衆院選での自公過半数割れの結果、与党からも立憲民主党からもアプローチを受け、空前の「モテ期」にある国民民主党の玉木雄一郎代表。その玉木氏が強く訴えるのが、所得税がかかり始める「103万円の壁」を178万円へ引き上げることだ。しかし、玉木氏のこれまでの言動や財源の問題から、冷ややかな声も多く、早くも暗雲が垂れ込めている。
【写真】玉木氏の「103万円の壁」に対するXポストにこの人が反応
「国民に訴えた政策を一つでも二つでも実現していくとの思いを持って取り組んでいきたい」
玉木氏は11月6日、経済対策を議論する党会合で、大勢の記者を前にこう意気込んだ。会合では、注目されている103万円の壁の引き上げを求める意見も出た。
103万円の壁とは、所得税がかかり始める年収のこと。国民民主党は衆院選で、このラインを178万円まで引き上げ、所得税の課税対象となる部分を少なくすることを訴えていた。
しかし、103万円の壁が178万円に引き上げられると、国民にとっては減税となるものの、約8兆円の税収減が見込まれることから、与党や財務省内では慎重な意見も根強い。
ただ、国民民主党の協力を得られないと法案審議や年度末の予算案審議も行きづまるため、国民民主党の要求をある程度受け入れることはやむを得ず、103万円の壁の見直し自体は進める方針だ。
一方の玉木氏も衆院選直後には「今までより強い交渉力で政策を実現していく」と強気の姿勢を見せたが、10月31日には「100%これをのまないと、1ミリでも変えたらダメだ、という気はない」とも述べ、引き上げ幅などで一定の譲歩をする可能性もにじませている。
ただ、来年度に向けた税制改正の議論は年末に大詰めを迎えるため、短期間での協議には混乱も予想される。
「これまでは官邸と与党だけで事実上決まっていたのに、これからは国民民主党にもお伺いを立てないといけなくなる。小政党で玉木一強体制のため、事実上、玉木氏が首を縦に振るかどうかにかかっている」(霞が関の官僚)
そして、少々はしゃぎ気味にも見える玉木氏に対し、永田町からは冷やかな声も上がる。
「玉木氏は2022年度末、ガソリン減税のため求めてきたトリガー条項凍結解除について『実現に向けた方向性が明らかになった』として当初予算案に賛成、野党としては異例の対応をとり、注目されました。
しかし、政府は結局トリガー条項凍結解除を実施せず。今回も引き上げ幅などをめぐって中途半端な結論で終わってしまったら、玉木氏の責任問題になりかねません」(全国紙政治部記者)
前回のトリガー条項凍結解除交渉の失敗があっても、責任を問う声が党内ではほとんど上がらず、代表を続けてきた玉木氏。
これまでYouTubeやXでの発信にも力を入れ、「支持は広がっていないけど、一部のコアなファンには熱烈に応援される地下アイドルみたいな感じ」(同前)とも言われてきた。
そんな「永田町の地下アイドル」の岐路は、2020年に行われた立憲民主党との合流協議。
ここで当時の国民民主党に所属していた多くの議員は立憲に合流したが、玉木氏は合流せず、残った一部議員で現在の国民民主党を結党した。
「このときも、合流新党の党名や政策の方向性などを協議する中で、次々と玉木氏がゴールポストをずらし、『自分が合流しても代表にはなれないから、このまま合流せずお山の大将でいたいだけ』とささやかれました」(同前)
そんな玉木氏には、ナルシシストぶりを表すこんなエピソードも……。
「議員会館の自室で、鏡で自分の顔を見てはニヤけている様子が頻繁に目撃されていました。2018年に結党した旧国民民主党は、民主党時代からの潤沢な資産を引き継いでいましたが、玉木氏が自分を前面に出した広告を打ちまくり、資産が急減してしまいました」(同前)
そんな「ナルシシストなお山の大将」が空前のモテ期を迎えたわけだが、足元は盤石とは言いがたい。
昨年は、玉木氏と代表選で戦った前原誠司氏ら4人が離党。前原氏らは、玉木氏の政府・与党への協力姿勢に不満をもっていた。
そして、今年に入っても元日銀職員の大塚耕平代表代行(当時)が来春の名古屋市長選出馬に向けて離党する意向を表明。元財務官僚の岸本周平氏も2022年に和歌山県知事に転出した。
最近まで支持率が1%ほどで低迷していた党の現状をみて、国民民主の国会議員でいることに限界を感じていたと永田町ではささやかれている。
こうして有力なベテラン・重鎮が相次いで離党したうえ、玉木氏自身も予想していなかった大躍進を遂げたことで、現在の党所属議員には新人も多く名を連ねるようになった。
「めぼしい有力議員がいないため、衆院選で党勢を拡大させた玉木氏の『一強』は続く一方、経済政策の打ち出しには不安が出てきます。
そもそも、今回の『103万円の壁』引き上げも、党学生部の提言をすぐに取り入れたもの。現場の声を反映させたと言えば聞こえはいいですが、いざ政策実現となると財源などが問題となっています。
キャスティングボートを握ると注目度も高まり、これまでの内輪ノリも通用しません。ここからが正念場です」(野党関係者)
今や石破茂首相よりも注目されている玉木氏の「モテ期」はいつまで続くか。
取材・文/集英社オンライン編集部ニュース班