首都圏を中心に頻発する「闇バイト」事件。犯人を逮捕しても事件報道は止まず、事態は深刻化している。凶悪犯罪を組織する黒幕はどのような手口を使っているのか。気鋭のジャーナリストが迫る。
取材/文・片岡亮
前編記事『JPドラゴンの上に“黒幕”がいる…「ほんとうの指示役」が決して捕まらない驚愕の方法』より続く。
アイルランド出身の世界的な麻薬王、ダニエル・キナハン。
「JPドラゴン」とのつながりは定かではないが、世界中の組織に犯罪の手引きをしていると言われている。ダークウェブの利用者のオルネク氏が事情を良く知っているという。
「彼はヨーロッパのコカイン密輸の約3割を牛耳り、世界中で資産凍結されてもなお多額の隠し財産を持っている。銃器や麻薬の密売の際にダークウェブを用いていると言われ、FBIにキナハンの親族や友人を含めた約600人のアメリカ入国禁止を発令されているため、現在はドバイの大豪邸で暮らしている。
キナハンの側近には『ダークウェブマスター』と呼ばれる人物がいる。闇バイトをはじめとした犯罪行為で実際に動いているのはその男だろう。キナハンは有名ボクサーとの交友をSNSで明かすなどかなりの目立ちたがり屋だが、マスターは決して表舞台には出てこない」
実行犯が逮捕されても自分につながらないよう、黒幕は痕跡を一切残さない。できる限り、外部とのかかわりも断絶しようとする。
「ダークウェブ上でのやり取りでも、必要な情報以外は絶対にもらさない。日常生活で知り合った人にも、素性は明かさないと言われている」(オルネク氏)
黒幕は、大元の指示をダークウェブ上で行えば、実際の犯行時の手段は指示役に任せることができる。つまり、国外に拠点を置きながら日本で行う犯罪の指揮をとることができるのだ。このことが捜査を一層困難にしているという。
「JPドラゴンのように拠点が日本国外の場合、インターポールや各国のサイバー捜査当局が協力しても、管轄権やデータ共有の壁があるなど、国際的な法的枠組みが追いついていない側面もある。フィリピン現地警察はJPドラゴンやルフィグループの携帯電話を押収し、解析したが、奴らのIT技術は我々の上を行っている。黒幕の存在につながるような証拠は見つけられなかった」(前出・ガルシア氏)
筆者は前出のオルネク氏に、「私がダークウェブ上で闇バイトに応募することも可能なのか」と質問してみた。
すると、「アップロードされたファイルにデバイス情報や位置情報が含まれていたり、匿名ツールを正しく設定できずにIPアドレスなどの位置情報が漏れていたり、暗号化の管理が甘かったりと、第三者に個人情報を与えてしまうことがある。お前の場合、住所も特定できてしまうからリスクもつきまとう」と言われた。
ダークウェブは匿名性がベースになっていても、そこに集う連中の技術力はさらに高いということなのだろう。
オルネク氏が続ける。
「闇バイトに限らず、ダークウェブ上では様々な犯罪が募集されている。指示しているのがマフィアやヤクザとは限らず、引きこもりのパソコンオタクというケースも少なくない。IT技術に長けていることが、現代の犯罪者の第一条件になっている」
少しダークウェブをのぞいただけでも、犯罪募集やマニュアルは無数に見つかる。
マニラ・モリオネス警察署の元捜査官ジョセフ・ガルシア氏は「偽物の情報も含まれているが」と前置きしたうえで、こう解説する。
「ダークウェブを見ていると、『詐欺グループ丸ごと販売』といった犯罪集団と犯行のマニュアルがセットで売りに出されているケースも出てきている。どうやってそんなものが売れるのかは不明だが、いままでのように実行犯から黒幕をたどっていくという捜査が極めて難しくなっているのは確かだ。
海外に比べるとまだまだ日本はダークウェブを使った犯罪の件数は少ない。表の世界でグローバル化が進むように、裏の世界でもグローバル化が進んで、凶悪な犯罪がより身近な場所で頻繁に起こる未来だってあり得るだろう」
「闇バイト」求人がSNS上で溢れ、若者たちが応募してしまう問題には、経済格差や社会的孤立といった背景が存在している。しかし、実行犯たちが次々と逮捕される一方で、究極の知能犯が今後も凶悪犯罪を操っていくのだとしたら非常に恐ろしい現象だ。
「週刊現代」2024年12月7・14日合併号より
JPドラゴンの上に“黒幕”がいる…「ほんとうの指示役」が決して捕まらない驚愕の方法