自公連立政権が15年ぶりに過半数割れの惨敗を喫した今回の衆院選。石破茂首相は辞任せず続投する意向を示したが、少数与党のままの船出となり政権運営は難航しそうだ。議席を伸ばした立憲民主党が野党を結集して政権奪取に動くことも予想される。今後は30年前に起きたような政権転覆の動きを常に警戒しなければならないのだ。
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総選挙から一夜明けた10月29日、石破首相は記者会見を開き森山裕幹事長も続投させる考えを示した。
このような惨敗を喫した場合、幹事長が責任を取って詰め腹を切るのが通例だが、「今の状況ではこのポジションを森山氏以外の人物に託すことが難しい」とベテラン政治部記者が解説する。
「今後の政権運営には、国民民主党や日本維新の会など中道寄りの野党の抱き込みが欠かせません。まずは11月11日にも開かれる特別国会で首班指名されるため、野党の一部を引き入れる多数派工作をする必要になる。しかし今のところ両党とも連立に参加するつもりはないと言っている。
そうなると今後、首班指名の協力や法案を通すための閣外協力、その先の連立交渉も進めるには、粘り強い交渉力と野党とのコネクションを持っている人が必要になる。森山さんは自民党の国会対策委員長を歴代で最も長く務め、野党各党に幅広い人脈を持つ。菅さんも日本維新の会との太いパイプで知られますが、健康不安を指摘する声もあり、このまま森山さんを続投させざるを得ない状況です」
実際、党内には森山氏に対し「選挙期間中に2000万円を裏金議員に配らなければこんな惨敗を喫しなかった」という不満が渦巻いているというが、
「森山交代論に傾かないのは、自民党の多くの議員たちが現状、森山さんしか幹事長が務まらないとわかっているからです」(同)
一方、この勢いに乗って政権交代を実現させたいと考えているのは大躍進した立憲民主党である。「非自公」が結集すれば、野田佳彦首相を誕生させることは数の上では不可能ではない。実際、立民は首班指名に向けて野田氏への投票を各党に呼びかけ始めているが、「野田首相実現」は至難の業だという。
「まず共産党が野田氏に投票することは絶対にあり得ません。野田氏は代表就任後、共産党と政権をともにすることはできないと明言して、都知事選で党についてしまった“立憲共産党”イメージの払拭に躍起ですし、野田氏が安保法制の当面継続を掲げたことに共産党は猛反発している」(同)
維新と国民民主も外交・安全保障などの政策の不一致を理由に現時点では立民と組むことに前向きではない。
「各党とも、首班指名の1回目は野田氏ではなく『田村智子』『馬場伸幸』『玉木雄一郎』と自分の党の党首の名前を書くのではないでしょうか。石破氏も野田氏も過半数を取れず、決選投票にもつれこむことは確実です」(同)
このまま“少数与党”と“少数野党”による両すくみの状態が続きそうだというのだ。だが、かつてバラバラだった党が大同団結して多数派を形成した例はある。1993年に非自民、非共産の8党派が結集して成立させた細川護熙内閣だ。
「直前の衆院選では自民党が第1党になったものの、過半数は確保できなかったのは、今回とよく似た状況です。どの党が与党になるか不確定のまま、自民党を離党して新生党を旗揚げしていた小沢一郎氏が短期間で8党派の連立交渉をまとめあげ、自民党を38年ぶりに下野させることに成功しました」(同)
もう一つが細川内閣の次に発足した羽田内閣を倒閣した村山内閣である。
「94年に自民党、日本社会党、新党さきがけの3党が結集して発足しました。羽田内閣は、細川政権の与党の枠組みを引き継ぎましたが、すぐに小沢一郎氏を中心とする政権運営に不満を持つ社会党やさきがけが連立離脱し、まさに今の石破内閣のような少数与党になってしまいました。この時、野党だった自民党内で社会党の抱き込みに動いたのが、竹下登元首相のような重鎮や、野中広務さん、森喜朗さん、亀井静香さんといった実力者たち。彼らのような寝技に強い政治家がいれば、このようなウルトラCを実現させることもできるのです。この結果、羽田内閣は64日間の短命に終わってしまいました」(同)
今の与野党に、細川政権や自社さ連立を実現させた時のような剛腕を発揮できる人材がいるのか。
「野党では小沢一郎さんくらいでしょうね。ただ小沢さんも長年、永田町で暗躍し続けるうちに敵を作りすぎた。前回の衆院選では18期目にして初めて選挙区で落選もしましたし、今は立民内で15人程度のグループの長に過ぎませんのでどこまで力を発揮できるものか…」(同)
とはいえ、小沢氏は実際、二度も非自民政権樹立の立役者となった実績を持つ人物だ。自民党内には警戒する声も聞かれるという。
「民主党政権時代には野田内閣の倒閣に動いた過去がありますが、10数年ぶりに恩讐を超えて野田代表誕生の立役者となり、党内での存在感は増しています。国民民主党や共産党、れいわ新選組とのコネクションもあります」(自民若手議員)
自民党は野党の動きを牽制するために、森山氏のような老練な政治家を党の要である幹事長に据えておく必要があるわけだ。
「森山さんも79歳。小沢さんだってもう82歳です。考えてみれば、30年前の大政局を仕掛けた立役者たち、小沢さん、森喜朗さん、亀井静香さんはみんな50代の働き盛りでした。今の与野党の50代の政治家にそんな人が1人でもいるかと考えると、永田町の人材が小粒になったと慨歎せざるを得ません」(前出・ベテラン記者)
まずは首班指名が大きな山場となりそうだが、再び「剛腕」は動くのか。
関連記事【「小沢一郎」が語る“細川連立政権”秘話 「自民党を否定しているんじゃない。一度、地に落ちて引き締め直せばいいんだ」】では、昨年、小沢氏がインタビューで語った30年前の政権交代について詳報している。
デイリー新潮編集部