大阪に本社を置くタビオ。同社の中でも最も知られているブランドが「靴下屋」だ(画像:タビオ公式サイトより)
靴下ブランドを運営するタビオが、同ブランド公式Xアカウントにて“不適切投稿”をして炎上した。きっかけは、あるXユーザーの、破れないストッキングは技術的に作れるが、買わせるために意図的に作っていない――という趣旨の投稿だった。
靴下屋の公式Xアカウントは、12月13日に「何回も言うけど、『破れないストッキング』は都市伝説、陰謀論の領域です。作れるんなら作ってます」と投稿。
その後も「『そんな繊維でストッキングとか靴下作ったら、指飛ぶで?』っと。」など、数回にわたり、「破れないストッキング」に関する投稿を行ったが、一連の投稿に対して「高圧的」「男性目線」といった批判を受けた。
投稿は削除され、企業は不適切な投稿を行ったことを謝罪するに至った。
今回の炎上は、企業のSNS運用における初歩的な過失といってもいいのだが、同じようなことは、企業アカウントはもちろん、個人や団体のSNS運用でも起きてしまう可能性は十分にある。
このたびの靴下屋の炎上を見ていくポイントは、主に下記の3点がある。
1. SNSアカウントの運用ガイドラインの策定と遵守
2. SNS上の批判やクレームにどう対応するのか?
3. 不満を抱えた顧客にどう向き合うのか?
企業が相次いでSNSアカウントを開設しはじめた2010年代前半頃は、ガイドラインが十分に整備されておらず、「中の人」(SNSアカウント運用担当者)の自己判断で運用が行われることが多かった。良くも悪くも属人的で、当時のほうが投稿内容に人間味はあったのだが、炎上することも多かった。
企業が、SNSを重要な情報発信ツールとして位置付けるようになるにつれ、ガイドラインや運用マニュアルが整備され、企業のマーケティング活動の一環として、ルールに基づいて運用されるようになっていった。
しかしながら、SNSの世界では、企業アカウントであっても「人と人とのコミュニケーション」という側面がある。形式的になり過ぎて、親しみが感じられないものになってしまうと、効果も薄れてしまう。
実際、過去の靴下屋のXでは、中の人が「個人的な意見」を投稿して賞賛を集めたことがある。
2021年に、同アカウントから、「靴下産業が3足1000円での販売デフォルトになったことで、国内工場が壊滅的となり、品質低下を招いた」といった投稿をし、「『最高品質』『こだわり』というお客様の選択肢を担保し続けるのが使命かなと思ってます(これは、私の私見ですが)」と締めくくった。
同じアカウントで、2021年に称賛された投稿(画像:タビオ公式Xより)
多くのXユーザーはこの投稿に共感し、同社の靴下の品質の高さ、耐久性の高さを賞賛する投稿を行った。こうした流れを踏まえて、改めて今回の炎上投稿を読み直すと(既に削除されているが)、同社の企業努力をもってしても、耐久性の高いストッキングをつくるのが難しいということを伝えようとしていたことがうかがえる。
ただ、今回に関しては、それが裏目に出てしまったのだ。
投稿が行われた3日後の12月16日、靴下屋の公式Xには、運営会社・タビオの代表取締役名義で「従業員のSNSにおける不適切投稿に関するお詫び」という文書を公開し、「多くの皆さまにご不快な思いをさせてしまいましたこと、深くお詫び申し上げます」「ソーシャルメディアに関するガイドラインの遵守と社員教育を進め、再発防止に努めてまいります」と謝罪をした。
ルールを守ることは重要なのだが、型にはまった優等生は面白くないし、親しみも湧かない。企業のSNSも同様である。バランスをうまくとって成功させるためには、経験とスキルが必要になる。
2つめの批判やクレームへの対応だが、現在でも多くの企業が対応を誤って炎上を起こしている。
SNS上には、企業や商品に対する不満や批判が飛び交っている。その中には、不当なものもあれば、正当なものもある。些細なことであれば、スルーしてもよいし、そうしたほうが賢明であることも多い。
しかしながら、日々努力を重ねている企業にとっては看過できないと思うのも理解できるし、不当な意見や誤解は正したい――と思ってしまうのも無理はない。
古い例になるが、2012年、アパレルECサイト「ZOZOTOWN」について、Twitter(現X)に「送料が高い」と投稿したユーザーに、運用会社スタートトゥデイ社の前澤友作社長(当時)が、同社が運営する「ただで商品が届くと思うんじゃねえよ」「お前みたいな感謝のない奴は二度と注文しなくていいわ」などと一喝して炎上した。
炎上しただけにとどまらず、株価も下落し、前澤氏は謝罪を行い、一時期、送料を完全無料化するという対応を行った。
「不適切な表現」が含まれた投稿をしていた、と謝罪したタビオ(画像:タビオ公式Xより)
さすがに、ここまで厳しい物言いをする事例は最近では見られなくなってきたが、直近でもいくつか対応を誤った事例は見られる。
1つは、1月に起こったレゴランドの炎上だ。レゴランドへの入場の際に不当な扱いを受けたとする来場者が、Xにその内容を投稿した。それを受けて、社長自らが対応を行ったのだが、DMでのやり取りの内容を公開するなど対応方法に不備があり、さらなる批判を浴びてしまった。
3月には、車いすユーザーがイオンシネマで利用を断られたことをXに投稿し、映画館の運営会社イオンエンターテイメント社が謝罪に追い込まれるという事案があった。なお、本件に関しては、企業側を擁護する意見もあり、賛否両論が巻き起こっている。
企業の窓口に直接連絡が来るのであれば、企業と顧客の間の対応になるが、SNSに投稿されてしまうと、第三者も巻き込んで炎上してしまうこともある。
炎上を避けるために、「火消し」をしようと思って行動したつもりが、トラブルが起きていることをさらに広く知らしめてしまったり、炎上を加速させてしまったりすることも少なくない。
では、こうした問題が起きたときに、どのような対応をすればよいのだろうか?
消費者からのSNS上のクレームにうまく対応を行って、賞賛を浴びた事例を紹介したい。味の素冷凍食品の「フライパンチャレンジ」という取り組みだ。
2023年5月、Twitter(現Xに)同社の冷凍餃子がフライパンに張り付いている写真が、「油いらないって!!書いてたじゃん!!!嘘つき!!!」というコメントととともに投稿された。
この投稿を見た味の素冷凍食品の担当者は、投稿者に「フライパンを着払いにてご提供いただけないでしょうか? 焦げ付いてしまうフライパンの状態を確認させていただき、研究・開発に活用させていただきたく考えております。」と依頼した。
やり取り自体も誠実な対応として称賛されたが、これにとどまらず、翌月には冷凍餃子が張り付くフライパンの提供を呼び掛けた。最終的には、3520個ものフライパンが集まった。「冷凍餃子フライパンチャレンジ」という専用サイトを立ち上げ、3Dスキャンしたフライパンの画像をアップ。さらに、noteを立ち上げて検証の経過報告まで行っている。
この取り組みは、消費者から称賛を浴びたことに加え、国内外のアワードを多数受賞するに至っている。
(画像:上は味の素冷凍食品公式サイトより、下は同社公式noteより)
さすがに、ここまで徹底的に対応するのは難しいとは思うのだが、顧客のクレームを「不当だ」「わがままだ」と切り捨てるのではなく、顧客と真摯に向き合うことは重要なことだ。
靴下屋の投稿にしても、靴下で行っている耐久性強化の取り組みを伝えつつ、ストッキングでその技術が応用できない理由を感情的にならず、丁寧に説明していれば、炎上も避けられたし、企業としての取り組みを効果的に伝えることもできたのではないだろうか。
今年10月には東京都で全国初のカスハラ防止条例が成立、もはや「お客様は神様」ではなく、従わなければならない存在でもなくなっている。ただ、一見すると不当に見える不満やクレームにも、ビジネスのヒントは眠っている。
“One man’s trash is another man’s treasure. (ある人にとってのゴミは、別の人にとっては宝)という英語のことわざがある。SNS上のクレームもそういう側面があることは覚えておいてもいいだろう。
(西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授)