況だ。父親、母親にとっては自分の子どもにも両親にも勇姿を見せられる機会でもあるため、過熱するのは必至なのだ。
「始まる前に、比較的夫に年齢の近いパパが夫のところにやってきて、『お互い若くないんだから、無理はしないようにしましょう』と夫に声をかけてくださったのですが、走り終わった後は目も合わせてくれなかったそうです。
夫はお年寄り扱いをされ、運動会が終わったあとは、『迷惑をかけてしまったのだから、せめて…』と思い、園庭のあと片づけに、私も夫も率先して動いたのですが、他の保護者の方に『お年なんですから無理しなくていいですよ』と追い払われてしまいました」
その日の夜に行われた保護者による「慰労会」にも、香取さん夫妻は呼ばれなかったという。
「かろうじてプライベートでも交流するママ友が数名いたのですが、その日の夜にグループラインから私は削除されていました。
息子も再び『運動会で負けたのはお前のせいだ』とイジメられるようになりました。それでも息子は幼稚園を嫌がるようなことはなかったのですが、登園前や降園後に嘔吐したり、喘息が悪化するなど体調に異変が出てきました。病院に連れて行くと、ストレスが原因だと診断されました。きっと私たちを気遣って登園していたのでしょう。
申し訳なさでいっぱいだった私が息子に『パパとママが年寄りで迷惑かけちゃってごめんね』と謝ると、息子は『ママのせいじゃないよ』と笑顔を見せてくれましたが、その後に『でも、できればもう少し早く僕を産んで欲しかったな』とつぶやきました。身を切られるような思いでした」
プライベートでは他の園児や保護者と関わることなく、義務的に幼稚園に通うだけになった香取さん一家は小学校受験を決意する。
「提案したのは夫でした。『人目を避けるように暮らしているお前たちをこれ以上見ていたくない』といわれました」
目指した学校は、都心近くのベッドタウンにある一貫校。そこに息子は晴れて合格した。
「県外なので引っ越しをすることになりますが、入試の様子を見る限り、それほど若い保護者はいませんでした。新年度からは親子3人胸を張って暮らせそうです」
香取夫婦は、買ったばかりの建売住宅を売りにだし、新天地で賃貸マンションを借りて生活するそうだ。
遅くに授かった子どもを「大切に育てていた」香取さん夫婦。
子どもの健康のために都会から地方に移住し、地域性の違いに戸惑いながらも、子どものことを考えて行動しただけなのに「すべてが裏目に出てしまった」のは、不運だったとしか言いようがない。
かつて孔子と並び、「亜聖」と呼ばれた偉大な思想家、孟子を育てた母親は、子どもの教育に適した環境を選んで住所を三度移し変えたという。
同じく3度目の移転となった香取さん夫婦の決断が、のちに「正しい選択」だったと思える日がくることを願ってやまない。
【つづきを読む】『「母さん、やめて」…交通事故で「他界した父」の身代わりに…15歳だった息子が母から受けた「おぞましい行為」』
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