首都圏で相次いでいる連続強盗事件の捜査や、2022~23年にかけて起きた「ルフィ事件」の公判などで、実行役となった犯人たちの肉声が伝えられている最中の10月30日、東京・三鷹市の住宅に複数の男が押し入る強盗未遂事件が起きた。同日夜に出頭した京都市内の大学生、佐円昌紀容疑者(23)は「SNSでホワイト案件を検索した。逃げたら殺すと言われて従った」などと供述している。逮捕された実行役の多くはSNSなどで「闇バイト」に応募したことが分かっているが、首都圏の事件では指示役の逮捕に至っていない。いわば「逮捕要員」でもある実行役は、どのような経緯で犯罪に手を染めてしまったのか――。
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「殴ったり蹴ったりしないと報酬はあげません」
2022年12月、広島市西区で親子3人を襲い、現金250万円と2440万円相当の金品を強奪した男(18歳=当時、以下同)は指示役からこう告げられ、犯行に加わった。友人とのトラブルなどで借金があり、無心した友人から「闇バイトをやれば」と勧められ、ネットで検索してメッセージを送ると、秘匿性の高い通信アプリ「テレグラム」をダウンロードするように指示された。マイナンバー保険証の写真と、自宅近辺を撮影した動画を送るように指示されたのち、仕事の内容が「タタキ(強盗)」だと分かる。断ると「お前の家、分かってんだよ」「お前の家族、本当に知らねぇぞ」と脅され、犯行に加わった。
「車を運んで日当2万円」
2023年6月、名古屋市中区で時計買取店を襲った実行犯たちは石川県や京都府から集まってきた。「高額でないし、危ない仕事ではないと思った」が、当日になって手袋やハンマーを購入し、車に積み込むように命令される。飯能市の男(20)は彼らの「運搬役」として日当が20万円だったが、当日になって「実行役が来なくなったから」と言われ、運転担当以外に犯行に加わることになった。
「配送スタッフ募集。日当3万円」
2023年2月、特殊詐欺の「受け子」となって逮捕された女(36)は元検察事務官。特殊詐欺の捜査に立ち会った経験もあった。体調を崩して検察庁を退職後、「ジモティー」でアルバイトを見つけた。指定された場所で高齢者から封筒を受け取る――連絡した担当者からは「提携先の探偵事務所の依頼先から書類を受け取る仕事」と説明されたが、実態は特殊詐欺の「受け子」だった。
2023年3月には、X(旧ツイッター)で高額報酬のバイトを募っていた氏名不詳の人物とのやり取りから「米国の仕事をレビューする業務」に応募。途中から「薬を飲みこんで運ぶ仕事」に変わり、覚せい剤などの違法薬物をゴムに包み、計17個を飲み込んでメキシコから成田空港に密輸した男(26)が逮捕された。帰国直後の3月下旬、新幹線に乗車中に意識不明となり、搬送先の福島市内の病院で、尿から覚せい剤反応が出たことから発覚した。
紹介した事件はごく一部である。事態を重く見た警察庁は、Xを通じて闇バイトに加担しないようによびかけるだけでなく、生活安全局人身安全・少年課が「犯罪実行者募集の実態~少年を『使い捨て』にする『闇バイト』の現実~」なる資料を作成・公表している。また、東京都は「特殊詐欺加害防止 特設サイト」を開設しているほか、各自治体や警察本部でもサイトなどで注意を呼び掛けている。
前述した事件のように、少年たちはSNSやコミュニティサイトで「高額報酬」「闇バイト」と検索し、応募している。先輩や友人に誘われることもあるし、「パパ活をするためにTwitterを利用していたら、犯行グループから『パパ活ではないが、荷物を受けるだけの仕事をしないか』旨の連絡が届いた」(警察庁資料)という例もあった。
東京都のサイトでは「危険な求人情報の見分け方」を紹介している。一例を紹介すると、
・「段ボールを運ぶだけ」→中身が現金の可能性がある・「最低1件5万円から支給」→報酬が高すぎ、時給の記載もない・「DMで応募された方のみ!」→連絡のやり取りがDM・「#UD」→#UD(受け子/出し子)闇バイトを示すハッシュタグ
また、「コールセンターでの仕事です。スクリプト通りに話すだけです」というのは特殊詐欺の「架け子」の募集だったり、「上場企業の仕事です」「行政の許可を得ている仕事です」なと“権威”を強調したりする求人もある。また、三鷹の事件のように「ホワイト案件(ブラックではない)」を強調することもある。一方で、「アルバイト求人サイトに正規のハンドキャリーの仕事(日給1万5000円程度)として人材募集広告が掲載されていた。履歴書を送らせるなど一見、正当な仕事だと思ったが」(警察庁資料より)、その後は、
・会社との面接は通話のみで実際に会うことはない・会社の者から「シグナル」を入れるように言われ、以後の指示等は「シグナル」のみ・報酬の支払い方法は指定された場所に現金が置いてある
実際の仕事は特殊詐欺の「受け子」だったという。
「応募した後に行われる“面接”では、応募者の個人情報を収集します。住民票と自撮りの顔写真。家族構成と名前、それぞれ勤務先などや、交際相手の名前と住所、顔写真を要求されたケースもありました。また、住んでいるマンションの入り口から部屋までの道のりを動画撮影するようにとか、報酬の振込用に銀行名と名義、そして口座番号を要求されたケースもあります。こうした個人情報は、犯行を止めようとする際に、脅迫行為と共に悪用されるのです」(警察庁関係者)
アルバイトを申し込み、個人情報を送る。この次が、具体的な仕事の指示となる。そこで「ヤバイ仕事だ」と気付き、断ろうと思ってもそれは容易ではない。上述した個人情報をもとに「自宅に押しかける。母親から狙う」などの脅しから始まり、「逃げたらこうなるよ」というメッセージと共に、男性が殴られている動画が送信されて怖くなったという事例もあった。さらに前出の警察庁資料にはこうある。
「犯行グループは、少年たちが素直に従っているうちは、『お前が一番かわいい後輩』『お前しかいない』『お前だけ特別』などと優しい言葉を掛けてきます。しかし、少年たちが犯行グループから離脱する意思を示した途端、態度を豹変させ、本人や家族に対する脅迫等、あらゆる手段を使って犯行グループからの離脱阻止を図ります」
何よりも問題なのは、「実行役は使い捨てにされる」ことだろう。借金返済や遊ぶ金欲しさから犯罪に手を染めてしまう彼らだが、悲惨な“結末”を迎えることも。まず多いのが、約束の報酬を得られないケースだ。
「犯行後、“金が必要になった。振り込んでくれ”と指示を受け、報酬を全て振り込んでしまったというケースもあれば、“奪った金は全て回収役に渡せ。報酬はあとで振り込む”と言われてそのままという例もあります。“後でまとめて払う”とか“次もやれば渡す”という言葉を安易に信用してしまうのは、犯罪に加担してしまった後ろめたい気持ちから、指示役の言いなりにならざるを得ないからでしょう」(前出・関係者)
さらにひどい事例として「(特殊詐欺の)『受け子』としてキャリーケースを持って全国を転々とさせられた。逮捕されるまで家にも帰れず、ホテルや漫画喫茶に寝泊まりしながら犯行を続けていた」(前出・資料より)。
そして彼らに共通して待っているのは「逮捕」という現実である。
都のサイトによると、最近の闇バイトをめぐる傾向として、募集ターゲットが広がっている。「年齢問わず」という募集広告が増えており、50代以降のシニア世代が応募するケースが出てきているという。より巧妙かつ複雑な手口で「使い捨て要員」の募集は続けられる可能性は高いだけに、より注意が必要だ。
デイリー新潮編集部